「告訴せず」
1975年2月1日公開。
青島幸男主演の異色映画。
ヒロイン・江波杏子がスゴイ。
原作:松本清張「告訴せず」
脚本:山田信夫
監督:堀川弘通
キャスト:
- 青島幸男(木谷省吾)
- 江波杏子(お篠)
- 渡辺文雄(木谷芳太)
- 渡辺文雄(木谷春子)
- 西村晃(光岡寅太郎)
- 小沢栄太郎(宗近健太郎・大臣)
- 加藤嘉(大場老人)
- 小松方正(森山寛之)
- 村井国夫(小柳一男・「平仙物産」営業係長)
- 高森玄(刑事A)
- 浜村純(神官)
- 天本英世(神官)
- 稲葉義男(警察署長)
- 佐原健二(間宮・中田派議員の秘書)
- 加藤和夫(佐藤・宗近大臣の秘書)
- 五藤雅博(山脇盛太郎・「平仙物産」営業部長)
- 徳光和夫(TVアナウンサー)
あらすじ:
岡山県A市から衆院選に立候補している木谷芳太(渡辺文雄)は、当落の瀬戸際にいるため派閥を裏切り、反対派のボスから資金三千万円を調達した。
そしてその金の運搬を、妹・春子(渡辺文雄)の亭主で、食堂を経営させている婿養子の省吾(青島幸男)に依頼した。
だが東京で金を受け取った省吾は、その金を持ち逃げした。
それは今まで木谷にあごで使われ、女房からも馬鹿にされてきた愚直な男の反抗でもあった。
「福山誠造」と偽名し、東京から伊香保温泉へ逃れた省吾は、旅館の女中・お篠(江波杏子)を知り、深い仲になる。
ある日、旅館に盗難事件が起き、警察は省吾の三千万円の出所を追求した。
だが、選挙に当選した木谷は、その金が選挙資金だったため、省吾を告訴できず、両者は無関係を主張した。
再び東京に出た省吾は穀物仲買人「平仙」を訪れ、千三百五十万円を小豆相場の「買い」に張った。
省吾の水際だった投資ぶりに「平仙」の山脇営業主任は、外務課の小柳を省吾の係りに指名した。
客溜りにいた大場老人(加藤嘉)は、そうした省吾の一部始終と彼の岡山訛りに注目していた。
そして、もう一人の男も……。
三ヵ月後、小豆の相場は四千五百万円にまで上っていた。
足繁く省吾の家を訪ねた小柳(村井国夫)はいつしかお篠と親密な間になり、彼女にモーテルの経営をすすめた。
やがて小豆生産地の北海道が突然の天候異変でダメージを受けたために、相場は一拠に高騰し、省吾の手に二億四千万円の金が入った。
省吾はお篠に内緒で各六千万円を四つの銀行に預けた。
お篠はモーテルの経営に本腰を入れはじめた。
省吾は土地や建物を法的に登記できないために不動産業・森山(小松方正)の紹介で一億二千万円の中古モーテルをお篠の本名・浜島シノ名義で手に入れた。
モーテルが開店の日、省吾は数々の花輪の中に衆議院議員・木谷芳太の名を発見して驚愕した。
「福山誠造」が木谷省吾であることは、お篠も、小柳も知らない。
省吾の頭に大場老人の顔が浮かんだ。
だが、もう一つの黒い影が彼を見つめていることを気づかない。
モーテルの繁盛を尻目に省吾は売却を急いだが、その行動は森山からお篠に連絡されていた。
数日後、モーテルの一室から出火した。
省吾は逃げ出そうとした際に、何者かに非難バシゴをはずされ地上に落下した。
そしてある殺意を感じ恐怖に襲われた。
しかも、一週間後に退院すると、お篠は「福山誠造」の改印届を出し、五千万円を銀行から借りていた。
さらに東京に預けてあった一億二千万円の預金も完璧に略奪されていた。
だが、戸籍も身分証明もない省吾には、詐欺にかかったことを告訴することができない。
省吾はお篠と小柳の行方をつきとめたが……そこには二人と談笑する大場老人と、お篠を影であやつっていた影の男--伊香保の元刑事の姿があった。
数日後、東京のある川に、一人の男の水死体が上った。
男の洋服には「福山」の印鑑が入っていた。
死体は他殺の疑いもあったが、結局、自殺として処理された。
コメント:
原作は、松本清張の同名長編小説。『週刊朝日』に「黒の挨拶」第1話として連載され(1973年1月12日号 - 11月30日号)、加筆の上、1974年2月に光文社(カッパ・ノベルス)から刊行された。
告訴できない犯罪を利用し、拐帯金と共に蒸発した男の転生計画を描く、長編クライム・サスペンス。
金権選挙を取りまく人間の醜い欲望とうずまく黒い霧の中で抹殺された一人の男の哀歓を描く。
この映画「告訴せず」は、なかなか巧妙な、ダブルミーニングのタイトルになっている。
最初は、主人公・青島幸男が義兄の依頼で運ばされることになった選挙資金の現ナマ・三千万円をネコババする。
しばらく隠していたが、火事騒ぎに巻き込まれて警察に見つかってしまう。
しかし、選挙資金であることから、義兄が自分は知らないと云う。
つまり「告訴できない」ので、結局その現金はうやむやになり、青島のものになるのだ。
これによって得た現ナマを使って小豆相場に打って出た青島は、二億四千万円という大金を手にした。
しかし、情婦の江波杏子が銀行員と組んで、それを奪取してしまう。
「それは俺のカネだ」と青島は叫びたいのだが、彼は戸籍を田舎に残したままで、「福山」という架空の名前で銀行に預けていたため、自分のカネだと主張できず、「告訴できない」。
そして最後は、義兄を使っていた政治勢力の手で暗殺される結果になる。
2019年の神保町シアターの樹木希林追悼特集で上映された。
この「告訴せず」は、樹木希林追悼というより江波杏子追悼と謳うほうが相応しい映画で、彼女があっけらかんとバストトップをキャメラの前で見せていることに場内騒然となったようだ。
本作は、選挙資金が枯渇した与党候補者が時の大臣に資金応援を乞い、候補者の代わりに受取りに行った義弟がその金を持ち逃げするという話で、義弟役を演じたのが当時参議院議員だった青島幸男。
松本清張原作の政治ミステリーものだが、現職議員の青島幸雄が選挙の裏金を持ち逃げする役をやるという発想のおもしろさは買える。
青島幸男という人が、俳優としてもこれだけレベルの高い演技が出来ることに驚く。
作家、作詞家、タレント、司会者、放送作家、映画監督、政治家と、ありとあらゆる仕事をしてきていたが、俳優としても立派なものだ。
このマルチ才能には脱帽する。
代議士の裏金を持ち逃げした男(青島幸男)と逃走先の温泉旅館で知り合った女(江波杏子)のその後の運命を描いた社会派サスペンス。
男が手を出した小豆相場が当たって、順風満帆に思えたが・・・。
普通の女性だった江波杏子が大金を手にするにしたがって変わっていく辺りが面白い。
ヒロインの江波杏子がぶっ飛んだ演技を披露している。
江波杏子といえば、『女賭博師』シリーズの男勝りの鉄火場女のイメージが強いが、この作品では、青島幸男の情婦として、なかなかの悪女振りを演じている。
完ぺきにバストトップまで見せる堂々の濡れ場はハンパない。
この人が主演ではないかというほどの存在感だ。
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