「男はつらいよ 寅次郎紙風船」
1981年12月29日公開。
マドンナは音無美紀子。
男はつらいよシリーズ第28作。
観客動員:144万8000人
配給収入:12億1000万円
脚本:山田洋次・朝間義隆
監督:山田洋次
キャスト:
- 車寅次郎:渥美清
- さくら:倍賞千恵子
- 車竜造:下條正巳
- 車つね:三崎千恵子
- 諏訪博:前田吟
- たこ社長:太宰久雄
- 源公:佐藤蛾次郎
- 御前様:笠智衆
- 棟梁:犬塚弘
- 柳:前田武彦
- 安夫:東八郎
- 小田島健吉:地井武男
- 倉富常三郎:小沢昭一
- 小田島愛子:岸本加世子
- 倉冨光枝:音無美紀子
- 満男:吉岡秀隆
あらすじ:
秋も深まってきた九州。
気ままな旅暮らしの寅は、家出娘の愛子(岸本加世子)と知り合った。
なかなか面白い彼女は、寅のバイに“サクラ”になったりして、二人は稼いだ。
ある縁日。
寅の向かいで、あかぬけた三十女がバイをしている。
光枝というその女(音無美紀子)は、寅のところにやって来ると「寅さんでしょ、主人から聞いてます」と話す。
昔のテキ屋仲間、常三郎の女房だった。
今、重い病に伏している亭主に代わって仕事に出ているという。
翌日、常三郎を見舞いに行った寅は、喜ぶ彼から「俺が死んだら、あいつを女房にしてやってくれ」と言われる。
頷く寅は渡世人の末路に寂しさを感じ、光枝に何でも相談に乗ると手紙を残すと、まともな暮らしをしようと柴又に帰った。
数日後、とらやに愛子がやってきた。
とらやの一同は、愛子が寅の話していた女と間違え、驚いた。
しかし、愛子は店の仕事をかいがいしく手伝い、おいちゃん、おばちゃんも大喜び。
数日後、愛子のたった一人の兄・健吉(地井武男)がやって来た。
マグロ船乗組員の兄は家を空けることが多く、愛子は寂しかったのだ。
その頃、光枝から寅に手紙が届いた。
あれから間もなくして、夫が死に、今は上京して旅館で女中をしていると言う。
寅は、家族を前に、結婚すると告白する。
住まいや就職の心配をする寅に、みんなはオロオロするばかり。
数日過ぎて、光枝がとらやにやってきた。
だが、光枝は寅と結婚するつもりで来たのではなかった。
「亭主の言葉を負担に思っているなら、安心して下さい。寅さんにだって好きな人はいるでしょう。これからは一人で生きていきます」と話す。旅の仕度をする寅を、さくらは止めるすべもなかった。
コメント:
とてもしんみりしていていい映画。
寅さんらしさと、寅さんらしからぬ面が重なり、不思議な違和感があるが、その違和感すらも貴重だ。
音無美紀子扮する倉富光枝の夫(小沢昭一)は寅さんのフーテン友達だ。
彼と九州で再会する前、地元柴又で同窓会があって、同級生には前田武彦や犬塚弘のほか、東八郎が出てきて懐かしい。
彼らはテレビを支えた時代の人々だ。
テレビでおなじみだった人たちが映画にこのように出演すると懐かしさを感じる。
地元で同級生に嫌われていたフーテン仲間の妻を演じる音無美紀子。
夫が余命いくばくもないことを知らされる。
このしんみりしたシーンがとてもいい。
しんみりの対岸、向こう岸には天真爛漫の若き岸本加世子がいる。
音無美紀子のしんみりした存在感を、明るい岸本が補っている。
岸本はまだ二十歳そこそこの時代で、家出した彼女を寅さんが面倒をみる設定だ。
寅さんという人物をここで整理すると、彼は女性を極端にリスペクトする。
性的な肉欲を感じさせず、女性に対しては常に紳士然としている。
これが寅さんの魅力だ。
地井武男が演じる、愛子の兄・健吉は、遠洋漁業に出ている漁師で、荒くれだがしっかり者。
岸本加世子が演じる妹の愛子は、淋しがり屋のフーテンだ。
同じ兄妹でも、寅とさくらとは、真逆なのである。
この二組の兄妹の対比が鮮やかだ。
双方とも親を当てに出来ない境遇だった為、お互いを想う気持ちはひとしおで、その関係性も密度が濃い。
健吉がとらやに駆け込むシーンは、かなり荒っぽいが、その荒々しさの底に潜む愛情を感じない訳にはいかない。
今回の脚本と演出の妙は、まさに山田洋次ならではである。
本作「寅次郎かもめ歌」から寅次郎は恋愛による騒動から、シフトチェンジしたように思える。
加齢により、寅次郎も以前の乱暴者から比べて、大人としての分別をわきまえるようになった。
マドンナに対して肉欲的なことを考えないというのは以前からだったが。
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