「誰も守ってくれない」
2009年1月24日公開。
殺人犯の家族の苦悩を描く異色作。
興行収入:6.4億円。
第32回モントリオール世界映画祭にて最優秀脚本賞受賞。
脚本:君塚良一、鈴木智
監督:君塚良一
キャスト:
- 勝浦卓美:佐藤浩市
- 沙織を保護する刑事。過去に捜査ミスを起こしている。沙織と同い年の娘がいる。執拗に追ってくるマスコミと心を閉ざす沙織に手を焼く。
- 船村沙織:志田未来
- 中学生。兄が逮捕されるまでは、友達に囲まれ平穏な日々を送っていた。突然“加害者の妹”となり、好奇の目に晒される。事件の鍵を握るも、何も語ろうとしない。自分は悪い事をしていないのに、なぜこんなひどい目に遭わなければならないのかと思っている。兄思いで、兄が事件を起こしたのは勉強ばかり強要した父親が原因だと考え、父親を恨んでいる。
- 船村礼二:佐藤恒治
- 沙織の父。直人が中学入学後は勉強ばかり強要して追い詰める。捜査員に「私は直人をしつけてきた」と主張。
- 船村澄江:長野里美
- 沙織の母。家宅捜索中に自殺を図る。
- 船村直人:飯嶋耕大
- 沙織の兄。大学受験生。小学生の姉妹を刺殺する事件を起こす。逮捕・連行は公衆の面前に晒された。元々は沙織とも仲が良くて優しい兄だったが、中学入学後、勉強ばかりさせられるようになってからは笑わなくなり、家でも部屋にこもって話さなくなった。逮捕時も大学受験の勉強をしていた。
- 三島省吾:松田龍平
- 勝浦と共に沙織を保護する刑事。たびたび勝浦とともに「背筋が凍るぜ」とつぶやく。
- 本庄圭介:柳葉敏郎
- ペンション経営者。過去に息子を殺害されている。
- 本庄久美子:石田ゆり子
- ペンション経営者の妻。息子の殺害事件の後、新しい命を宿している。
- 勝浦美菜:荒井萌
- 勝浦の娘(写真と携帯電話の声だけで登場)。
- 尾上令子:木村佳乃
- 勝浦の友人。精神科医で、自宅に勝浦と沙織をかくまった。
- 梅本孝治:佐々木蔵之介
- 記者。加害者の家族らに、「家族は死んで償え!」と言葉を浴びせる。息子が学校でいじめに遭っており、いじめた生徒を庇った学校を加害者の家族を保護する警察に重ね合わせる。
- 佐山惇:東貴博
- 記者。
- 坂本一郎:佐野史郎
- 勝浦・三島の上司。事件を自分の出世の材料にしようと考えている。
- 山本茂:須永慶
- 勝浦・三島の上司。
- 園部達郎:冨浦智嗣
- 沙織が心を許したボーイフレンド。沙織の動画をネットの住人に売って裏切る。
- 稲垣浩一:津田寛治
- 沙織に供述を迫る刑事。
- 森本:柄本時生
- 3年前に本庄の息子を殺害した犯人。
- だいまじん:ムロツヨシ
- ネットに勝浦や沙織の個人情報を流出させ、逮捕される。
あらすじ:
親子4人で暮らしていた船村家の幸福は、未成年者の長男が小学生姉妹殺人事件の容疑者として逮捕されたことで無惨にも崩れていく。
衝撃を受ける両親と沙織(志田未来)に群がるマスコミと野次馬たち。
一家の保護のため、東豊島署の刑事である勝浦(佐藤浩市)と三島(松田龍平)は船村家に向かう。
容疑者保護マニュアルに沿って船山夫婦は離婚し、改めて妻の籍に夫が入ることで苗字が変わる。
中学生の沙織も就学義務免除の手続きを取らされて、同い年の娘を持つ勝浦が保護することになる。
皮肉にも勝浦の家庭も崩壊寸前の状況で、その修復のために娘の美奈が提案した家族旅行の予定もこの事件によって反故になろうとしていた。
マスコミの目を避けるため逃避行を続ける勝浦と沙織だが、どこへ逃げても居所をつきとめられる。
インターネットの匿名掲示板では、船村家に関する個人情報が容赦なく晒されていった。
心労のため、保護の目をかいくぐって自殺してしまう母。
それを知った沙織は、ますます錯乱する。
勝浦がたどりついたのは、伊豆のペンションだった。
主人である本庄圭介(柳葉敏郎)と妻の久美子(石田ゆり子)のひとり息子は、3年前に勝浦が担当する事件で殺害された。
勝浦の失態は、自身と本庄夫婦の心に大きな傷を残していた。
秘密裡に移動しているつもりだった2人だが、その行動はネットに依存する野次馬たちの悪意に追跡されていた。
勝浦は沙織を匿う真相を知った圭介からいったん激しく拒絶させるが、語り合うことで彼の本心に触れる。
一方、いたたまれなくなった沙織はペンションから恋人の達郎(冨浦智嗣)と一緒に逃亡するが、達郎の裏切りに合う。
そして、ネット依存者たちの罠に嵌められるが、勝浦によって救出された。
翌朝、駆けつけた三島たちによって、ようやく勝浦は解放された。
沙織も最後には心を開いてくれた。ペンションを去りながら、娘の美奈に電話をかける勝浦だった。
コメント:
殺人犯の家族を保護する刑事を通じて、歪んだまま暴走を続ける現代社会と人間の信頼と絆を描く社会派ドラマ。
映画公開の初日に、TVでこの作品の前日談にあたる物語『誰も守れない』が放映された。
映画本編だけだと分かり難い部分が、このドラマを見れば良く分かる。
例えば尾上令子(木村佳乃)は父親が襲われ被害者家族となり、刑事・勝浦卓美(佐藤浩市)に保護を受けている。
その前には勝浦がカウンセラーである令子の患者であった。
勝浦と相棒・三島省吾(松田龍平)との関係もTVでは詳しく描かれていた。
映画の中で勝浦が三島を「シャブ漬けにするぞ」とからかうが、これも実際に三島が捕まって本当にシャブ漬けにされた過去からくる言葉だ。
人の家の物を勝手に開けてしまう悪い癖がある。
勝浦が娘の為に買ったプレゼントも、ドラマで娘からおねだりされた高い洋服だ。
映画はTVドラマのラストシーンから始まる。
小学生姉妹殺人事件の容疑者の18歳少年が逮捕され、その妹の保護を命令される勝浦。
かつてこのような事件で、加害者の家族がマスコミなどに叩かれ、自殺したケースが相次いでいるからだ。
そうなると警察としても家族から事情聴取出来なくなったり、先にマスコミに情報を暴露されたのするので、保護せざるを得ないのだ。
加害者の家族にも罪はあるのか?
映画では、まずマスコミの加害者家族への執拗な追及が描かれる。
まるで犯罪を犯した人間と同様な扱いで、自称・正義のマイクを突きつける。
家族の近所の迷惑も顧みず、大騒ぎ。
加害者の家に前の鉢植えなど、壊してもお構いなしだ。
しかし、そんなマスコミでも、未成年の犯罪ということもあって、ある程度のルールは守る。
恐ろしいのは、一般市民の方だった。
自分だけの狭量な正義を振りかざし、ネットでその総てを暴露してしまう。
犯人本人はもとより、その家族の画像までネットに載せてしまう。そして大勢で糾弾が始まる。
自分たちで犯人を裁こうとしているのか。
普段は弱気で何も行動出来ない人間でも、匿名性という保護フィールドの中では、何でも出来てしまう。
自分に火の粉が降りかからなければ、普段言えないような悪口雑言が平気で飛び出す。
ネットによるいじめがエスカレートしていくのも、自分が誰かを知られないから、その相手と面と向かっていないから出来るのである。
ネットによるいじめ問題も今や自殺者が出るほど深刻だ。
いつからこの国はこんな卑怯者ばかりの国に成り下がったのか。
学校などのいじめもとにかく表面には出ない、陰湿なものばかりだ。
こういうものか、急にキレて暴力事件を起こすか、両極端過ぎる。
とにかく日本人は議論が下手な国民だと思う。
どうして、面と向かって相手に自分の思いを伝えられないのか。
そういうことが上手に出来れば、こんないじめや暴力沙汰は起きないのではないか。
この映画では、マスコミの方が最低のルールは守っているのに、ネットの世界は無法地帯になってしまっている現状を痛烈に描いている。
その描写はまるで魑魅魍魎のような扱いだ。
しかし、彼らに罪の意識は全くない。
自分たちが加害者になっているとは想像もつかないらしい。
想像力があまりにも欠如していると思う。
人の痛み、苦しみを感じ取る想像力、思いやりといった気持ちはどこへ行ってしまったのだろう。
主人公の刑事を佐藤浩市が真面目に演じている。
これまでのこの俳優が見せる、斜に構えたエエカッコシイの風貌は無い。
こういう佐藤浩市もなかなか良い。
ヒロインの志田未来が素晴らしい。
本作が映画初主演作だ。
当時まだ15歳だったが、この人の演技力はハンパない。
これからの活躍が期待される。
ラストではいくつかの救いが感じられる。
子供を殺されたペンション夫婦にも、勝浦と沙織の関係にも、勝浦の自分の家族に対する気持ちにも…。
意義のある映画でとても見応えがあった。
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