「舞姫」

1951年8月17日公開。
川端康成の同名小説の映画化。
脚本:新藤兼人
監督:成瀬巳喜男
キャスト:
- 矢木元男:山村聡
- 妻・波子:高峰三枝子
- 長男・高男:片山明彦
- 長女・品子:岡田茉莉子
- 竹原:二本柳寛
- 沼田:見明凡太朗
- 野津:木村功
- 友子:大谷伶子
- 香山:大川平八郎
- 満枝:沢村貞子
- その他:谷桃子、谷桃子バレエ団
あらすじ:
矢木元男(山村聡)は考古学者であるが、妻の波子(高峰三枝子)の家にむかし書生していたという劣性意識から、結婚後、高男(片山明彦)、品子(岡田茉莉子)の二人の成人した子供のある今日まで、夫婦の間には、打ち解け難い垣根が築かれていた。
そうした家庭の冷たさが高男と品子との二人の子供にも反映して、いつか高男は父の味方、波子と同じくバレエで未来を嘱望されている品子は母の子という風に別れてしまっていた。
娘時代から波子を愛している竹原(二本柳寛)と、波子はいまも度々会わずにいられず、竹原をたよって矢木と別れようかと悩むのであった。
品子のマネージャー・沼田(見明凡太朗)は波子への野心から、そうした波子をそそのかすのだった。
弟子の友子が、妻子ある男との恋愛からストリッパーに転向したとき、波子はいっそ友子の生き方を羨ましいとさえ思うのだった。
夫の矢木が波子の家計の苦労を知らぬ顔に、内緒の貯金をしていると知ったとき、波子は竹原と関西への旅に出る決心をした。
だが、その矢先に、高男が父の病気を知らせて来て、波子は再び自分の家へ帰って行く。
一人淋しく「白鳥の湖」の曲に耳を傾ける夫の後姿を見たとき、波子はその心境がひしひしと身に感じられ、夫への新しい愛情にめざめるのだった。
コメント:
原作は、川端康成の同名小説。
朝日新聞に、1950年12月12日から1951年3月31日にわたり、全109回連載された。
『舞姫』は川端文学の中ではあまり注目度は高くはないが、のちの川端の重要モチーフとなる〈魔界〉というものを意識し始めた作品として、言及されることが多い。
しかしその主題は結実することなく未完の様相で終わり、登場人物が真に川端的な〈魔界〉の住人として動き出すところまでは描かれてはいない。
川端作品には、踊子や舞姫の生活を扱ったものが多いが、この『舞姫』は、ヒロインがバレリーナであるという意味よりも、「むしろ、美しいもの、充たされたものを求めて乱舞する人間永劫回帰の姿の象徴」として描かれていると三島由紀夫は説明している。
本作は、まぼろしのような存在になっているようで、数年前にどこかの映画館で上映されたらしいが、DVDはおろか、VHSすら存在していないようだ。
ネット上で発見できたいくつかの画像をここに転載させていただく:
ヒロイン・高峰三枝子と、映画初出演の岡田茉莉子。
小説『舞姫』には、のちに川端文学の重要なモチーフとなる「魔界」の元となった一休の言葉、「仏界易入 魔界難入」が用いられ、「仏界と魔界」という独立した章も設けられている。
川端は『舞姫』の執筆前あるいは執筆中に、この「仏界、入り易く、魔界、入り難し」という言葉に初めて出会い、強く惹かれて作品の主題にしたものと推測されている」そうで、『みづうみ』(1954年)、『眠れる美女』(1960年)、『片腕』(1963年)で明確な流れになっていくようだ。
この映画は、まだその入り口の段階だったのだろうか。
高峰三枝子が演じている元バレリーナの母親が、お金持ちのお嬢さまで、結婚前、離れを貸していた時から、恋人関係にあった彼氏がいて、彼女の結婚後20年たっても、プラトニックな恋愛関係にあるという設定だ。
これぞ川端文学だ。
小説では、彼氏にも妻子があるが、映画では、妻と死別して子供ひとりという、ちょっとW不倫度が下げてある。
この彼氏・竹原を演じているのが、二本柳寛(にほんやなぎ ひろし)という俳優。
この人は、小津安二郎監督の代表作『麦秋』、『めし』などにも出演している戦後を代表する二枚目俳優の一人だ。
山村聰が演じる夫とはもちろん、上手くいってない。
娘は21歳という設定で、戦争が無かったら、バレエで海外留学していただろうし、尊敬している先生は、戦争で脚を悪くしてバスの運転手になっていた。
どんなお耽美な小説であろうと、戦争が落とす影には、幸福なんてひとかけらもないのだ。
娘役の岡田茉莉子が、まだ美少女で可愛い。
だが、デビュー作ながらその存在感は別格で、やはり大女優になる人はスタートから違うと思わざるを得ない。
この映画は、ぜひ動画配信してほしいものだ。









