「黒い画集 あるサラリーマンの証言」
1960年3月13日公開。
殺人事件に巻き込まれたサラリーマンのエゴと苦悩を描く異色作。
1960年『キネマ旬報』ベストテン第2位。
原作:松本清張「黒い画集」より「証言」
脚本:橋本忍
監督:堀川弘通
キャスト:
- 小林桂樹(石野貞一郎)
- 中北千枝子(石野邦子)
- 平山瑛子(石野君子)
- 依田宣(石野忠夫)
- 原知佐子(梅谷千恵子)
- 織田政雄(杉山孝三)
- 菅井きん(杉山ミサエ)
- 小西瑠美(岩本夏江)
- 江原達怡(松崎)
- 児玉清(森下)
- 中村伸郎(竹田)
- 小栗一也(田辺)
- 佐田豊(古川)
- 三津田健(岡崎)
- 西村晃(奥平)
- 平田昭彦(岸本)
- 八色賢典(小松)
- 小池朝雄(早川)
- 佐々木孝丸(裁判官)
- 一の宮あつ子(食料品店おかみ)
- 中丸忠雄(戸山正太郎)
あらすじ:
東和毛織の管財課長・石野(小林桂樹)は、妻(中北千枝子)と子供二人の家庭生活も円満でありながら、同じ課の事務員・梅谷(原知佐子)との情事を楽しんでいた。
七月十六日の木曜日も、いつものように石野は、会社が終ると新大久保のアパートに梅谷を訪ねた。
その帰途、駅の近くで近所に住む保険外交員の杉山(織田政雄)とすれちがい挨拶をかわしてしまった。
妻には、遅くなった理由を渋谷で映画を見て来たからだと言った。
三日後、石野は刑事の訪問を受けた。
十六日の午後九時三十分頃、新大久保で杉山に会ったかどうかと質問された。
会ったと言えば、梅谷との関係を洗いざらいにしなければならない。
破滅を意味した。石野は、会った覚えはないと答えた。
その夜、杉山が向島の若妻殺しの容疑者として逮捕された。
転ばぬ先の杖と、石野は梅谷を品川のアパートへ移転させた。
彼は杉山が犯人でないことを知った。
犯行は、杉山と会った時間に向島で起こっていたのだ。
だが、石野は証言台でも「会った事実はない」と証言した。
杉山の「どうして嘘を言うのですか」という絶叫を聞き流しながら。
--部長の甥の小松(八色賢典)が、梅谷と結婚したいと言い出した。
梅谷もすべてを清算する機会だという。
石野も、波風の立たぬ生活に戻ろうと決心した。
アパートに行くと、梅谷が学生の松崎(三津田健)と只ならぬ関係を結んでいた。
梅谷は、松崎が石野と彼女の間柄をタネに脅迫したのだという。
松崎は会社に現われ、石野に五万円を要求した。
松崎は与太者の早川(小池朝雄)に借りた麻雀の金に苦しんでいたのだ。
石野は三万円で手をうつことにした。
約束の日、約束の時間には間があるので、映画を見て、アパートへ行った。
だが、石野を待っていたのは松崎の死体だった。
暗がりのため、石野の上着、指の先まで被害者の血が附いてしまった。
石野は逮捕された。
弁解は信用されなかった。
刑事は前も映画、今度も映画と言って笑った。
七月十六日の夜、杉山に会ったことを石野は語った。
--石野は釈放された。
しかし、これから一体彼は何をしたらいいというのだろう。
コメント:
松本清張原作映画の初期作品。
松本清張が賞賛した作品の一つである。
「黒い画集」という松本清張の短編集があり、映画化された作品がいくつもある。
本作「証言」の後に、「遭難」、「天城越え」、「寒流」、「坂道の家」も映画化されている。
小林桂樹が一見真面目なサラリーマンを演じている。
だが、この男は、同じ課の女性との不倫という密かな罪を犯し続けていた。
そして、ある日浮気の現場近くで、顔見知りの保険の外交員と鉢合わせして挨拶を交わしてしまったことから、殺人事件に巻き込まれる。
どんどん深みにはまって行く男の心理状態を小林桂樹が熱演している。
この人は、『社長シリーズ』で森繁久彌が扮する社長の良き部下として、常に真面目な会社員を演じていた。
だが、『日本沈没』では、日本の大地震と沈没を予測して、最後まで懸命に戦う博士を演じている。
本作でも、一見真面目な人間がふとした瞬間から奈落の底に落ちて行く様を、その役になり切って演じ切っている。
これが、小林桂樹という役者の真骨頂なのだ。
「黒い画集」という松本清張の短編集があり映画化された作品がいくつもある。
本作「証言」の後に「遭難」、「寒流」が映画化されている。
男関係がにぎやかなヒロインを原知佐子が演じている。
この女優は、江戸川乱歩のミステリー映画などで知られる実相寺昭雄監督の妻だった。
実相寺の監督作品の常連出演者でもあった。
1970年代に山口百恵が主演した「赤いシリーズ」での強烈なイビリ役で有名となり、一連の大映ドラマでも欠かせない名脇役として活躍した。
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