「ひばりの三役 競艶雪之丞変化」
1957年11月17日公開。
ひばりの一人三役が話題となった雪之丞変化。
原作:三上於菟吉『雪之丞変化』
脚本:渡辺邦男 、 中田竜雄
監督:渡辺邦男
主題歌:美空ひばり『雪之丞変化』『江戸の闇太郎』
キャスト:
- 雪之丞、闇太郎、お園: 美空ひばり
- お雪(雪之丞の幼少時): 二木てるみ(前篇)
- 松浦屋清左衛門: 沼田曜一(前篇)
- お忍: 若杉嘉津子(前篇)
- 中村菊之丞: 市川門三郎
- 脇田一松斎: 中村彰
- 土部三斎: 阿部九洲男
- 浪路: 北沢典子
- 松ヶ枝: 花岡菊子
- 長崎屋三郎兵衛: 岬洋二
- 広海屋与平: 芝田新
- 門倉平馬: 丹波哲郎
- 浜川平之進: 松本朝夫
- 横山五郎: 大谷友彦
- お初: 宇治みさ子
- むく犬の吉: 坊屋三郎
- 大目付淡路守: 高田稔
- 目付甲斐守: 鮎川浩
- 若年寄伊勢守: 林寛
- 島抜け法印: 広瀬恒美
- 男衆藤吉: 原文雄
- お島: 山村邦子
あらすじ:
前篇--
雪之丞一座は江戸初舞台お目見得を中村座で行った。
土部三斎が娘の浪路、配下の浜川、横山、それに御用商人広海屋、長崎屋を連れて見物に来た。
彼らは雪之丞の父母の仇だった。
父・松浦屋は三斎らのために密貿易の罪をきせられ自殺し、母も三斎の手ごめにあい自殺したのだ。
三斎からお座敷がかかり、浪路と会った帰り、雪之丞は師一松斎の道場へ立ち寄った。
一松斎が雪之丞に一剣天心流の奥義を譲ろうとした時、師範代平馬は自分に譲れと主張し、巻物を持って逃げ去った。
その時お初が道場に忍び入り、雪之丞の秘密を聞いてしまった。
帰途、雪之丞は襲いかかった平馬をたたきのめすが、それを義賊闇太郎が見て、その剣さばきを賞めた。
お初から呼び出された雪之丞は恋をささやかれ、いやなら昨夜の話を三斎に知らせると脅迫された。
思い余ってお初を殺そうと外に連れだした雪之丞を、平馬ら六人の侍が取り囲んだ。
その時、闇太郎が現われ、傷ついた雪之丞を助け隠れ家に運んだ。
そこで雪之丞はすべてを闇太郎に話し、彼の協力の誓を得た。
浪路はあれ以来病気と称して城内に戻らず床についていた。
頼まれて見舞に行った雪之丞は、彼女の自分へのあまりの執心に、仇の娘を一思いに篭絡しろという心の叫びをやっと耐えた。その翌日、浪路が家出し、三斎は雪之丞を疑い、追手をさし向けた。
お初は雪之丞に度々脅迫状めいた恋文を送ってきた。
闇太郎のとりなしで、とある古寺でお初に会った雪之丞は秘密を守るよう必死に頼んだ。
お初の心もほぐれてきた時、三斎方の追手が古寺を襲った。
中村座では、雪之丞不在のため幕が上らず、観客は大騒ぎだった。
その時、闇太郎に助けられた雪之丞の早篭篭が中村座へ急いでいた。◇
後編--
中村座の舞台に雪之丞の姿がやっと現れた。
すでに闇太郎の姿は土間にあった。
寄り添ったお初が「私の負けだよ」とささやいた。
浪路の行方は判然しなかった。江戸市中では、飢饉のため米が出廻らず値も上っていた。
今にも一揆を起しそうな、米問屋の前の群衆に闇太郎は三斎の家から持ち出した小判をまいた。
捕方に追われた彼は橋上で乱闘の末、ある長屋に逃げこんだ。
町人娘に身をやつした浪路は待女・松ケ枝に発見され、逃げる途中、誤って川に落ちた。
それを闇太郎と感違いしたお初と吉は舟を出して助け、自家へ連れ帰った。
一松斎から策を受けた雪之丞は、楽屋を訪れた広海屋に一万石の米の投げ売りをするよう持ちかけた。
広海屋はその日のうちに投げ売りを始めた。
長崎屋は買い占めていた米の相場が下ったため破産した。
礼を言いに来た広海屋のところへ長崎屋が現われ、二人は喧嘩を始めた。
長崎時代の旧悪をぶちまけ合い、結局二人は雪之丞の前で相討ちし斬死した。
仇の最初の二人は終わった。
お初の家を門倉と横山が訪れ、浪路を見つけた。門倉はお初にいどみかかり、闇太郎に斬殺された。
逃げだした浪路を追いつめ手ごめにしようとした横山は彼女の懐剣に刺された。
だが、深手を負った浪路は闇太郎に助けられ、お初の家へ戻った。
虫の息で雪之丞の名を呼び続けた。
お初の迎えで雪之丞が駈けつけ、その胸の中で浪路は死んだ。
その夜、闇太郎は浪路の遺骸を三斎宅に運びこみ、彼女の死因を話し三斎を面罵した。
翌日登城した三斉は永年の悪事が露見し閉門を命ぜられた。
雪之丞は一松斎と共に、浪路のお悔みにと三斎宅を訪れ、一松斎、闇太郎の授けで三斎、浜川を倒し、父母の仇をうった。
その雪之丞を中村座の観客が待っていた。
コメント:
人気小説『雪之丞変化』を、美空ひばりの一人三役で映画化した異色作。
原作は、1934年(昭和10年)から翌年にかけて朝日新聞に連載された三上於菟吉の時代小説。
これを原作とした多くの映画・テレビドラマ・舞台・新作歌舞伎・宝塚歌劇などが製作されている。
映画だけでも8作品ある。
有名なのは、長谷川一夫主演の一人二役ものだが、本作はひばりの一人三役ということで人気が沸騰した。
本作では、女形である中村雪之丞、怪盗である闇太郎、劇中の回想シーンで登場する雪之丞の母・お園の三役を美空ひばりが演じている。
さらに、本作では、更に捻りが加えられ、「雪之丞は実は女であった」という設定になっている。
「見かけは男だが実は女」という難しい役どころを美空ひばりが演じており、映画評論家の浦崎浩實は本作を「ひばり映画最大級のヒット作」と評している。
最初から最後まで美空ひばりづくし、ひばりが出づっぱりという珍しい映画だ。
人気者・ひばりが全シーンスクリーンに登場している。
当時ひばりは20歳。
だが、もう堂々とした立ち居振る舞いで、すでに芸能界の女王の雰囲気が出ている。
ひばり恐るべし。
役人と商売敵の策略によって両親を亡くした娘が、成長して歌舞伎役者の太夫となり、江戸の町で両親の敵討ちをする時代劇の代表作。
美空ひばりの三役が最大の見所。
剣術の腕前を度々披露する場面が出てくるが、その完成度は言わずもがなであった。
女性であることを隠して太夫を演じている点が本作のポイントのひとつ。
そうとは知らない女スリや殿さまの娘が太夫に夢中になって物語を盛り上げてくれる。
小賢しい悪侍を丹波哲郎が演じており、彼と義賊の闇太郎が室内で剣を交える場面はその決着のつけかたが「たそがれ清兵衛」そっくり。
丹波の刀が長すぎて動きが止まったところに、闇太郎の小太刀が急所を刺すのである。
オープニングで誰もいない芝居小屋の舞台上から美空ひばりが、口上を述べる場面は粋な演出であった。
本編中でもう少し美空ひばりの歌声が聞きたかったと思うのは欲張りだろうか。
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