「現代やくざ 血桜三兄弟」
1971年11月19日公開。
菅原文太、 伊吹吾郎、 渡瀬恒彦の三兄弟の異色ヤクザ映画。
脚本:野上龍雄
監督:中島貞夫
キャスト:
菅原文太 、 伊吹吾郎 、 渡瀬恒彦 、 松尾和子 、 荒木一郎 、 小池朝雄、名和宏、河津清三郎
あらすじ:
全国制連を狙う広域暴力団大阪誠心会は広島、金沢、浜松と制覇、つづいてその狙いを岐阜に向け、鉄砲玉・川島譲次(小池朝雄)を送り込んだ。
譲次の傍若無人の態度に、岐阜広道会の邦夫(伊吹吾郎)と宏(渡瀬恒彦)はいきりたつがどうしようもなかった。
翌朝、誠心会幹部の大坪(名和宏)と辺見が岐阜に到着し、三人は八百長競馬を計画してノミ屋の宏を通じて三百万を投じた。
三人は配当金として八千万を要求した。
広道会・三宅会長(河津清三郎)は、関東中央会の応援を求めると共に、邦夫の兄で今はかたぎの武(菅原文太)に譲次殺しを依頼した。
しかし、譲次は、恋人の君枝を譲次に奪われたバーテンの信男(荒木一郎)に刺殺されてしまう。
この事件は、誠心会と広道会の抗争をエスカレートさせた。
誠心会との喧嘩支度のために広道会事務所はごった返した。
一方、誠心会の組員も続々岐阜に集結した。
しかし、中央会の応援が期待できないことを知った三宅は、誠心会の意を呑むべく、邦夫と宏を殺すことを手土産に誠心会に向かった。
一方、邦夫、宏、信男の三人は襲いかかる組員の手を逃れて武にかくまわれた。
「岐阜は誰にも渡さん」と立ちあがった四人は、三宅、大坪、辺見たちが合っているレッド・ムーンへ向かった。
惨劇の中、幹部を刺した三兄弟は血の海にのめり込んだ。
コメント:
いよいよ渡瀬恒彦が主役扱いになった最初の作品である。
文太兄いと、伊吹吾郎と、渡瀬の3兄弟の物語だ。
現代やくざシリーズの第4作となっている。
菅原文太が主役という以外は、他の作品とはずいぶんテイストが違う。
まず主役の菅原文太がやくざではない。
その上、この映画の主役は、冴えないバーデンダーのモグラこと信男(荒木一郎)だ。
この男は、小心者で童貞という設定で、映画の中ではやくざたちばかりか、女性からも馬鹿にされている。
そんな男が、馬鹿にされているからこそ、大きな仕事をやってのける。
弱者が強者をやっつける、そこがこの映画の面白いところだ。
酔っぱらった宏(渡瀬恒彦)が、公園で信男を相手に、鉄砲玉を始末した誰かを褒めたたえるシーン、荒木一郎のリアクションとそれを無視してしゃべり続ける渡瀬恒彦のやり取りは渡瀬の押しと荒木の受けが絶妙で、本当に素晴らしい。
最後の殴り込みのシーンで、小便をしている荒木一郎を見て、菅原文太がニヤッと笑って車を出してしまうあたりの呼吸もバッチリだ。
今は堅気のバーのマスター菅原文太。
組に忠誠な伊吹吾郎、威勢のいいチンピラな渡瀬恒彦、そして冴えないバーテン荒木一郎の三人。
ちょっと渋めの鉄砲玉・小池朝雄。
主要キャストが個性的だ。
ちょっと哀れっぽいキャラであった文太も最後はカッコ良い。
三兄弟で敵へ乗り込んで行くラストは小気味いい。
物語の前半で流れた「マリリンモンローノーリタン」も懐かしい。
ラストで流れると妙にその歌詞が合っている。
鑑賞後しばらくは頭の中で曲がループして離れない。
組織には一度も加わらなかった一匹狼の長男・菅原文太。
関西の広域暴力団から派遣された鉄砲玉・小池朝雄に振り回されてアタフタする親分や代貸への不満を隠さない次男・伊吹吾郎。
小池朝雄の競馬の賭け金をちょろまかそうとして逆に罠に嵌まるチンピラの三男・渡瀬恒彦。
そんな三兄弟が最終的には、広域暴力団の傘下に収まろうとする組織に抗おうと殴り込みをかける。
この時期の渡瀬恒彦は、とにかく最高に元気で、チンピラとしてトップレベルであり、やくざの世界で上昇しようとする迫力は天下一だった。
危なくて近寄りがたいぶっ飛んだ姿は見ていて元気が出る。
当時の東映の若手俳優の中で最も目立つ存在になっている。
やくざに憧れた結果、鉄砲玉・小池朝雄を殺害するという重要な役割を担いながら、三兄弟の殴り込みに加わり損ね、結局はネチョネチョと生きてゆかざるを得ないバーテン演じるる荒木一郎。
彼の存在感はハンパない。
この男がが抱えた諦念は、この映画に独特の哀愁を帯びさせており、観る者に突き刺さる。
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