「最後のサムライ ザ・チャレンジ」
(原題: THE CHALLENGE )
米国公開: 1982年7月23日。
日本公開:なし。
脚本:ジョン・セイルズ、リチャード・マックスウェル
監督:ジョン・フランケンハイマー
出演者:
スコット・グレン、三船敏郎、中村敦夫、ドナ・ケイ・ベンズ、クライド草津、サブ・シモノ、カルヴィン・ジュン、中原早苗
あらすじ:
ロサンゼルスのボクシングジムに所属する売れないボクサー、ラルフ・マーフィー(スコット・グレン)は、ある日、日本人の男女から奇妙な仕事を依頼される。
車椅子の男性はトシオ(サブ・シモノ)、女性は彼の妹・アキコ(ドナ・ケイ・ベンツ)だ。仕事の内容というのは、とある貴重な日本刀を京都に住む持ち主のもとへ届けること。曰く、その日本刀を狙っている人物が他にもいるため、全く無関係のラルフに運んで欲しいというのだ。
訝しく思いながらも大金につられて仕事を引き受けるラルフ。
しかし、関西空港に到着してタクシーに乗り込もうとしたところ、怪しげな男たちに拉致されてしまう。
彼らはラルフの運ぶ日本刀を奪おうとするのだが、よく確認するとそれは全くの偽物だった。
怒ったリーダーのアンドー(カルヴィン・ジュン)は部下にトシオとアキコの拉致も指示。アキコは間一髪で逃れるものの、車椅子のトシオはあえなく捕まってしまう。
本物の日本刀の在り処を問いただすアンドー。
苛立つ彼は、決して口を割ろうとしないトシオを殺害し、ラルフをボスのヒデオ(中村敦夫)のもとへ連れていく。
厳重に警備された要塞のような巨大ビルに住むヒデオは、日本でも指折りの大企業の社長だった。
彼は問題の日本刀は自分のものであり、戦時中にアメリカ兵に奪われたのだという。
身の危険を感じたラルフは、隙を見て逃走する。
そして、間一髪のところをアキコに助けられた。
気が付くと、ラルフはアキコの父親・ヨシダ(三船敏郎)の邸宅に匿われていた。
実は、敵対するヒデオはヨシダの弟、つまりアキコとトシオの叔父だったのだ。
500年以上に渡って先祖代々受け継がれてきた日本刀を巡り、ヨシダとヒデオは兄弟間で熾烈な争いを繰り広げていたのだ。
本物の日本刀は、死んだトシオが車椅子の鉄パイプに隠して日本へ運び込んでいた。
つまり、ラルフは敵の目を欺くためのおとりだったのだ。
約束の報酬を受け取ってアメリカへ戻ろうと考えるラルフだったが、そんな彼をヨシダが引き止める。
道場で厳しい修行に励むこととなったラルフは、アメリカ人には理解しがたい日本の厳格な風習に戸惑いつつも、アキコや見習の少年ジロー(深作健太)と心を通わせ、誇り高い師匠ヨシダに心酔していく。
だが、ヒデオの一味は日本刀を奪うべく虎視眈々と狙っていた…。
コメント:
'60年代から幾多の秀作を産んだジョン・フランケンハイマー監督と世界の三船敏郎の「グラン・プリ」以来十数年振りの顔合わせだ。
そこに「木枯し紋次郎」こと中村敦夫や、この翌年「ライトスタッフ」で米の宇宙飛行士第1号のアラン・J・シェパードに扮したスコット・グレンが加わってるんだから尚更である。
更には今は無き新国劇の重鎮・島田正吾に、「七人の侍」の宮口精二に稲葉義男、「サヨナラ」の高美以子などなど。
今や気鋭の演出家の深作健太少年(深作欣二監督の息子)も。
ついでにその母親で深作欣二夫人の中原早苗まで。
もっともクランクインしてからあまりのトンデモ設定に「けしからん、馬鹿野郎!」とブチ切れて職場放棄しようとした三船を中村が「いや三船さん、これはコメディなんですから…」となだめすかして押し留めたなんて裏話を聞くと、ますます観たい物怖さ…じゃなかった怖い物観たさが募る。
一応、大まかなプロットを記すと、一対の宝刀を巡る太平洋を股にかけた実の兄弟の骨肉の争いに巻き込まれたボクサーくずれのアメリカ人の日本における挑戦=ザ・チャレンジというテーマになっているようだ。
製作当時は、案の定わが国ではお蔵入りで、その後ビデオ発売こそされたもののスクリーンにかかったのは’16年のカナザワ映画祭とやらがお初だったそうな。
それにしても三船がオファーを請けたハリウッド作品は、しっかり一流監督の手がける企画を吟味したろうに何故かトンデモ作品が少なくないのは不思議。
ケン・アナキン監督デイヴィッド・ニーヴンとハーディ・クリューガー共演「太陽にかける橋/ペーパータイガー」や、スピルバーグ唯一最大の失敗作「1941」とか。「グラン・プリ」のギャラで建てた三船プロの巨大スタジオの維持費が膨大だったのか、腹心の裏切りがそれほど痛手だったのか…。
ともあれ何処か物好きな会社がDVDを出すか、動画配信するのを待ちたい。
クライマックスのグレンvs.中村の最終決戦は、もう何と言うかあの手この手を駆使した文字通りの死闘で。
唖然としつつも笑いを噛み殺すのにいささか努力が必要かと。
シドニー・ポラック「ザ・ヤクザ」の影響も少なからずだろうが、まあ甲乙つけ難しだ。
ラストシーンの京都の山並みが何か違った意味で物悲しい風景に感じてしまう。
この『最後のサムライ ザ・チャレンジ』は、日本では劇場未公開で、ビデオスルーされただけでなく、今現在 Blu-ray はおろか DVD すら発売されていない作品であるが、ただのB級映画と決めつけるべきではない。
この映画の監督ジョン・フランケインハイマーは傑作『ブラック・サンデー』や『フレンチ・コネク ション 2』を監督したモダンアクション映画のパイオニア的存在で、『グラン・プリ』というカーレース映画で三船敏郎を主要キャラに起用して国際俳優にした人物だ。
そんなフランケンハイマーの日本愛が炸裂したのがこの『最後のサムライ ザ・チャレンジ』なのである。
『ライトスタッフ』とか『バックドラフト』とか『羊たちの沈黙』とかで渋い脇役をよくやっているスコット・グレンという俳優。
その役者が、『最後のサムライ ザ・チャレンジ』の三船敏郎から鍛えられるという主人公役を演じている。
この『最後のサムライ ザ・チャレンジ』はいわゆるジャンル映画なので、LA に 住む貧乏ボクサーのリックが刀を日本に運ぶという怪しい仕事に手を出した結果、名刀を巡る兄弟の抗争に巻き込まれるというあらすじ自体はどうでも良い。
それよりもロケ場所やスタッフ・キャスト、ディテールを見た方が面白いのだ。
例えば、主人公の師匠役に三船敏郎、その門下には宮口精二や稲葉義男といった『七人の侍』キャスト陣を集め、殺陣師には『用心棒』や『椿三十郎』の名殺陣師、久世竜を配し、敵役には『木枯し紋次郎』の中村敦夫 、さらに当時映画界ではまだ無名だったスティーブン・セガールが 武術コーディネートとして参加しているのだ。
つまり、キャスティングの時点でアクションのクオリティーは約束されているようなものだ。
実際終盤での対決シーンでは、三船敏郎のシーンでは正当な剣劇を、スコット・グレンのシーンでは地の利やホッチキスを使ったいかにもアメリカ的と言える現代におけるチャンバラを見せてくれている。
次にロケ地だ。
アメリカ映画なのに映画の95%くらいを京都ロケで撮っている。
フランケンハイマーという監督は先出した『フレンチコネクション 2』ではアメリカ映画なのに全編フランスでロケを行い主役のジーン・ハックマン以外全員ヨーロッパの俳優を使って作品を仕上げたような 人なので、海外ロケの融通には慣れていたようだ。
ロケには厳しいことで有名な京都で大規模な撮影が行われているのだ。
映画内でいうと開始10分以降ずっと京都が舞台となっている。
伊丹空港到着早々に主人公のリックは敵サイドに拉致されるのだが、その後も、川端通りぞいを走るバンの中で恐喝されながらたどり着いた敵のアジトは宝ヶ池にある京都国際会議場。
ハリウッド 映画とは思えないローカル具合で、地上駅時代の三条京阪駅前での会話シーンなどではおそらくある程度の世代より上の人には懐かしく感じられる京都の姿が収められているのである。
さて、海外が撮った日本というとなんだか怪しい JAPAN 描写がふんだんにあるんじゃないかと危惧する人がいるかもしれない。
たしかに本作でも、敵のアジト (京都国際会議場) には堂々とマシンガンを持った警備員がいたりする。
それでもこの映画が日本を馬鹿にしているとか、馬鹿みたいな映画とはどうしても思えない。
むしろ純朴なまでに日本映画や侍文化、日本の風景への憧れのようなものを感じるのだ。
確かに生きたドジョウを酒に入れて丸呑みするシーンがあったりはする。
でもそのシーンではこれは珍味だからと説明されるし、その次のカットではどぜう鍋が出てくるので違和感がないようになっている。
この貴重な映画のVHS版は、TSUTAYAでレンタル可能: