「新馬鹿時代」前編(第2作)・後編(第3作)
1947年10月12日/26日公開。
榎本健一と古川ロッパの初共演作品。
三船敏郎は、闇屋の親分役。
脚本:小国英雄
監督:山本嘉次郎
キャスト:
- 小原庄之進:古川ロッパ
- 小原金次郎:榎本健一
- 小原あや子:三益愛子
- 小原お照:花井蘭子
- 小原庄太:大久保進
- あき子:永井百合子
- 逸見署長:高田稔
- 大野源三郎:三船敏郎
- 政治家・柿本:進藤英太郎
- 田代常務:志村喬
- 問屋・岩本:中村是好
- 宮原巡査:如月寛多
- 新聞記者・長井:星十郎
- 金子市助:渡辺篤
- ルンペン:高堂国典
- 問屋・山村:芝田新
- 矢田巡査:長浜藤夫
- 街頭アナウンサー:河村弘二
- 問屋・秋田:望月伸光
- 大野の子分:山本冬郷
- 捜査主任:三田国夫
- トラックの運転手:花沢徳衛
- 白井:隆野唯勝
- 問屋・元部隊長:深見泰三
- 大野の女秘書:谷間小百合
- 掃除婦:春野音羽
- 芸者:一色勝代
- 近所のおかみ:馬野都留子、戸田春子、田中筆子
- 婦人警官:大城政子、佐藤純子
- キャバレーの歌手:渡辺はま子
あらすじ:
終戦と共に現われた新時代のたまり場、それはヤミ市である。
人々はただただ生きるがためにそこにひしめき、生きるがためにヤミを売り、ヤミを買っている。
直ぐそこの交番では鳴物入でヤミ防止の宣伝に大わらわ。
しかしヤミ商人達は少しも動じない。
それもそのはず、ヤミ商人達はエサを与えてお巡りを飼っているのだ。
しかし例外が一人いる。
小原巡査がそうだ。
ヤミは絶対せず、配給以外の物は食べないというから始末に困る。
ヤミ屋の金次郎はいつも彼に追っかけられているが、幸い小原は二十六貫のデブデブ、足が遅いので捕まった試はない。
金次郎はある日、復員以来訪ねあぐねていた姉に会い、その家へ行って見た。
彼はここで始めて姉が小原巡査の妻であることを知りびっくりしたが、話を聞けばその生活は苦しくヤミなき家庭の暗さに同情をし、内緒で米を続かせることを約束した。
そんなことも知らず、小原は相変わらず金次郎を追いかけている。
ヤミ屋金次郎も、小原と同じような生活のため息をついているから面白い。
「金があればなァ」と。
その頃計らずも、小原が持っていた荒廃の山から石炭が出たというので早速買い手がつき、一千万円という金が転げ込んで来た。
妻から金次郎の話を聞いた小原は感激のあまりその半分を彼に分けてやったが、金は麻薬のように二人の性格を一変してしまった。
コチコチの小原は豪邸を買い、芸者だ、ダンスだとしゃれ込み、金次郎は商事会社を建てた。
しかしそれも一時の夢、小原の家は焼け、金次郎の会社は同業者大野にうまくやられ、彼等は結局、地味な元の仕事へ戻った。
小原はお巡りに、金次郎は電車の運ちゃんに。
そして二人は吐息をついた。
「これ以上に味のある生活はないものだ」と。
コメント:
前後編の2部作で構成され、前編は1947年10月12日、後編は10月26日に公開された。
戦前からお互いライバルとして人気を二分し、一切共演をしなかった榎本健一と古川ロッパであったが、戦後、1947年にエノケン劇団とロッパ一座の合同公演にてついに初共演を果たした。
(エノケン) (ロッパ)
今はほとんど知る人が少なくなったが、戦前戦後を通して、大人気だったコメディアンは、榎本健一と古川ロッパだった。
いわゆる「エノケン・ロッパ」である。
それぞれ別々の劇団を持ち、大活躍していた。
その二人が共演したことで大人気になったようだ。
浅草オペラ出身のエノケンは、「動き」が激しいことで有名で、手だけで舞台の幕を駆け上る、走っている車の扉から出て反対の扉からまた入るという芸当が出来たという伝説がある。
この芸人の人気に目をつけた松竹は、エノケン一座を破格の契約金で専属にむかえ、浅草の松竹座で常打ちの喜劇を公演し、下町での地盤を確固たるものとした(ピエル・ブリヤント後期)。
一方、常盤興行は、映画雑誌編集者であった古川ロッパの声帯模写などの素人芸に目を付け、トーキーの進出で活躍の場を失っていた活動弁士の徳川夢声や生駒雷遊らと「笑の王国」を旗揚げさせ、のちに松竹に所属、さらに東宝に移籍して有楽座で主に学生などインテリ層をターゲットとしたモダンな喜劇の公演を旗揚げした。
「下町のエノケン、丸の内のロッパ」と並び称せられ、軽演劇における人気を二分した。
エノケンは、東宝の前身である、トーキー専門会社・ピー・シー・エル映画製作所の映画にも出演。
その第一作『エノケンの青春酔虎伝』(監督は日活から迎えた山本嘉次郎)は、トーキー初期のヒット作となった。
クライマックスシーンで、飛び乗ったシャンデリアから落下、全身を強打して、撮影は一時中断かと思われたが、翌日もエノケンは元気に撮影所に現れ、ラストまで撮り終えたというエピソードも残っている。
喜劇を得意とする監督であった山本嘉次郎とは度々コンビを組んだ。
この「新馬鹿時代」は、舞台劇として有楽座で披露されたところ大盛況を極め、その影響を受けて本作は製作されたのであった。
監督は戦前よりエノケン映画を撮ってきた山本嘉次郎で、本作においても激しい動きが特徴のエノケンのアクションを見ることができる。
また、主題歌の「ちょいといけます」はエノケンとロッパによる初のデュエット曲である。
ストーリーは、時代に対する批判を込めて笑い飛ばしている。
全編、後編の2作なので、時間的には長編である。
三船敏郎、志村喬が名を連ねているが、役どころは闇屋の親分とその子分。
二人とも悪役というのが面白い。
三船敏郎は、瘦せていて、別人のような風貌だ。
残念ながら、出番は少ない。
謹厳実直な巡査の小原庄之進(古川緑波)は闇取り締まりに精を出している。
そこへ新参のヤミ屋・小原金次郎(榎本健一)が現れて、捕り物が始まる。
無声映画時代のアメリカ映画を彷彿とさせるような追いかけっこや、ハラハラどきどきで観客を笑わせると同時に、戦後まもなくの風俗や情景を見られるところが良い。
巡査の妻は実はヤミ屋金次郎の実の姉である。
と言うことは、二人は義兄弟になるわけで、そのあたりの巡査の葛藤もよく出ている。
前編は二人に大金が転がり込むところまで。
後編はその大金を二人がどう使うかを描く。
もちろんそのお金を狙う有象無象も出てくる。
そして、ヤミ屋の親分三船敏郎を巡っての警察との攻防が始まる。
ただ、後編ラストはあっという間に片付けてしまって、二人の活躍があまり見られない。
笑いだけでなく、女房との間にペーソスもある楽しい作品である。
とにかく、三船敏郎が若々しく、超ハンサムだ。
背広姿もカッコよく、イケメン振りが際立っている。
この映画は、今ならYouTubeで前編、後編ともに無料視聴可能。