「花よりもなほ」
2006年6月3日公開。
仇討ちの発想転換を描くコミカル時代劇。
岡田准一の時代劇初主演作品。
受賞歴:
2006年 第19回 日刊スポーツ映画大賞 石原裕次郎新人賞(岡田准一)
2007年 第21回 高崎映画祭 優秀作品賞
2007年 第21回 高崎映画祭 特別賞
2007年 第21回 高崎映画祭 助演男優賞(加瀬亮)
監督・脚本:是枝裕和
キャスト:
- 青木宗左衛門(宗左) - 岡田准一
- おさえ - 宮沢りえ
- 貞四郎 - 古田新太
- 平野次郎左衛門 - 香川照之
- おのぶ - 田畑智子
- 乙吉 - 上島竜兵
- 孫三郎 - 木村祐一
- そで吉 - 加瀬亮
- 留吉 - 千原靖史
- 善蔵 - 平泉成
- お勝 - 絵沢萠子
- おりょう - 夏川結衣
- 伊勢勘 - 國村隼
- 重八 - 中村嘉葎雄
- 進之助 - 田中祥平
- 吉坊 - 田中碧海
- 健坊 - 木村飛影
- うめ - ひろみどり
- ゆき - 井内菜摘
- 青木庄三郎 - 石橋蓮司
- 寺坂吉右衛門 - 寺島進
- 鈴田重八郎 - 遠藤憲一
- 横川勘平 - 田中哲司
- 青木宗右衛門 - 勝地涼
- 与力 - トミーズ雅
- 青木庄二郎 - 南方英二
- 金沢十兵衛 - 浅野忠信
- 小野寺十内 - 原田芳雄
あらすじ:
元禄15年、徳川5代将軍綱吉の治世。
巷では、赤穂浪士が切腹させられた主君・浅野内匠頭の仇を討つかどうかが大きな関心ごととなっていた。
信州松本から江戸に出てきた若者、青木宗左衛門(岡田准一)が貧乏長屋に腰を据えて、2年が経とうとしていた。
宗左は剣術師範だった父を斬り、江戸へ逃亡した金沢十兵衛(浅野忠信)を捜して町を回るが、一向に見つけられない。
仇討ちが上手くいけば百両は報奨金がもらえるが、今では里からの仕送りも途絶えがちだ。
しかも宗左は剣の腕はからっきしで、長屋の遊び人・そで吉(加瀬亮)にこてんぱんに負かされる。
宗左の向かいには美しい未亡人・おさえ(宮沢りえ)とその息子・進之助が住んでおり、宗左はおさえにほのかな恋心を抱いていた。
一方長屋には、浅野内匠頭の仇を討とうとする赤穂の侍も潜んでいた。
治療院の看板を掲げた首領格・小野寺十内(原田芳雄)のもとに患者を装って集まる男たちは、いっこうに仇を討とうとしない宗左は吉良側の間者ではないかと疑う。
小野寺は同士の寺坂吉右衛門(寺島進)を宗左に紹介し、探りを入れさせる。
実は、宗左は金沢を見つけていた。
しかし、刀を捨てて人足となり、妻子と静かに暮らす金沢の姿を見て以来、そして毎日を楽天的に過ごす長屋の住人たちと交わるうちに、仇討ちを果たすことが本当に武士の道なのか宗左の中に迷いが生じ始める。
そんな折り、おさえもまた亡き夫の仇をもつ身であることを知ってしまう。
暮れも押しつまったある日、長屋の大家は住人たちに、建て替えのため年が明けたら立ち退くよう宣言する。
彼らの困る姿を見て、宗左はある決意をする。
それは、住人たちの協力を得て仇討ち成功の大芝居を打ち、藩から報奨金をくすねようというのだ。
果たして計画は大成功。
ちょうどその晩、赤穂浪士が吉良邸へ討ち入りを決行し、小野寺をはじめ仇討ちを果たした浪士は全員切腹した。
ただ一人、宗左と親しくなったことで仇討ちの虚しさを感じた寺坂だけは討ち入りに参加せず、郷里へ帰った。
長屋の住人が討ち入り騒ぎに沸く中、宗左とおさえは晴れやかな顔で桜を見上げるのだった。
コメント:
是枝裕和の監督・脚本による異色時代劇である。
岡田准一にとって初の時代劇映画への出演であり、しかも主役。
武士の生き様をかっこ良く描いた映画は数あれど、これほどかっこ悪い生き方の武士が主人公の映画は珍しい。
仇討ちの相手の居場所まで知りながら、いつまでも貧乏長屋でウジウジしている宗左(岡田准一)。
武術がからっきしダメなのも、その理由だろうが、まだ何か訳がありそうだ。
実は、仇討ちの発想転換を描くコミカルな人情時代劇なのだ。
百姓は米を作り、商人は物を売る。
戦さの中で命のやりとりをして一人前になっていく侍。
しかし戦さはなくなったが、侍だけが残されてしまった天下太平の世。
そんな世の中で、侍として生きていく意味を見出せない宗左。
ましてや仇討ちなど。
父親が最後に宗左に残したものが恨みや憎しみなんて淋し過ぎると説く、おさえ(宮沢りえ)。
ここで仇を討っても、その遺族にまた恨まれる。
この憎しみの連鎖を断つために、自分の中で時間をかけて、その汚い排泄物を何か別のものに変えていこう。
仇討ちをしない宗左と対照的に、赤穂浪士の討ち入りも予定通り進むという笑える展開に。
宗左は父親に、憎しみしか教えてもらえなかったのか。
いや、まだあった。
そこに気が付いた時、宗左の新しい生き方が、この目の前の汚い長屋に拓ける。
そして、自分にも子供に教えたいことがある。
「ウソ話、花は咲けども実はつかず」。
いやいや、とても素敵な実を結んだ、ウソ話だった。
この映画での宮沢りえは、岡田准一が扮する宗左の向かいに住む、美しい未亡人・おさえを演じている。
この女性は、岡田准一に向かって、彼が抱える仇討ちという辛い使命を超越した新しい生き方をアドバイスするのだ。
この映画のタイトル「花よりもなほ」は、忠臣蔵でおなじみの浅野内匠頭の辞世の句からきているようだ。
浅野内匠頭が切腹の際に読んだ辞世の句がこれ:
「風さそふ 花よりもなほ 我はまた 春の名残を いかにとやせん」
その意味は、
「風に吹かれて散る花よりも急いて、天寿を全うすることなく、 生涯を終えようとしている私は、 この心残りを、 どうしたら良いのだろうか」
いう感じかも。
本作『花よりもなほ』は、武士が父の仇討ちをし復讐を果たす過程を描く。
しかし、それは血の復讐ではなく和解と許しによる復讐なのだ。
是枝裕和監督によると、作品の出発点は、米国の同時多発テロだったという。
その後も世界のテロ事件を目にするなかで、この映画の企画が生まれた。
「事件の解決策を復讐ではなく、許すことと和解することに見出すことはできないものかと悩んだ」と振り返る。
ドキュメンタリー作家出身の是枝監督は、実際の出来事を映画のモチーフとすることが多い。
「印象的な事件に出会うと、これを映画にもできないだろうか、セリフにはどんな表現を使おうか、といろいろ考えが浮かんでくる。
そういう疑問を1つ1つ解決しながら映画を撮影していくんです」と語っている。
やはり、この監督は日本人の心を常に成長させてくれる最高の現役監督である。
浅野内匠頭の辞世の句の一部をタイトルにしておいて、赤穂浪士の仇討ちを否定する新しいナイスな生き方を見せつける最高の映画になった!
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