「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」
パンドラTVに存在する映画全編:
1981年11月7日公開。
第二次大戦後の進駐軍統治下に起こった「戦後最大のミステリ」ともいわれる「下山事件」を描く。
原作:矢田喜美雄(朝日新聞記者)『謀殺・下山事件』
脚本:菊島隆三
監督:熊井啓
キャスト:
俳優 | 役名 | 役柄 |
---|---|---|
仲代達矢 | 矢代 | 昭和日報の記者。 朝日新聞の矢田喜美雄記者がモデル。 |
山本圭 | 大島 | 警視庁捜査二課の刑事。矢代とともに、捜査に当たる。 |
浅茅陽子 | 川田 | 昭和日報の記者で、矢代の後輩。 |
中谷一郎 | 遠山部長 | 昭和日報の部長で、矢代の上司。 |
橋本功 | 小野 | 昭和日報の記者で、矢代の後輩。 |
役所広司 | - | 無名の記者。矢代の同僚。 |
岩崎加根子 | 下山芳子 | 下山総裁の未亡人。 |
江幡高志 | 酒井運転手 | 下山総裁を公用車で三越まで送った運転手。 |
平幹二朗 | 奥野警視総監 | 警視庁のトップ。捜査の幕を引こうとする。 |
稲葉義男 | 堀井捜査課長 | 警視庁捜査一課長。 |
新田昌玄 | 吉川捜査課長 | 警視庁捜査二課長。 |
神山繁 | 伊庭次席検事 | 東京地検側の捜査を指揮する。 |
滝田裕介 | 川瀬検事 | 東京地検の検事。 |
梅野泰靖 | 山岡検事 | 東京地検の検事。 |
松本克平 | 波多野教授 | 下山死後轢断の判断を下した東大教授。 |
近藤洋介 | 秋田教授 | 東大の衛生裁判化学教室の教授。 |
仲谷昇 | 内閣官房長官 | 下山事件発生直後に、他殺との見解を示す。 |
菅井きん | 女将ふさ | 末吉旅館の女将。 事件前日に下山が滞在したと証言する。 |
浜田寅彦 | 館野教授 | 下山生体轢断の判断を下した慶應大教授。 |
小沢栄太郎 | 糸賀 | 事件後に下山邸を訪れた謎の自称・政治家。 |
井川比佐志 | 李中漢 | 事件の秘密を知る韓国人。 |
大滝秀治 | 唐沢 | 占領軍の工作に関与している謎の人物。 |
伊藤孝雄 | 堀内 | 矢代へ手紙を送り、その中で 下山誘拐に関与したと告白する青年。 |
隆大介 | 丸山 | 事件の秘密を握る労務者。 |
草薙幸二郎 | 嗄声の男 | 事件に関与したと思われる謎の人物。 |
岩下浩 | 川崎 | |
信欣三 | 国原鋼材主任 | 堀内という男が務めていたという会社の担当者。 |
織本順吉 | 駅助役 |
あらすじ:
昭和二十四年七月。
敗戦後の騒然とした雰囲気の中で労働運動は大きく高揚していた。
昭和日報の社会部記者・矢代(仲代達矢)は、上野に集結するシベリヤからの復員兵たちの集会を取材していた。
だが、その時、下山国鉄総裁の行方不明を知らされた。
翌朝、下山の死体が発見されると、政府はいち早く他殺説に近い立場をとり、各新聞の主張も自殺説と他殺説に分かれた。
この中で昭和日報は、他殺の線ですすめるべく、矢代に東大法医学研究室を取材させた。
矢代は遺体解剖を行なった和島博士の「死体轢断の鑑定は絶対に間違いない」という言葉で他殺説に自信を持つ。
その一方、事件現場近くで下山の姿を見たという証言者が現われたり、東大鑑定に対する慶応の異論も出て、自殺説がクローズアップされてきた。
しかし矢代は他殺の臭いを執拗に追い続け、東大研究室に通い続けるうちに、轢断現場近くに、下山の死体を運んだ時についたと思われる血痕を自らの手で発見する。
この発見と前後して無人電車の暴走という「三鷹事件」が発生。
追求の手をゆるめず走る矢代の背後に黒い妨害の手が現われ、ホームから突き落とされ、電車に轢かれそうになる。
彼は検察の要請で特別研究生として身分を拘束されることになった。
事件から一ヵ月後、警視庁が自殺を発表することになったが、突然、その発表は中止された。
その二週間後、何者かによってレールがはずされ列車が転覆するという「松川事件」が起こり、政府はこれを利用し、労働組合、左翼への弾圧を一層強めた。
捜査陣は遺体についた油や色素の鑑定と出所究明に走りまわり、矢代もまた若い刑事・大島(山本圭)と身をすりへらす地道な捜査にあたった。
とこが、年の瀬も迫ったある日、人事異動を名目に中心メンバーがはずされ、捜査本部は解散した。
しかし矢代はあきらめなかった。
大島とともに、下山を誘拐した三人のメンバーの一人という男・堀内(伊藤孝雄)から矢代あてに送られた表紙の真偽を確認するために北海道まで飛んだこともあった。
五年、十年と時間が走り過ぎていった。
そんな時、死体を現場で運んだらしいという男・丸山(隆大介)の存在を知った。
矢代と大島は丸山に執拗に食い下がり、ついに事件当日の模様を自白させた。
しかし、その内容には矢代たちが調査した事との食い違いがあり、全面的に信ずることはできなかった。
そんなある日、丸山は駅のホームから転落死してしまった。
事故死なのか、誰かに突き落とされたのか……。
矢代は丸山の遺体の前で、得体の知れぬどす黒いものに対する激しい怒りがこみあげてくるのだった。
コメント:
1949年7月に、第二次大戦後の連合国による占領統治下の日本で起こった「戦後最大のミステリ」ともいわれる「下山事件」(下山定則国鉄総裁の変死事件)とその捜査・解明に当たった人々を描いたミステリ映画。捜査時に活躍した朝日新聞の矢田喜美雄記者の著書『謀殺・下山事件』(1973年)を原作にしている。
劇団俳優座の映画部門会社が製作したため、出演者の大半は俳優座の所属俳優である。
主人公の矢田記者役は、矢代と名を変えて仲代達矢が演じた。
このほか脚色のため、事件関係者や旅館などの名前をいくつか変えてある。
事件の鍵を握る男を演じた隆大介の演技も注目を浴びた。
大滝秀治が謀略家・唐沢を演じており、存在感がある。
当時まだ若手だった役所広司も無名の記者役で出演している。
なお、下山定則総裁当人は記録映像部分に登場するが、劇中の役は数カット出ているだけで、俳優名はとくにクレジットされていない。
本作が公開された1981年当時は、すでに大半の映画作品はカラーとなっていたが、本作は事件当時のモノクロ・ニュース映像を交えながらモノクロ作品として製作され、当時の雰囲気を醸し出すことに成功している。
終戦から4年目に発生した下山事件を、当時のニュース映像も織り込みながら作り上げられた熊井啓監督によるドキュメンタリータッチの力作である。
『忍ぶ川』・『サンダカン八番娼館・望郷』などに並ぶような熊井啓監督の傑作のひとつといってよい。
下山事件、その直後の三鷹事件、その後の松川事件と立て続けに起こった事件の位置付けを明確にしながら、下山事件を徹底的に追求している。
下山事件を題材にした、骨太の社会派ドラマで、モノクロの映像が臨場感に溢れている。
冒頭、事件当時の時代背景を当時のモノクロのニュースフィルムを使って説明し、モノクロのままドラマに入るので、違和感がない。
モノクロのニュースフィルムは、この後も何度か使われるが、事実を把握する上で、効果的だ。
夏の暑さも伝わる。
クーラーなどない時代に、新聞社のオフィスでも、みんながみんな、ワイシャツの胸元をはだけ、汗びっしょりになりながら、むきになってうちわで風を送る姿も、モノクロだけに、余計に熱気が伝わる。
戦後間もないどや街を舞台にした黒澤監督の「野良犬」に、相通じるものを感じた。
仲代達矢が演じる新聞記者・矢代も、「野良犬」の三船敏郎演じる刑事並に、事件の真相を追い求める。
仲代達矢は眼光鋭く、新聞記者というより、まさに刑事のように執拗に事件を追っている。
深追いし過ぎたために、命まで狙われる身となるが、決してひるまないところにブンヤ魂を見る思いがする。
事件の真相はいまだに闇の中だが、もし、この映画の通りであるなら、GHQと当時の権力者が結託して、国鉄総裁の下山氏を殺害して、共産勢力の犯行と見せかけたのだろう。
まさに、謀殺だ。
その後に続く、三鷹事件や松川事件も同じ匂いがする。
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