「幕末」
1970年2月14日公開。
中村プロ制作の幕末もの。
配給収入:1億2000万円。
監督・脚本:伊藤大輔
キャスト:
- 坂本竜馬:中村錦之助
- 後藤象二郎:三船敏郎
- 中岡慎太郎:仲代達矢
- お良:吉永小百合
- 武市半平太:仲谷昇
- 近藤長次郎:中村賀津雄
- 新宮馬之助:松山英太郎
- 勝海舟:神山繁
- 桂小五郎:御木本伸介
- 西郷吉之助:小林桂樹
- 中平寅之助:片山明彦
- 中平三和:二木てるみ
- 山田広衛:山形勲
- 池上多聞:長島隆一
- 村嶋右之助:大里健太郎
- 弁斉:青山宏
- 沢木将司:新田昌玄
- 千左右吉:山本學
- 志田秀躬:奥田情
- 出石喜助:田中浩
- 城戸伝次郎:福本勇
- 新見衛:神木真一郎
- 安岡金馬:橋本仙三
- 三神太郎次:太田博之
- 千葉重太郎:尾形伸之介
- 才女万里:植田多葉子
- 品川弥次郎:天田俊明
- 牟田:浅若芳太郎
- 朽尾:安田隆
- 幾久:成合晃
- 三吉慎造:江原真二郎
- 四十吉:大辻伺郎
- 佐市:保積ペペ
- 小万:江利チエミ
- 於福:緋多景子
- おちよ:高野宏美
- 菅(士官):渡辺篤史
あらすじ:
ある雨の日、不自由な足に下駄を引摺った一人の小商人が藩の上士・山田にぶつかり無礼討ちされた。
土佐藩では士分以外に下駄は禁制。
下士・中平は怪我人に下駄と雨傘を与えた親切があだとなり、「御法度破りの同類」として山田のために討ち果たされた。
この一件は烈しく坂本竜馬(中村錦之助)の心魂を揺ぶり、故郷の土佐を脱藩させた。
江戸を訪れた竜馬は、かつて剣の腕を磨いた千葉道場に落ち着いた。
千葉は時の幕府海軍奉行・勝海舟(神山繁)を開国論者の先鋒とみて、嫌っていた。
しかし、竜馬は海舟を邸に訪ね、立場こそ違え互いに国を愛し、国を憂うる心に違いないことを知った。
ちょうど、勤王倒幕の雄藩、薩・長二藩の主導権争い激しき折りだった。
慶応元年。
竜馬は長崎に「社中」を創設し海運業に乗りだした。
だが、竜馬は海運業に携わるよりも、中岡(仲代達矢)と共に薩・長二藩連合のために奔走する方が多かった。
その留守を預る近藤が「社中」規約違反の廉で詰腹を切らされ、中岡は同志のケチな差別根性を嚇怒した。
同正月二十日。竜馬は長州の桂と薩摩の西郷との間を周旋して、ついに両藩積年の確執と反目を解消させた。
だが、それと同時に竜馬は幕吏に狙われるところとなり、お良(吉永小百合)と結婚したものの安住の地はなかった。
だが、幕威に比し薩・長二藩の実力は伸長していた。
この現実に周章したのは公武合体論の士佐藩だった。
土佐藩家老・後藤象二郎(三船敏郎)は竜馬に助言を求めた。
竜馬は「将軍慶喜をして大政を奉還せしめる」ことを説いた。
慶応三年十月十五日。
“朝廷勅して大政奉還の請願を許す”。
その頃、竜馬は河原町通りの醤油商・近江屋に下宿。
十一月十五日、風邪の見舞に来た中岡と竜馬は「新政府綱領八策」について議論した。
刺客が疾風の如く躍り込りこんで、二人の生命を奪い去ったのは、その最中だった。
時に竜馬三十三歳、中岡三十歳であった。
コメント:
名匠・伊藤大輔最後の作品。
中村プロだけに、三船、仲代が出演。おりょうには吉永小百合。
他にも豪華な俳優陣が脇を固めている。
監督自身は出来に不満だったようだが、他の監督では無理な、閉塞感漂う幕末の世を映し出す佳作である。
ラストのええじゃないかは「大江戸五人男」のラストにつながる伊藤大輔ならではの個から大衆への鮮やかな変換である。
出だしから上士と下士、町人の身分差別の場面から始まる。
下士達はその差別に不満を持ち倒幕へと突っ走る。
ただ一人、土佐を離れ勝海舟(神山繁)との会話から違う目で世界を見つめるような男が居た。
それが坂本龍馬(中村錦之助)である。
倒幕のため西郷隆盛(小林桂樹)と桂小五郎(御木本伸介)の間をとりもち、薩長連合を実現させた。
しかし盟友・中岡慎太郎(仲代達也)と共に志し半ばで暗殺されてしまう。
この手の話は新しい世界を開くための新選組と勤王の浪士の闘いを描くのが定番だが、この映画では人間の平等について問いかけている。
もちろんチャンバラ場面もあるが、チャンバラを見せることが目的では無い。
錦之助に思想を語らせるのが目的である。
従って天皇も普通の人間であるという、戦前ならひっくくられそうなことも平気で述べさせている。
もちろん戦後に人間天皇になったことを踏まえてのセリフだろうが。
このことを龍馬が言ったかどうかはわからないが、かなり先進的な人間かであるという印象を植え付けることには成功している。
龍馬の愛人おりょうに吉永小百合が出ている。
結婚してからのまゆを剃り、お歯黒をつけた姿はとても吉永には見えない。
ここまでする必要があったかどうか。
冒頭で身分と理不尽に触れて、その後少ししてまた同じ土佐藩士どうしの身分差の諍いを描く。
身分の差と、そこから生まれる理不尽が、この『幕末』の一つの軸となっている。
死の直前、坂本が天皇制にさえ異を唱え、「わしはこんなことを考えてしまう自分が怖い」「その時が来たら、お前がわしを殺してくれ」というシーンが最も印象深い。
行動的で天真爛漫な坂本龍馬が、自分の内面について吐露するのはこのシーンだけである。
中岡との友情を示すだけでなく、坂本の「英雄でない面」、「危険思想家として暴走する可能性」を見せてくる。
この、終焉を前にした不吉な翳りの描き方がなかなか異色である。
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