「夜の歌謡シリーズ 港町ブルース」
1969年7月8日公開。
マドロスにあこがれる女の哀しみを描く映画。
野川由美子が実質的な主役。
シリーズ第6作。
脚本: 成沢昌茂
監督: 鷹森立一
出演者:
梅宮辰夫、野川由美子、谷隼人、森進一、浦辺粂子、待田京介、十朱久雄、北城真記子、谷本小夜子、山口火奈子、賀川ゆき絵
あらすじ:
和泉りん子(野川由美子)は、野呂貿易社・長野呂善之助(十朱久雄)の世話を受け、秘書をしていた。
野呂の一人息子・勝行(待田京介)は、彼女が父の妾であることを知って一旦は失望したが、つのる想いは彼女に求婚させずにはおかなかった。
だが、りん子は祖母の小料理屋で知り合った船員姿の城戸俊夫(梅宮辰夫)に心を奪われてしまった。
船員を父に持ち、横浜に育った彼女にとって、船員は憧れの的だったのだ。
数日後、りん子は新宿のゴーゴー喫茶でアフリカへ出航したはずの俊夫と再会した。
俊夫は船員ではなく、自動車のセールスマンだった。
りん子は、俊夫から船員・小川(谷隼人)を紹介され、だまされたうっぷんを情事で晴らそうとしたが、なぜか味けないものだった。
その頃、俊夫はりん子の友人・チヤ子(山口火奈子)を誘惑し、野呂も富美子に熱を上げていた。
りん子の脳裡に二人への復讐心が湧いたのは、そんな折だった。
りん子は勝行からの結婚申込みを承諾し、勝行は父の浮気を母に黙っているとの条件をのんで、結婚を許された。
しかし、もともと俊夫に心を寄せるりん子は、花嫁衣裳のまま結婚式場をとびだしてしまった。
それから二日後、りん子は俊夫と会った。俊夫は間もなく外国へ転任するという。
二人は最後の情事を結んだ。
その夜、勝行がりん子を連れ戻しに来た。
しかし、りん子の決意は固く、「私は一人で生き抜くわ…」と二人に言い放った。
コメント:
夜の歌謡シリーズの第6作。
「港町ブルース」は、森進一のご当地ソング第2曲目。
レコード大賞は逃したが、「第2回日本有線大賞」では大賞を受賞したヒット曲である。
「別れりゃ三月待ちわびる、女心のやるせなさ」
これをじっくり感じさせる映画になっている。
映画では、森進一本人が劇中に登場し歌唱をしているものの、歌詞とは全く無関係の物語だ。
この映画の主人公は女性だ。
さまざまな男に人生を振り回される悲運の女性・りん子を野川由美子が演じている。
父は船員で詳細は不明、幼少時より祖母で横浜の酒場の主である。
実母代わりの浦辺粂子に何不自由無く育てられ、同時に「男に惚れてはいけない星の上に生まれた」と教えられる。
その結果、「労働意欲も無ければ女のたしなみも何一つ出来ない、交尾で野郎達を手玉に取り、強かに生きる小悪魔になる。
貿易会社の社長の十朱久雄と、その息子で常務の待田京介を相手に平気で寝る、いわゆる「親子丼」だ。
更に、自称マドロスだが、実態は自動車販売会社の営業マンの辰兄いと、本当のマドロスで辰兄いの実弟の谷隼人とは「兄弟丼」の間柄となる。
こういう身持ちの悪い女は、関係した男たちから金をせびり取り、一生最低の人生を送るというのが、普通の映画の筋書だ。
しかし、この映画は違っている。
この四人の中で野川が心底惚れたのは「一番駄目な男」の辰兄いだった。
だんなの十朱が野川の仲間である「ずべ公グループ」の一人・賀川雪絵と愛人契約を結んでしまう。
すると、「じゃあ野川は俺の物!」と待田京介が結婚を申し出て、教会で挙式することに。
ところが、辰兄いを忘れられなかった野川は、挙式内の「誓いの接吻」を一方的に切り上げて、「皆さん、御免なさい!」と教会を飛び出してしまう。
母親代わりの浦辺粂子の元へ戻ってみると、強盗殺人事件の被害者となって変り果てた彼女の姿を目の当たりにする。
その後、この事件に対して辰兄いが野川に優しい言葉をかけ、よりを戻そうとしたため、野川を巡って辰兄いVS待田京介の一触即発の状況へと発展して行く。
男たちのはざまで揺れ動かされる野川由美子は、悩み抜く。
そして最後に、野川は、これまでの男たちとは決別して、一人で生きて行くと決意するオチになっている。
「わたしは、男に惚れてはいけない星の上に生まれた女なのだ」という言葉を胸に、独り立ちするのである。
脇に廻っても、辰兄いのスケコマシ振りやいい加減さは、どの役者よりも光っている。
やはりこのシリーズの主役は梅宮辰夫なのだ。
この映画は、AMAZON PRIMEで動画配信している: