「関の弥太っぺ」
1963年11月20日公開。
長谷川伸原作の股旅映画の名作。
原作:長谷川伸「関の弥太っぺ」
脚本:成沢昌茂
監督:山下耕作
出演者:
中村錦之助 、 木村功 、 十朱幸代 、 上木三津子 、 大坂志郎 、 夏川静江 、 武内亨 、 鳳八千代 、阿部徹 、堀正夫 、 遠藤辰雄 、 月形龍之介 |
あらすじ:
常陸の国の結城在、関本に生れた、若くていなせな弥太郎、人呼んで弥太ッぺ(中村錦之助)。
この男は、十年前両親に死に別れ、祭りの晩にはぐれた当時八つの妹・お糸を探して旅を続けていた。
途中、甲州街道吉野の宿で、旅の娘・お小夜(十朱幸代)が溺れかかっているのを救ったが、お糸のためにと肌み離さず持っていた五十両の大金をお小夜の父・和吉(大坂志郎)にすり盗られた。
だが、その和吉も箱田の森介(木村功)に切られ、お小夜を旅篭“沢井屋”に届けてくれと頼みながら息をひきとった。
沢井屋の女主人お金(夏川静江)は、緑もゆかりもない子供と拒絶したが、十三年前誘拐された娘の落し子と知って驚喜した。
それから十年、弥太ッぺは、お糸の病死を賭博田毎の才兵衛(月形龍之介)から知らされ、すさんだ生活に身をおとし、飯岡の助五郎(阿部徹)一家の客人となっていた。
笹川の繁蔵(堀正夫)一家との喧嘩に加わった弥太ッぺは十両が縁で兄弟分の契を結んだ森介の姿をみつけた。
一緒に大綱楼にくりこんだ弥太ッぺに、才兵衛は、お小夜の恩人を探してくれるよう依頼されたと話した。
だが、弥太ッぺは、黙秘した。
森介と別れた弥太ッぺは、吉野宿の祭礼でお小夜らしい娘を見つけてハッとした。
沢井屋の裏手で、夕闇の中にお小夜の姿を認めて身じろぎもできない、純心な弥太ッぺだった。
才兵衛から話を聞いた森介は、お金の前に自分がお小夜の恩人だと名のり出た。
そしてお小夜を嫁にと切り出した。
恩人と信じこむお金も、あまりのたけだけしい森介に当惑する毎日だった。
腕ずくでもと血迷う森介の噂を聞いてかけつけた弥太ッぺは、宝物のように大切にしてきたお小夜のために、兄弟分の縁を切って斬り捨てた。
そして森介が詐し取った四五両の金を返す弥太ッぺをじっとみつめるお小夜の脳裏に、十年前の弥太ッぺの面影がよみがえって来た。
“待って下さい”と追いすがるお小夜をあとに、かねて約束の助五郎一家との果し合いをせかせる、暮六つの鐘の音が鳴り響いた。
一本松へといそぐ弥太ッぺの姿も心もちか、淋しい日暮れであった。
コメント:
萬屋錦之介が中村錦之助と名乗っていた時期における作品は以下の3つに分類できる。
1.青少年向け:『紅孔雀シリーズ』、『里見八犬伝シリーズ』、『一心太助シリーズ』など
2.剣豪もの:『大菩薩峠』、『宮本武蔵』など
3.股旅もの
この三つ目のジャンルになる股旅ものには、中村錦之助のヒット作品がたくさんある。
中でも、『関の弥太っぺ』は、股旅ものとして当時の映画界では定番の作品だったが、錦之助が演じたこの作品は最も評価が高いのである。
長谷川伸の同名戯曲の映画化。
本作の前にすでに5度も映画化されている名作だが、本作後は一度もリメイクされていない。
本作が最も秀逸である証しだと思われる。
常陸の国の結城という場所で生まれたと言われる弥太郎。
現在の茨城県結城市にあたる関東の東部にあるひなびた町である。
結城といえば紬が有名だ。
関本の弥太郎、人呼んで「関の弥太っぺ(中村錦之助)」は生き別れた妹を探す旅の人。
ある日、お小夜という10歳の少女を連れた「堺の和吉(大坂志郎)」と出会う。
弥太郎はお小夜が川で溺れているのを助ける。
だが、父の和吉は盗賊であり、彌太郎の金を盗む。
同じく金を盗まれた「箱田の森介(木村功)」は、和吉を斬って金を取り返す。
森介は弥太郎の50両も持って行ってしまった。
和吉は死の直前に、お小夜を宿場の沢井屋に連れて行ってほしい、自分の素姓や死は明かさないでほしい、と弥太郎に頼む。
妹と生き別れた年頃のお小夜の姿に心を動かされた弥太郎は「娑婆には辛い事、悲しい事がたくさんある。忘れるこった。忘れて明日になれば…。ああ、明日は晴れだなぁ」とお小夜を励ましながら宿場に向かうのであった。
沢井屋の女主人(夏川静江)はお小夜の祖母だった。弥太郎は森介から50両を返してもらい、その金を軒裏に置いてお小夜を沢井屋に預ける。
裏庭の垣根越しに見える沢井屋の家族は、お小夜にやさしくしてくれているようだ。
「50両はなくなったけど、おいら、お星さまになったような気持ちだぜ」と弥太郎はその場を去る。
うす紫色の垣根のむくげが美しい。
妹の行方を探しあてた弥太郎は、妹は半年前に結核で死んだと知らされ、悲嘆に暮れる。
その10年後。
助っ人稼業で命を張る弥太郎はすっかり容貌が変わっていた。
喧嘩の現場で弥太郎は敵方に恩人の才兵衛(月形龍之介)と森介を見つける。
弥太郎は、雇い主の飯岡を裏切って逃げる。
旧交を温める才兵衛、森介、弥太郎の三人。
ここで才兵衛は、お小夜が10年前の名も知らぬ恩人を探していると弥太郎に語る。
弥太郎は、自分のことは言わず、沢井屋の垣根の前に立ち、成長したお小夜(十朱幸代)を見ると安心して立ち去る。
ところが、森介が、10年前の恩人の振りをして沢井屋にいつき、お小夜と一緒になりたいと言い張って、お小夜や沢井屋を苦しめるようになる。
ここから、弥太郎と森介の闘い、弥太郎とお小夜の再会と別れというクライマックスに向かうのだ。
とにかく中村錦之助が最高に魅力的な作品だ。
10年後と前では全くの別人で驚かされる。
前半に出てきた垣根のむくげや、「娑婆には……。ああ、明日は晴れだなぁ」というセリフがクライマックスで効果的に再現される。
追ってきた飯岡一味の待つ場所に、弥太郎が一人で向かうラストシーンは、哀愁に満ちていた。
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