「大江戸五人男」
1951年11月22日公開。
松竹30周年記念映画。
配給収入:1億2569万円(1951年度ランキング第2位)。
脚本:八尋不二 、 柳川真一 、 依田義賢
監督:伊藤大輔
キャスト:
- 幡随院長兵衛:阪東妻三郎
- 水野十郎左衛門:市川右太衛門(東映)
- 長兵衛女房お兼:山田五十鈴
- 腰元おきぬ:高峰三枝子
- 魚屋宗五郎:月形龍之介
- 白井権八:高橋貞二
- 高見澤備中守:高田浩吉
- 水木あやめ:河原崎権三郎
- 妙姫:小月冴子(松竹歌劇団)
- 小紫:花柳小菊
- 唐犬権兵衛:進藤英太郎
- 近藤登之助:三島雅夫
- 大久保彦左ヱ門:山本礼三郎
- 松平伊豆守:二代目市川小太夫
- 佛の小平:三井弘次
- 石谷将監:大友柳太朗
- 上使成瀬:海江田譲二
- 夢の市郎兵衛:阿部九洲男
- 出尻兵衛:永田光男
- 君使はつ:若杉曜子
- 芸者かつ:鮎川十糸子
- 老母お岸:毛利菊枝(劇団くるみ座)
- 仲居お萬:草島競子
- 老女千草:六條奈美子
- 宗太郎女房お末:月宮乙女
- 渡辺綱左衛門:山路義人
- 卜部季五郎:尾上栄五郎
- 坂田金平:天野刃一
- 旗本五十嵐:加賀邦男
- 旗本錦織:笹川冨士夫
- 小姓数馬:沢村アキオ(後の長門裕之)
- 放れ駒四郎兵衛:小堀明男
- 冥途の又八:青山宏
- 山村佐兵衛:葉山富之輔
- 並木冨輔:高松錦之助
- 供侍露木:椿三四郎
- 用人倉田:玉島愛造
- 新造百代:林喜美枝
- 桟敷の腰元:河上君栄
- 青山鉄山:河原崎権十郎
- おきく:河原崎権三郎
- 忠太:坂東蓑三郎
- 浄瑠璃:豊竹寿太夫
- 三味線:豊澤竹之助
魚屋宗五郎を演じた月形龍之介、白井権八を演じた高橋貞二、高見澤備中守を演じた高田浩吉を加えて5人を強調し、松竹の記念映画とするために、このタイトルにしたのだろう。
山田五十鈴は、女優の中で筆頭格であり、阪東妻三郎が演じた幡随院長兵衛の妻・お兼を演じている。
抑えた演技の中に、長兵衛の女房としての貫禄と長兵衛への愛が醸し出されている。
あらすじだけだと何が面白いのかさっぱり分からないので、映画全編を見ることをお勧めする。
だが、時間が無い方は、そのさわりをどうぞ:
幡髄院長兵衛もので「悪玉」としてよく出てくる旗本奴集団・白柄組の横暴から始まる。
その白柄組の中心人物の水野十郎左衛門に市川右太衛門の御大が扮するという驚きのキャスティングなのだ。
御大が悪役とは!
まずは、芝居小屋のであやめ太夫相手に白柄組が嫌がらせ行動を起こすシーン。
あやめ太夫役の(四世)河原崎権三郎丈(後の三世河原崎権十郎丈)は本職の歌舞伎役者さんだ。
この頃は菊五郎劇団に所属で、大川橋蔵さん繋がりで入手してる「梨園」(昭和30年)という雑誌には若手の歌舞伎で橋蔵さんと共演している写真が何枚もあるのだが、ほんとに美男(権三郎丈)&美女(橋蔵)。
すっきりとした優男系男前。
この雑誌に「大江戸五人男」の場面写真も1枚だけ載っていたが、
映画初出演だったらしい。
「阪妻さん右太衛門さんに助けられてどうやら勤め終えました」とのコメントがある。
本職だけあって所作が綺麗。
さて、この芝居小屋の場面で、阪妻演じる長兵衛が、十郎左衛門に啖呵を切るところがかっこいいっ!
白柄組はその場は引きさがるのだが、その直前に十郎左衛門は、長兵衛に向かって
「俺の顔を見知りおけよ」
と、しっかりにらみつける。
つまり、「覚えとけよ!」ということだ。
さて、その後、十郎左衛門の屋敷が出てくる。
十郎左衛門のところの腰元のおきぬ(高峰三枝子)は、十郎左衛門とすでに深い仲になっていて、十郎左衛門のことを好きでしょうがない。
だが、身分の低い町人の娘故に妻になることはできないのだ。
いわゆる「身分違いの恋」なのだ。
十郎左衛門が、高嶺の花のお姫様とお見合いする日が近づく。
わかっていても、別れの火が近づいて心震えるおきぬ。
高峰三枝子がこういう腰元の役をやるのは珍しい。
だが、この場面は泣かせる。
高峰の演じる腰元・おきぬの兄・魚屋宗五郎には月形竜之介。
あの二枚目で売った月形竜之介が、普通の魚屋のあんちゃんというのが笑える。
宗五郎は、江戸っ子言葉で、おきぬにあきらめるよう諭す。
十郎左衛門の屋敷内でおきぬが泣いているところに、白柄組でも札付きのワル・近藤登之助(三島雅夫)が登場し、十郎左衛門に声をかける。
遊郭の吉原に行こうと誘うのだ。
すると、十郎左衛門もおきぬを置いて出かけてしまう。
ところ変わって吉原。
花魁(おいらん)の小紫(花柳小菊)に会いたいと、身分を偽ってやってきた白井権八(高橋貞二)だったが、
そのことを自ら白状してしまう。(しかも金も無いことも白状)
小紫は呆れつつも、その真正直さに彼を放免してやるのだ。
(お勘定は花魁持ちということ)
このおいらんを演じているのは花柳小菊という美人女優で、当時時代劇では売れっ子だったようだ。
山田五十鈴とも何度も共演している。
おいらんとしての演技もさまになっていて、思わず
「姐さん、粋だねぇ」と言いたくなる。
その後、嫌な白柄組の宴席に小紫は向かう。
近藤登之助が花魁にモーションをかけるが、小紫はつんとしたまま。
十郎左衛門が「深く言い交わしたやつがいるならともかく・・・・」と小紫を追いつめる。
そこで小紫は、帰ろうとしていた権八を引きとめ、彼が自分が命をかけて言い交わした男(ひと)と紹介したから、さぁ大変!
しかも、権八が、自分は幡髄院一家の身内だと言ったものだから、先の芝居小屋の件で煮え湯を飲まされた白柄組は更にヒートアップする。
(おもしろくなってきたね!)
一触即発になりかけたが、十郎左衛門が女を巡って悶着あってはまずいと、ここは納める。
だが、市中で権八を白柄組が・・・・!
その喧嘩のさなか、無関係の一般庶民の蕎麦屋の男が屋台の車輪の下敷きになって死亡。
捕方によって騒動はおさまったが、喧嘩を仕掛けた白柄組は御咎めなし(旗本ゆえ)。
一方幡髄院一家の者たちは多数捕えられた。
満身創痍の権八を長兵衛は怒ったまま襖を閉めて会おうとしなかった。
だが、女房のお兼(山田五十鈴)に紹介状を渡され、長兵衛が隠れ先を紹介してくれたことが分かって、涙を流す権八。
その後、松平伊豆守(市川小太夫)が、町奉行立合いの元、天下のご意見番で旗本の大久保彦左衛門(山本礼三郎)を呼び出した。
旗本の若い者をおだてるのもいい加減にしてもらいたいという伊豆守に、彦左衛門は
「徳川の礎を築いたのは旗本ぢゃ」
と不満をぶつけまくる。
それには伊豆守もぷちっ。
「こたびの白柄組の騒動が政道を乱すもの」
と、厳しく、旗本を束ねる彦左に申し渡すのだった。
伊豆守に思い切り怒られた彦左は、
白柄組の頭の十郎左衛門に、白柄組を抜けてくれないかと告げる。
十郎左衛門よ、おまえが抜ければ自然と瓦解するといいたいのだ。
だが、十郎左衛門は
「手前に死ねと申すか」
と断固拒絶したのだった。
先日の喧嘩で例の死んだ蕎麦屋の母親が乗り込んでくる。
そこには一家より見舞金が出されていたが、金ではなく、息子を返してと泣き叫ぶ。
「何かといえば喧嘩三昧、何が町人の味方だ」
と叫ぶ蕎麦屋の母の言葉に、グサっとくる長兵衛。
旗本が集まる席で、旗本連中が解散なんぞまかりならんと、各旗本奴が結束を固める。
近藤が今後の接待で皆を吉原にとなると相当の費用がかかるが、老中どもを抑えつけて、町奴を蹴散らすには金だということになる。
そこで、十郎左衛門も、家宝の南蛮絵皿を売ろうと考える。
だが、そんな見栄や意地のことで売るべきではないと、おきぬは売ることに反対する。
しかも将軍家から拝領した品を売ったとなると、道具屋などから漏れたらお家がただではすみますまいと、おきぬが正論を吐く。
十郎左衛門がおきぬと言い争いの末に、激情して太刀に手をかけ、おきぬに迫ろうとする。
恐ろしさでおきぬがのけぞり、その拍子におきぬの足が絵皿の箱を倒してしまう。
それを検分してみると、
10枚目の皿が割れていて・・・・・
そして、十郎左衛門は、おきぬを斬る。
おきぬは苦しんで、井戸に転落。
事の顛末をきぬの侍女から聞いたおきぬの兄・宗五郎は、おきぬの位牌を胸におさめて十郎左衛門の元へ。
宗五郎が叫ぶ。
「水野ーーーー!出てこいっ!」
悲しみで酒でも煽っていたのか、ふらふらの体で叫び続けるが、追いだされる。
(こういう泣きの演技は、月形竜之介には珍しい)
一方権八はおいらんの小紫の所で身支度を整えている。
あれ、双方本気か?
権八は市中で倒れている宗五郎を見つけて長兵衛の元に連れて行く。
だが、長兵衛は宗五郎の話には乗れないという。
納得のいかない権八はすごむが。
長兵衛は、蕎麦屋の母のあの言葉を気にしているのかも。
すると
「何が幡髄院長兵衛だ!」
と権八は宗五郎を連れて出て行く。
芝居小屋を見てハタと思いついた権八。
あやめ太夫のいるあの一座に、おきぬの顛末を話す。
すると、あやめ太夫がこう言う。
「ねぇ、どうぞやらしておくんなさい。おきぬさんの役になって、おきぬさんの恨みつらみを舞台で一緒に泣いてみたい」
そしてついに、このおきぬの話を元にした芝居が始まる。
そこへ、首謀者の水野十郎左衛門も観にきた!
十郎左衛門が身を乗り出して観ている!
無事終演して、ホッと一息かと思いきや、あやめ太夫の楽屋に十郎左衛門が・・・。
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エンディングまで観た方は、この映画の素晴らしさ、幡髄院長兵衛の偉大さを感じることができること、請け合い。
主役の坂東妻三郎の渾身の演技の素晴らしさもお分かりになるであろう。
これは、間違いなく名作だといえる。