山田五十鈴の映画　「猫と庄造と二人のをんな」谷崎潤一郎の原作を映画化！関西弁の世界を堪能！

「猫と庄造と二人のをんな」

猫と庄造と二人のをんな] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

1956年10月9日公開。

谷崎潤一郎の異色の原作を映画化。

原作：谷崎潤一郎「猫と庄造と二人のをんな」

脚本：八住利雄

監督：豊田四郎

出演者：

森繁久彌、浪花千栄子、山田五十鈴、香川京子、萬代峰子、三好栄子、南悠子、芦廼家雁玉、林田十郎、田中春男、山茶花究

あらすじ：

庄造（森繁久彌）は猫のリリーに異常な愛情を抱いている。

芦屋にある彼の家は小さな荒物屋だが、家中にリリーの匂いが充満し、庄造の生活の大半もこの猫のために費されているといってよい位である。

庄造の母親・おりん（浪花千栄子）は、夫亡きあと女手一つで甲斐性なしの息子を育て上げた勝気な女だが、世間の評判は芳しくない。

庄造の前の女房・品子（山田五十鈴）を追い出したのも、おりんの仕業と噂されている。

品子はしっかりした女で商売にも身を入れたが、おりんとは全くそりが合わなかった。

庄造の叔父・中島（林田十郎）が娘・福子（香川京子）を庄造にと言った時、一も二もなく承知して品子には子種がないからと追い出したのはおりんだった。

菓子製造・販売で小金持の中島の福子は母親が死んでからグレ出し、家出二回という浮気娘だが、左前の店にとって持参金付きは大きな魅力。

だが庄造は福子が来てからも相変らずリリーに夢中である。

品子は六甲の妹・初子（南悠子）の許に身を寄せたが、妹の夫・添山（山茶花究）は良い顔をしない。

ある日、仲人の木下から後釜に福子が来たとの知らせが来る。

憤慨した品子は必ず庄造の許に戻ってみせると決心し、手始めにリリーの引き取りを考えて庄造に持ちかけるが、はねつけられる。

次には手を変えて福子に向い「庄造は貴女よりリリーが大事なんだから早く離した方がいい」というが、策動に気づいたおりんのためオジャン。

だが福子も遂にリリーに我慢できなくなり、揚句の果て、リリーは品子の許へ。

庄造の落胆ぶりはひどく、争いの末福子と庄造は共々飛び出してしまう。

一方、品子の家でもなつかぬリリーに弱る中、留守の間に逃げられてしまう。

好物のかしわの水煮きを持って、品子の家近くでリリーを待つ庄造も、遂にしびれを切らして帰る。

暫くしてリリーは品子の許に戻ってくる。

添山は品子の部屋を友人・友川に貸すから出てくれと迫るが、リリーに惹かれて庄造が来ると信じる品子は慌てない。

福子は友人・多美子に意見され戻ってきたが、庄造の留守に国粋堂の親爺が来て、かしわを買うと借りた金を請求。

福子は庄造が品子の所へ行ったと察しヒステリックに当り散らす。

様子をうかがい知った庄造は逃げ出し、又もやリリーのいる品子の許へ。

品子の留守にリリーと会った庄造は、帰って来た品子に「人間は皆嫌いや、わての気持を知るのはリリーだけや……」と叫び、外へ飛び出す。

そこへやって来た福子は品子と睨み合い。

二人を尻目に庄造はリリーを抱いて雨の中を行く。

コメント：

原作は、谷崎潤一郎の同名長編小説。

猫のリリーを中心に、2人の女と1人の男の三角関係を描いた物語。

人間同士の争いをペットの猫を通して描いている異色作である。

この映画は何度でも観たくなる一本。

森繁久弥の猫好きが、周囲の女たち（母・浪花千栄子、妻・山田五十鈴、後妻・香川京子）を揺さぶり、翻弄する。

芥川也寸志による音楽は、團伊玖磨のそれとはまた違う軽妙さや陽気さが印象的。

激しい雨降る浜辺のラストは居場所を失った森繁の心情と見事にマッチしている。

森繁久彌、山田五十鈴をはじめ、関西弁ネイティブの俳優陣が丁々発止と繰り出す愛憎入り混じった罵詈雑言がなんとも滋味深く、豊潤な人情譚にさらなるグラデーションをもたらしていた。

晴れやかな海辺の突堤から品子がヒラリと身を投げ打つシーンをはじめ、どこからともなく聞こえる鼻歌で福子の存在と気性がわかるシーンや、激しい夕立のなかで猫を抱きかかえながら庄三が怯えるシーンなど、空間や音を存分に活かした豊田四郎の映画的叙情に富んだ語り口に魅せられる秀逸の人情喜劇。

関西弁でしゃべるキャストの掛け合いは終始絶妙。

女優陣たちの動的でダイナミックな演技が何と凄まじいことか。

何か後年の名作「甘い汗」（1964年）を連想させる。

このような芝居が完成するまでに、きっときびしい豊田四郎監督に泣くほどしごかれたことだろう。

やはり主人公・庄造を演じる森繁久彌の独特の演技が素晴らしい。

本当にこういった役が巧いなあ、としみじみ思わせる。

だが、この男を取り合う妻と後妻を演じる、山田五十鈴と香川京子との夫と猫の取り合いがまことに面白く描かれていて飽きない。

そこに庄造の母・浪花千栄子が事態をどんどん悪化させて行き、収拾がつかなくなる。

女同士の意地をかけた争いを、関西弁で演じているので、おかしさが倍加されて、存分に楽しめる作品である。