「コミック雑誌なんかいらない!」
1986年2月1日公開。
内田裕也の脚本・主演による社会風刺映画。
成人映画出身の滝田洋二郎が初めて一般映画の監督を務めた作品。
脚本:内田裕也、高木功
監督:滝田洋二郎
キャスト:
- 内田裕也 (芸能レポーター・キナメリ)
- 渡辺えり子 (キナメリの妻)
- 麻生祐未(少女)
- 原田芳雄 (プロデューサー)
- 小松方正 (ワイドショーの司会)
- 殿山泰司 (隣の老人)
- 常田富士男 (警察官)
- ビートたけし(殺人犯)
- スティービー原田 (殺人犯の子分)
- 郷ひろみ(ホスト)
- 片岡鶴太郎(ホスト)
- 港雄一 (ホスト)
- 久保新二 (ホスト)
- 桑名正博 (バーの客)
- 安岡力也 (バーの客)
- 篠原勝之 (バーの客)
- 村上里佳子 (バーのママ)
- 小田かおる (レポーター)
- 志水季里子 (キナメリを買う女)
- 片桐はいり (ホストクラブの女)
- 橘雪子 (ホストクラブの女)
- 趙方豪 (レポーター志願者)
- 梨元勝 (芸能レポーター)※クレジット無し
- 嶋大輔(本人役)
- 三浦和義 (本人役)
- 桃井かおり(本人役)
- おニャン子クラブ
- 逸見政孝(当時フジテレビアナウンサー)
- 横澤彪(当時フジテレビプロデューサー)
あらすじ:
ワイドショウのレポーター、キナメリ(内田裕也)は突撃取材で人気がある。
妻はコマーシャル・タレントだが、二人の時間帯はまったくかみ合わない。
ハードなスケジュールで動くキナメリは、朝食ではパンにビタミン剤をはさんで食べている。
その日も、成田から飛び立つ桃井かおりに、放送作家の高平哲郎氏との恋愛についてマイクを向けていたが、まるで相手にされなかった。
しかし、ワイドショウの司会者はそのコケにされ方がいいと誉める。
キナメリは、あるときは運送屋に変装して人気タレントを追い、バリ島から帰ってきた三浦和義を成田で待ちうけた。
町を歩けば娘たちにサインを求められる。
ある晩、キナメリは馴染みのバーに入ると、そこにはロックン・ローラーの桑名正博と安岡力也がおり、かつて大麻で捕ったときに、二人はキナメリに手痛い目に合わされたことがあった。
二人はキナメリにからみ、店から追い出してしまう。
キナメリの表情は想いを内に秘めたようにクールだ。
松田聖子、神田正輝の結婚式が近づいており、キナメリは聖子の家に張り込み、彼女が喜びのあまり、風呂場で唄う「お嫁サンバ」を録音することに成功するが、電信柱に昇っているところを警官に捕ってしまう。
警察ではこっぴどく叱られ、始末書を書かされるが、プロデューサーはどんどん過激にやれ、後の面倒は局が見るからとキナメリを煽る。
キナメリは聖子・正輝の結娘式ではガードマンに殴られ、準備中と札の出ているフルハムロード・ヨシエに入って三浦和義にマイクを向けてコーラを浴びせかけられてしまう。
彼は大阪に向かい、山口組、一和会の抗争の取材もする。
その頃彼のマンションの隣りに住む老人(殿山泰司)が、セールス・ウーマンから金を買ったという話を聞く。
疑問を抱いたキナメリは独自に、金の信用販売会社を捜索し始めた。
その頃、キナメリの取材が行き過ぎということで、彼は夜の番組に移されることになり、風俗産業をレポートすることになる。
その番組で、金の信用販売についてレポートしたいとプロデューサーに提案するが相手にされない。
夜の新宿を歩くキナメリは、アルタの壁面のビデオで三浦が逮捕されたことを知った。
ある日、ホストクラブを取材し、一日ホストを勤めた彼は、ある女に買われホテルに入る。
女は激しく体を求め、終わると、金の替りに数百万円の金の証明書を彼に渡した。
数日後、テレビのニュースで女がガス爆発で自殺したことを知り、彼はハッとして隣りの老人のドアを叩くが返事はなく、数日分の新聞がたまっていた。
日航機の堕落を取材したキナメリは東京に戻り、金の信用販売会社、社長のマンションに向かうと、そこに二人組の男が現れ、取材陣の前で窓を破って中に入ると、アッという間に社長を刺殺してしまう。
後を追って中に入ったキナメリも傷を負う。
部屋から出て来たキナメリに、他の取材陣は室内の情況を訊くが、彼は口を開かない。
取材陣がキナメリをののしると、彼はポツリと“アイ・カント・スピーク・ファッキン・ジャパニーズ”と呟いた。
コメント:
主演の内田裕也扮する人気芸能レポーターの奮闘ぶりを通して、ワイドショーに踊らされる大衆を皮肉った作品である。
成人映画出身の滝田洋二郎が初めて一般映画の監督を務めた作品でもある。
なおタイトルは内田がファンであるという頭脳警察の楽曲のタイトルから付けられた。
作品中には当時実際に起こった事件・事故や出来事を取り入れており、特に芸能界で「お騒がせ」した本人は作品中に自ら登場しているなど異色のキャストも話題となった。
本作に取り上げられている事件:
- 豊田商事事件
- 豊田商事会長刺殺事件
- 日航ジャンボ機墜落事故
- 山口組と一和会の抗争(山一抗争)
- ロス疑惑(三浦和義が作品内に出演)
- 松田聖子と神田正輝の結婚(松田と以前交際していたとされる郷ひろみが出演)
- 桃井かおりと高平哲郎との交際(桃井が作品内に出演)
内田裕也の作品内の口癖「恐縮です」は、実際の芸能レポーター・梨元勝のキャラクターをモデルにしている。
その梨元本人も作品内に登場している。
本作のエンド20分前くらいからのクライマックスシーンが凄い。
マスコミが取り囲むなか、殺し屋二人が登場し、金の信用販売会社の社長が住むマンションの一室に殴り込んで、社長を刺し殺す。
その殺し屋の一人をたけしが演じている。
そこに内田裕也扮するレポーター・キナメリも単独で中に突入するが、殺し屋に腹を刺される。
たけしたち殺し屋二人は、堂々と中から出てきて、エレベーターに乗って姿を消す。
その間、ずっと数十人のマスコムが取り囲んでカメラとマイクを向けるが、なぜか警察は不在だ。
しばらくして内田裕也が一人で出てくるが、何も言わない。
マスコミにコメントを求められた祐也は、たった一言
「アイ・カント・スピーク・ファッキン・ジャパニーズ」と語る。
この当時の社会がいかに狂っていたか、いかにマスコミが異常な報道を続けたかを皮肉っている最高のギャグ映画だ。
本作は、カンヌ映画祭監督週間に招待された。
また、ニューヨーク・ロサンゼルスの映画館でも上映され、世界的にも高い評価を受けた。
レポーターの姿をとにかく淡々と描くことで、今から見るとあまりに異様な80年代のマスコミ、芸能界の姿が曝け出されている。
80年代は、逮捕された事件の犯人を移送中の新幹線でインタビューしたり、暴力団の事務所に突撃インタビューしたり、今では考えられないゆるさと無茶苦茶ぷりがあった。
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