「新仁義なき戦い」
1974年12月28日公開。
「仁義なき戦いシリーズ」の番外編「新仁義なき戦いシリーズ」第一弾。
配給収入:3億9700万円(ランキング第9位)。
原作:飯干晃一
脚本:神波史男、荒井美三雄
監督:深作欣二
キャスト:
- 山守組:モデルは山村組。
- 三好万亀夫 - 菅原文太:山守組幹部で物語の主人公。モデルは美能幸三。
- 山守義雄 - 金子信雄:山守組々長。モデルは山村辰雄。
- 山守利香 - 中原早苗:山守義雄の妻。モデルは山村邦香。
- 坂上元 - 田中邦衛:山守組幹部。山守の腰巾着。モデルは樋上実。
- 北見登 - 渡瀬恒彦:刑務所で三好の子分となる。出所後は青木組に身を寄せていたが、三人の子分を引き連れて三好の出所を待ち、三好に身を寄せる。
- 中野恵子 - 池玲子:三好の情婦。名古屋の朝鮮キャバレーのホステス。
- 青木組
- 青木尚武 - 若山富三郎:山守組若頭。三好や難波の兄貴分。山守と反目。モデルは佐々木哲彦。
- 青木文子 - 松尾和子:青木の妻。
- 橋八郎 - 宍戸錠:山守組若衆。青木の弟分。三好とは五分の兄弟分。愛称「はっちゃん」。脳梅(梅毒患者ですでに梅毒性痴呆)を発症している。
- 占部哲男 - 睦五郎:青木組若衆。
- 工藤進 - 八名信夫:青木組若衆。難波を射殺。
- 東尾ただし - 誠直也:青木組組員。工藤と共に難波を射殺するが殺される。
- 東尾ただしの母 - 菅井きん
- 難波組
- 難波茂春 - 中谷一郎:山守組幹部。モデルは野間範男。
- 野崎満州男 - 室田日出男:難波組若頭。難波組の二代目となるべく青木の舎弟となる。モデルは岡崎義之。
- 関勝 - 松方弘樹:難波組幹部。三好に刑務所で世話になり弟分になる。野崎とは五寸の間柄。モデルは門広。
- 玉井 - 川谷拓三:関の子分。
- 笹本 - 志賀勝:関の子分。
- 山守建設:土木・建設・請負。
- 山守健二 - 山城新伍:山守義雄の甥。堅気の名古屋支店長。
- 前田久雄 - 国一太郎:名古屋支店次長。
- 浅田組:モデルは土岡組。
- 浅田広人 - 鈴木康広:浅田組々長。三好に撃たれる。モデルは土岡博。
- 浅田の妻 - 丸平峰子
- 海老原 - 松本泰郎
- 海津組:モデルは岡組。
- 海津卯之吉 - 安藤昇:広島の大親分。モデルは岡敏夫。
- 天野秀造 - 守田学哉:海津組幹部。青木と兄弟分になる。モデルは網野光三郎。
- 津上 - 高並功
- 緒方組:松山の組。
- 緒方正範 - 名和宏:二代目組長。
- 緒方正義 - 内田朝雄:初代組長。(出演シーンカット)
- 緒方組若衆A - 秋山勝俊
- 緒方組若衆B - 汐路章
広島のヤクザ抗争を描いた「仁義なき戦いシリーズ」は、第四弾『頂上作戦』で、誰がどう見ても完璧なエンディングを迎えたが、岡田茂東映社長は「このシリーズはまだまだ客が入るわ」とさらに続編製作命令を出し、第五弾『完結篇』が作られ、これまたシリーズ最大のヒットを記録した。
その結果、儲かるためなら手段を選ばない根っからの商売人といわれた岡田茂が、簡単にシリーズを止める訳がなく、"完結篇"と銘打ったのにも関わらず「仁義なき戦いシリーズ」の更なる続行を命じたのであった。
前シリーズのコンビ、監督:深作欣二、主演:菅原文太で、新たにフィクション仕立ての実録タッチ新シリーズが企画されたのだ本作だ。
素材は昭和34年頃、広島県呉市で起きた暴力団の内ゲバ事件。
舞台は1950年(昭和25年)秋、呉の山守組組員三好万亀夫は浅田組々長を拳銃で撃ち、殺人未遂で8年間刑務所へ収監。
1959年(昭和34年)11月に三好は仮出所するが、その後の山守組の内紛劇を描く。
仁義なき戦い第1作目とほぼ同じ題材だが、これまでの集団抗争劇とは体裁を変え、登場人物の性格描写に主眼を置いた演出が為されていること、クライマックスである「青木襲撃事件」を関側からの視点で描く等の違いがある。
深作は映画製作中に「人間の弱さ、醜さ、おかしさを徹底して追及してみたい」などと話した。
前年まで9年連続で高倉健が務めてきた東映の正月映画だが、この年初めて、菅原文太=深作欣二コンビが第一弾を務めた。
「新仁義なき戦いシリーズ」の第一弾『新仁義なき戦い』の正式な製作発表があったのは1974年10月23日で、正月第一弾が『新仁義なき戦い』/『ザ・カラテ3・電光石火』、正月第二弾が『山口組三代目・激突篇』/『直撃地獄拳・大逆転』と発表されたが、「後半の『山口組三代目』については又世論がかかるかも知れないが成人映画も覚悟の上で、未成年リミットのないような前半番組とした」と説明があった。
東映としては製作すれば大ヒットは間違いない『山口組三代目・激突篇』なら『大地震』や『エアポート'75』『007/黄金銃を持つ男』などの 洋画の超大作や、東宝の百恵・友和映画、松竹の寅さんに伍して1975年正月興行を戦えると踏んでいたが『山口組三代目』を二本もやったことで1974年の秋以降、兵庫県警による東映への捜査が厳しくなり、東映本社等に手入れが入り、岡田社長は兵庫県警から「東映は暴力団と癒着している。『山口組シリーズ』はやめてくれ」と迫られ、ジャーナリズムからも袋叩きに遭い、『山口組三代目・激突篇』の製作中止をやむなく決断した。
中止を決めたのは1974年の11月に入りかけで]、正月映画が11月頃に中止になると、映画会社にとっては大きな打撃を被り、『山口組三代目・激突篇』は既に脚本もキャスティングも決まり、ポスターも刷り上がっていたため、製作中止で1億円以上の損害が出たという。
慌てて番組編成をやり直し、正月第一弾を『新仁義なき戦い』/『直撃地獄拳 大逆転』、正月第二弾を『日本任侠道 激突篇』/『ザ・カラテ3 電光石火』に組み直したのであった。
柳の下にはドジョウは何匹でもいるという東映の方針で、終わったはずの「仁義なき戦い」が新シリーズとして登場。
ところが、菅原文太の役柄こそ、三好万亀夫と名前が変わっているが、金子信雄が山守信雄に扮し、山守組での内乱が描かれいる。
言ってみれば、「仁義なき戦い」第1作の別バージョンである。
配役として、若山富三郎が新規に加わっているが、それ以外はあまり変わり映えせず、いくら何でも同じ題材を使いまわすというのはひどい。
菅原文太が若山富三郎に、「狙ってる方が強いんじゃ。用心せいよ」と言う台詞は、第1作で菅原文太が松方弘樹に言う台詞と同じ。
朝鮮人(池玲子)と被差別部落(松方弘樹)にささやかな言及があるのは、脚本家の意地だろう。
そういった状況であっても、一応見れる映画に仕上げているのは深作欣二の演出力である。
この頃の深作は乗りに乗っている。
ラストは、あたかも続編があるかのような終わり方になっているが、さすがにこれでは無理だと思ったのだろう、これ一本でシリーズ化はされなかった。
後に続く「新仁義なき戦い」シリーズはこの作品とは無関係で、舞台も別の場所だ。
これは「仁義なき戦い」のリメイクっぽいような作品で内部抗争の話。
とにかく、やっぱりこのシリーズは面白い。
金子信雄が同じ山守組々長で性格もまんま、むしろエロジジィぶりがバージョンアップ。
田中邦衛も似たような役で出演。
もちろん文太はかっこいいが、いちばん光ってるのはこの金子信雄のエロさとセコさかも。
抗争の発端も女がらみだ。
とにかくこの映画は、『仁義なき戦い』シリーズの同窓会のような作品で、おなじみのメンバーがずらり。
だが、配役は金子信雄扮する山守以外、全員が別名の役になっている。
文太は相変わらず「仁義」を重んじる古いタイプの任侠の男だ。
新メンバーは、まず若山富三郎。
予想通り、しっかりした貫禄がある。
本作では文太と対抗する大物ヤクザを演じており、存在感がハンパない。
さらに、安藤昇が出ている。
出番は少なく、話し方も穏やかだが、やっぱり元本物は眼光とか佇まいが違う。
こういう存在感のある役者は当時のやくざ映画では別格だった。
文太の愛人役で池玲子が出ている。
エロス担当として申し分ない。
自分が文太の弾除けとして利用されているのを知って、文太を見限るところが面白い。
この映画の看板の写真はそれを表わしているのだ。
若山富三郎扮する青木は襲撃されて命を落とすが、そのとどめを撃つ松方弘樹の姿が忘れられない。
松方弘樹は前回まで3度出演して全て殺されているが、その姿こそ「仁義なき戦い」を象徴していると思えてならない。
シリーズ全体における最大の功労者だ。
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