「人斬り」
1969年8月9日公開。
司馬遼太郎の短編『人斬り以蔵』を参考文献にしたオリジナル作品。
配給収入:3億5000万円。
脚本:橋本忍
監督:五社英雄
キャスト:
岡田以蔵:勝新太郎
25歳。土佐国の国谷里郷で貧乏郷士の子として生れる。実戦剣法を身につけ、狼のような凄みを持つ暴れん坊。土佐勤皇党で殺し屋の役目の人斬り剣士となる。鮮やかな暗殺ぶりで「人斬り以蔵」と京の街で知れわたる。
武市半平太:仲代達矢
34歳。土佐勤皇党の首領。冷酷な革命家。京都に上り、三条木屋町の料亭「丹虎」の離れの「瑞竹荘」で起居し倒幕の政策を練る。腕の立つ以蔵を自身の「犬」として飼い馴らし、佐幕保守派を暗殺する。以蔵は武市が口にする政策上「好ましからぬ人物」を斬り殺し、お手当金を貰う。武市は目的のためには手段を選ばない非情さを持つ。
田中新兵衛:三島由紀夫
22歳。薩摩藩の有名な人斬り剣士。「人斬り新兵衛」と呼ばれて、京洛の人気を以蔵と二分する示現流剣法の使い手。武市の陰謀により姉小路卿暗殺の嫌疑をかけられ、自分の剣を見せられ切腹死する。
坂本竜馬:石原裕次郎
28歳。元土佐勤皇党だったが土佐藩を脱藩し、武市とは別の方途で倒幕を目指している。以蔵とは子供の頃からの顔なじみ。人斬りを辞めるように以蔵に助言する。浪人狩りで六角牢に入牢した以蔵の放免に尽力する。
おみの:倍賞美津子
五条新地の遊郭「山城屋」の女郎。以蔵の情婦。
姉小路綾姫:新條多久美
姉小路公知の妹。美しい姫。武市と共に邸に来た以蔵を見て、「お前が以蔵なのね」とまじまじと見つめ、「獣!」と蔑む。以蔵は綾姫に一目惚れする。
姉小路公知:仲谷昇
27歳。天皇側近で攘夷派の急進的公卿。武市と政策を共にしていたが、土佐勤皇党の手荒な暗殺手法を憂いて次第に意見が合わなくなる。武市の密命で以蔵に斬られる。
勝海舟:山内明
幕臣。以蔵は竜馬に依頼されて一度護衛を務めた。
吉田東洋:辰巳柳太郎
47歳。山内容堂の厚い信任を受ける土佐藩執政。雨の中、武市の部下3名の刺客(安岡嘉助・那須信吾・大石団蔵)に暗殺される。
あらすじ:
岡田以蔵(勝新太郎)は、土佐の貧乏郷士に生まれ育った酒と女に目のない暴れ者だった。
そんな彼を“人斬り以蔵”とまで呼ばれる刺客に仕込んだのは、土佐勤王党の首領・武市半平太(仲代達矢)だった。
冷酷な革命家・武市は、自分の政策上以蔵の腕を必要としていたのだった。
土佐藩主の執政・吉田東洋(辰巳柳太郎)を門出の血祭りにあげて京に上った二人は、派手な殺りく活動をはじめ、好ましからぬ人物を次々に消していった。
以蔵の活躍は一躍京洛の話題になり、薩摩の有名な人斬り田中新兵衛(三島由紀夫)と比較されるほどになった。
そんな彼にとっての関心事は、女郎おみの(倍賞美津子)を抱くことと、姉小路邸で見かけた綾姫(新條多久美)を偲ぶことだった。
やがて、以蔵は渡辺金三郎を襲った武市の命に従わず、その暗殺に加わり、新兵衛と殺しの腕を競った。
それから間もなく、武市は、以蔵に新兵衛の刀を持たせ、自分を後だてしていた姉小路(仲谷昇)を暗殺した。
それは政策の上で相違が生じたためだった。
この一件で嫌疑をかけられた新兵衛は、武士らしく自ら果てた。
自分のおかれた立場の惨めさを思い知らされた以蔵は、悩み苦しんだ。
そんな以蔵にあたたかい友情の手をさしのべたのは、坂本竜馬(石原裕次郎)だった。
竜馬は新しい日本をつくるために自分と行動を共にすることを勧めた。
だが、無学な以蔵は、大きな時の流れに押し流されてゆくのみだった。
土佐藩執政吉田暗殺事件が露見した。
そして武市一派は土佐に呼び戻され、取り調べられた。
武市にとって、以蔵はもはや無用の長物でしかなかった。
そこで、以蔵は武市の使いに毒を盛られたが、九死に一生を得、白洲に出て武市一派の行状を暴露した。
武市はやがて切腹。
以蔵は武市から解放された喜びを味わいつつ磔台のつゆと消えていった。
コメント:
勝新太郎が監督に五社英雄を招き、司馬遼太郎の原作を橋本忍が脚本を書き、親交のある仲代達也、石原裕次郎、三島由紀夫など豪華メンバーで幕末の土佐のテロリスト、人斬り以蔵こと岡田以蔵の半生を描いた作品だ。
日本映画界の五社協定がくずれはじめ、スターたちが自分のやりたい映画を撮るためスタープロを作りはじめた時代の先駆け的作品ともいえる。 したがって、豪華俳優陣が出ているが、ほとんど勝新太郎の独壇場の映画だ。
幕末のテロリスト以蔵の存在は強烈な印象で記憶に残った。
この映画以前には、岡田以蔵という名前は知られていなかった。
本作が、幕末の志士の一人として、岡田以蔵を世に知らしめたのだ。
やはり本作で観れる勝の演じた以蔵は、汚さ、哀れさ、リアル鎖の点でピカイチだ。
また、本作では以蔵とともに幕末の三大人斬りと言われた薩摩の人斬り田中新兵衛を三島由紀夫が熱演しており、特に切腹シーンはその後の三島の最後を想像させ、一見ものである。
京都の蒸し暑い夏の描写、登場人物は油を塗ったかのよう。
陰影の強い画作りで、ただならぬ雰囲気で上々の滑り出しを見せる。
吉田東洋の暗殺場面は豪雨の中、辰巳柳太郎の鬼気迫る殺陣でたっぷりと見せ場を作る。
さすが、新国劇だ。
主役の勝の殺陣は力がみなぎり、五社の時代劇でも完成度は高い。
映画会社が求める大型時代劇の要件は十分満たしている。
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