第44回日本アカデミー賞受賞作品「罪の声」 小栗旬と星野源が共演したミステリー! | 人生・嵐も晴れもあり!

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「罪の声」

 

 

罪の声 予告編

 

2020年10月30日公開。

グリコ・森永事件をモチーフとした同名ミステリー小説の映画化。

 

受賞歴:

  • 第44回日本アカデミー賞
    • 優秀作品賞
    • 優秀主演男優賞(小栗旬)
    • 優秀助演男優賞(宇野祥平、星野源)
    • 優秀監督賞(土井裕泰)
    • 優秀脚本賞(野木亜紀子)
    • 優秀撮影賞(山本英夫)
    • 優秀照明賞(小野晃)
    • 優秀音楽賞(佐藤直紀)
    • 優秀美術賞(磯見俊裕、露木恵美子)
    • 優秀録音賞(加藤大和)
    • 優秀編集賞(穂垣順之助)
    • 話題賞 俳優部門(小栗旬)
  • 第45回報知映画賞(2020年度)
    • 作品賞
    • 主演男優賞(小栗旬)
    • 助演男優賞(星野源)
  • 第42回ヨコハマ映画祭(2020年度)
    • 助演男優賞(宇野祥平)
    • 2020年度日本映画ベストテン 第7位
  • 第33回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞
    • 作品賞
    • 主演男優賞(小栗旬)
  • 第75回毎日映画コンクール
    • 男優助演賞(宇野祥平)
    • 第45回エランドール賞(2021年)

 

 

原作:塩田武士『罪の声』(講談社文庫)

脚本:野木亜紀子

監督:土井裕泰

 

 

 

出演者:

小栗旬、星野源、松重豊、古舘寛治、宇野祥平、篠原ゆき子、原菜乃華、阿部亮平、尾上寛之、水澤紳吾、山口祥行、堀内正美、木場勝己、橋本じゅん、桜木健一、浅茅陽子、高田聖子、佐藤蛾次郎、佐川満男、宮下順子、塩見三省、正司照枝、須藤理彩、市川実日子、火野正平、宇崎竜童、梶芽衣子

 

 

あらすじ:

 

京都で亡き父のテーラーを継いだ曽根俊也(星野源)は、平凡ながらも仕事に誇りを持ち、妻と娘、母親と幸せに暮らしていた。

ある日、体調を崩し入院している母親から、アルバムと写真を持ってきて欲しいと連絡が入る。

アルバムを探す俊也。父の遺品が入った引き出しの中で、黒革のノートと古いカセットテープを見つける。

テープを再生してみると、幼い頃の自分の声が聞こえてきた。

風見しんごの曲「ぼーく、ぼーく、わらっちゃいますー」とたどたどしい歌声。

それからしばらく間が空き、再び声が聞こえてくる。

「ばーすーてーい。じょーなんぐーの、べんちの、こしかけの、うら・・・」と。

録られた記憶はないが、自分の幼い頃の声だった。

 

黒革のノートを開いてみると、英文で書かれた文章の中に日本語が混じっている。

「ギンガ」「萬堂」、共に日本で有名な菓子メーカーだ。

俊也の頭にとある事件が浮かぶ。

「ギン萬事件」だ。

「ギン萬事件」とは、菓子メーカー・ギンガの社長の身代金誘拐事件を発端に、複数の菓子・食品メーカーを恐喝し、毒入り菓子をばら撒いた事件で、2000年には時効を迎えていた。

事件の特徴は、被害企業への接触の際、女性や児童の声が入ったテープを使用していること。

企業への脅迫所とは別に、新聞社などマスコミに挑戦状を送り付け、劇場型犯罪として取り上げられた。

俊也は、インターネットで事件で使用された音声を検索。

それは、まさに自分が手にしたテープの声と同じものだった。

なぜ自分の声が、事件に使われているのか。

父がなぜこれを持っているのか?

俊也は、嫌な胸騒ぎに襲われる。

誰にも相談できず悩んだ末、父の幼馴染でお店の常連でもある堀田信二を頼ることにした。

堀田は俊也の話に驚いたが、どんな結果であれ父親のこと、自分の声の謎を解きたいと願う俊也の想いに協力を約束する。

堀田には心当たりがあった。

それは、俊也の父親・光雄(尾上寛之)の兄、曽根達雄(宇崎竜童)という人物だ。

堀田の協力で、達雄と親しかった人物に会い、居場所を探していく。

達雄と光雄の父、俊也の祖父である曽根清太郎は、新左翼の過激派の連中と仲良くしていた。

活動は過激度を増し、党内部の分裂による対立が起こる。

集団リンチは、内ゲバと呼ばれ一般人をも巻き込む事態となった。

1974年、曽根清太郎はこの内ゲバで命を落としていたのだ。

左翼に所属していなかった清太郎は巻き込まれただけだった。

それでも葬儀に会社の人たちは誰一人来なかった。

清太郎の勤め先は「ギンガ」だったのだ。

父の死で、殺した犯人と会社の態度に怒りを露わにした達雄は次第に自らを抑えられなくなっていった。

達雄とは性格が反対の光雄は、悲しみも怒りも見せず淡々とテーラーの道へのめり込んで行った。

その後、達雄は自らも過激派の連中と関わるようになり、イギリスと日本を行ったり来たりしていたようだ。

手帳に書かれた英文は達雄の字なのだろうか。

俊也の父・光雄は、家族に清太郎や達雄のことを話したことがなかった。

初めて祖父と伯父のことを聞いた俊也は、改めて曽根家が「ギン萬事件」に何らかの関りがある可能性に戸惑う。

 

一方、時を同じくして「ギン萬事件」を追う新聞記者がいた。

大日新聞文化部所属の阿久津英士(小栗旬)だ。

阿久津は、上司の命令で年末企画の昭和・平成未解決事件の特集のため「ギン萬事件」を担当することになる。

30年以上前の事件であり、警察も捕まえられなかった未解決事件の犯人を捜し出せと言わんばかりの命令に、阿久津は正直うんざりする。

少ない情報を元にロンドンまで行き聞き込みをするも、空振りとなる。

手ぶらで日本に帰国した阿久津を上司の鳥居(古舘寛治)は激しくなじる。

こうして、昭和の未解決事件「ギン萬事件」は二方向から真実解明へと動き出しました。

 

俊也と堀田は、達雄の線から犯人グループの会合があったという小料理屋「し乃」を訪れる。

俊也の身分を明かしても女将は何も話してくれない。

しかし、そこで働く板長の証言で、達雄と同じ柔道教室に通っていた生島秀樹(阿部亮平)が浮上する。

堀田も同じ柔道教室に通っていた。

生島は元滋賀県警の暴力団担当。

ヤクザとの癒着問題で警察をクビになっていた。

その後、生島一家は神隠しにあったように姿を消している。

当時、生島には中学三年生の娘・望と小学二年生の息子・聡一郎がいた。

ギン萬事件で使用されたテープの子供の声は、丁度そのぐらいの歳の子供たちの声だった。

俊也は自分と同じ境遇の子供がいることを確信します。

一方、大日新聞記者の阿久津も小料理屋「し乃」に行きついた。

初めは嫌々調べていた阿久津も、事件を追ううちにジャーナリスト魂に火が着いた。

阿久津は当時の事件を追っていた先輩記者・水島を訪ね事件の全貌を学ぶ。

そこで、犯人グループは株で儲けたといううわさを耳にする。

当時、違法まがいの手法で株価操作を行う不正な仕手筋がまかり通っていた。

その線から阿久津は当時ギンガ株で儲けた仕手グループを探っていく。

同時に当時の犯人グループの無線のやり取りを録音していた男が見つかる。

そこから金田哲司を割り出した捜査班は、金田の女・小料理屋「し乃」の女将にたどり着く。

現場に足を運び取材を続ける阿久津に、運が向いてきた。

 

俊也と堀田は、生島秀樹について調べていくうちに、娘・望と連絡を取っていたという人物に会うことが出来た。

望の同級生の幸子だ。

幸子の話では、望はギン萬事件に使用されたテープの声は自分だと言っていたという。

生島秀樹は犯行グループ内の仲間割れで殺されていた。

その後、妻・千代子と望と聡一郎は父親を殺したヤクザの元で人質として生活を強いられていた。

こっそり幸子に電話をしてきていた望もまた、捕まり殺されてしまった。

弟の聡一郎は、住処が火事になったのをきっかけにヤクザの元から逃げ出していた。

母親を置いて逃げたことを聡一郎はずっと後悔したまま、追っ手から逃げるように怯えて生活していく。

生島家の悲惨な暮らしを知り、俊也は同じ加害者の子供であるにも関わらず、今まで知らずに幸せに暮らしてきた自分を申し訳なく思う。

これ以上は無理だ。

俊也は堀田に「もう、終わりにします」と申し出る。

一方、阿久津の方は、犯人グループのメンバーの特定が進んでいた。

またグループ内部の仲間割れを予測、事件の真相へともう一歩だ。

手に入れた犯人グループの写真を持って、もう一度小料理屋「し乃」に向かう。

板長にこっそり事情を聞くと、曽根達雄の甥っ子が訪ねてきたことを知る。

どうにか居場所を聞き出す阿久津。

阿久津は京都にある老舗のテーラーに入る。

そこには俊也がいた。

二方向から「ギン萬事件」の真相を探っていた者同士がいよいよ対面の時を迎える。

 

まだ覚悟が決まらず、阿久津を突き返す俊也。

「私はロンドンにいる曽根達雄さん、あなたの伯父に会いに行ってきます」。阿久津はそう言い残し帰っていく。

ロンドンで阿久津は曽根達雄に会うことが出来た。

事件の動機を聞く阿久津に達雄はこう答える。

きっかけは、父・清太郎の死でした。犯人とギンガの会社への怒りは、次第に父を殺した過激派の連中と変わりないものになっていきます。

正義の報復のための的確な暴力行使。一般人を死に追いやる誤爆事件を起こします。疲れ果てた達雄はロンドンへ逃げ込みます。そこでも、国の情勢に憤るものの革命はならないことを知ります。

失望している達雄の元に、生島がやってきます。生島は警察をクビになり、暴力団から金を借り、生活に困っていました。

警察に世間に一泡ふかせて、金儲けをしよう。その誘いに達雄は、自分とは対極な欲深さを持った生島の勢いに魅せられていきます。

達雄の「禅問答」のような語りに、阿久津は憤ります。金が欲しいわけでもなく、権力や資本主義に一矢報いるためでもなく、ただ目の前の感情で青酸菓子をばら撒いたというのか。

子供たちの危険や巻き込まれた家族のことは何も考えなかったのか。阿久津は記者として真実をつかみとった気になれませんでした。

 

ロンドンから帰国した阿久津は、再び俊也の元を訪れる。

今度は俊也も覚悟を決めていた。

相反する立場だった阿久津と俊也は、この事件に向き合うことで、自分たちの役目とは何か、お互いの心が通い合う。

阿久津は、記事の到達点を犯人特定にはしなかった。

身勝手な理由で犯罪に加担させられた子供たちの未来を守りたい。

阿久津と俊也は、生島聡一郎(宇野祥平)を探し出す。

2人の前に現れた聡一郎は、疲れきっていた。

歩んできた辛い人生が語られる。

あの火事の日、母を置いて逃げてしまった後悔。母に会って謝りたい。

聡一郎は泣き崩れる。

俊也と聡一郎の協力で事件の真相が明らかになった。

俊也は家族に手帳とテープのことを打ち明ける。

俊也の母・真由美(梶芽衣子)は、そのことを知っているかのようだった。

母・真由美は父・光雄と結婚する前、学生の時は過激派の運動に加担するほど情熱的な女性だった。

達雄との面識もあった。

光雄との結婚後、達雄が光雄の兄と分かり、真由美は驚く。

しかし、達雄から事件への協力を頼まれた真由美は、当時の熱く湧き上がる反骨精神を取り戻す。

息子・俊也の声を録音したのは母・真由美だった。

自分の母親から事件に関わっていたことを聞き、俊也は空しくなる。

時代のせいと言ってしまえば簡単だが、自分の感情のまま子供たちを危険にさらしてしまう心情が、同じ親となった俊也にはどうしても理解できない。

もうひとりの被害者、聡一郎は母・千代子(篠原ゆき子)と対面を果たす。

謝り続ける聡一郎に母は優しく接する。

聡一郎が取り出した古いカセットテープには、姉の望の声と聡一郎の声が入っていた。

望の声に嗚咽を抑えきれない千代子。

母と子の形見が犯罪の証拠という暗い事実に、この事件の底知れない悲しさが見えた。

 

 

 

 

コメント:

 

グリコ・森永事件をモチーフとした塩田武士のミステリー小説「罪の声」が原作。

2016年度週刊文春ミステリーベスト10国内部門第1位、第7回山田風太郎賞受賞。

 

 

 

犯人グループは団塊の世代である。

彼らは学生運動をしたが挫折した。

その運動は過激度を増したが結局社会を変革できず、彼らの自己満足に終わったようなものだ。

団塊の世代が高齢化した現在、年金問題、介護の問題、少子高齢化問題など、現役世代にツケを回している。

この現状に対する痛烈な批判を含んだ社会派映画の秀作でもある。

 

この映画は、たくさんの人たちが登場しており、分かりにくい面もあるが、以下の人物相関図を見て、その関係と配役をご理解願いたい。

 

 

未解決事件だが、事件に使われた子供の声にポイントを置いたなかなかに面白いフィクション仕立てだ。

本映画も小説に忠実に描かれている。

緊急取材チームに抜擢された阿久津(小栗旬)が取材側から、たまたま見つけた父親の遺品の中に自分の声を発見するテーラー曽根(星野源)が事件関係者側から真相を探る。
犯人グループの人間が多いことや、もう一組の利用された子供(姉弟)の関係から関わる人物が多く、それを丁寧に描いている。

 

1984年から始まったグリコ・森永事件をモデルに構想された物語である。

グリコの社長誘拐と森永製菓の菓子に青酸ソーダが混入されたという当時の報道は覚えている人が多いだろう。

しかし、実際の事件で犯人グループは金銭を手に入れられなかったことはあまり知られていない。

 

テンポの良い展開で物語に引き込まれる。

恐喝事件そのものを描くのではなく、恐喝用カセットテープに声を録音した3人の子供が事件後にたどった35年間の軌跡を中心に描いている。

このアイデアが秀逸だ。


この映画では、未来を見通せる水晶玉があれば株式取引で大儲けできることを学べる。

その方法は、株の信用取引で儲けるのである。まず狙いをつけた企業の株を空売りし、その企業を脅迫する。

そのことをマスコミに知らせて世間に報道させる。

仕掛けられていることを知らない多くの株主は、業績見通しが悪くなりそうな企業の株を売る。

株価は必然的に暴落するから、そこで株を買い戻すと差額が儲けになる。

また、暴落した株価で株を買っておけば、しばらくして株価が元に戻ったときに売ればまた儲かる。

この映画の犯人グループもロンドンを拠点にそのようにする計画だったようだ。

 

しかし、政界関係者からの資金提供を受けたために返済する金額が大きくなった。

そのため儲けが微々たる額になってしまって仲間割れするというシーンがあった。

株価の暴落を予想はしても、犯行の道具として利用された子供達が歩むことになる過酷な人生を、犯人達が想像することはなかっただろう。

彼らの罪は重い。
 

 

 

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