「座頭市海を渡る」
1966年8月13日公開。
座頭市シリーズ第14作。
脚本:新藤兼人
監督:池広一夫
出演者:
勝新太郎、安田道代、井川比佐志、三島雅夫、山形勲、五味龍太郎、守田学、伊達三郎、千波丈太郎、田中邦衛
あらすじ:
これまで斬った人々の菩提をとむらうため、座頭市(勝新太郎)は四国の札所めぐりを続けていた。
船の中で暴力スリをこらしめたりした市だが、ある日、馬に乗って追ってきた栄五郎(井川比佐志)という男に斬りつけられ、止むなく彼を斬った。
止むを得ないとはいえ、また人を斬った市の心は沈んだ。
だから、栄五郎の家を訪ね、妹のお吉(安田道代)に腕を斬られた時、お吉の短刀をよけようともしなかったのだ。
お吉は、実は優しい娘で、兄が殺されたと悟って咄嗟に市を斬ったのだが、今度はその市をかいがいしく介抱するのだった。
お吉の話では、栄五郎が三十両の借金のために、土地の馬喰・藤八(山形勲)から命じられて市を襲ったのだった。
そして市を弟の仇と狙う新造(守田学)が藤八にそれを頼んだことが分った。
また村の暴力一家の頭でもある藤八は、芹ケ沢の支配権を一手に握ろうと画策してもいた。
だが、そこはお吉の土地だったから、藤八は邪魔なお吉に、女房になれと言ってきた。
それを知った市はお吉の後見人となり真っ向うから藤八と対立したのだ。
そんな二人を、名主の権兵衛(三島雅夫)は狡猾な計算で見守っていた。
先ず市は栄五郎の香でんとして、藤八に三十両を要求した。
結局競技で藤八の弓に居合で勝った市は三十両をせしめた。
しかし、その帰途を藤八の子分が襲ったのだが、所詮市の居合に敵うはずもなかった。
市とお吉は栄五郎の墓を建てて、しばらくの間楽しい日々を過ごした。
そんなお吉に、恋人の安造が土地を捨てようと誘った。
しかし、お吉は市を信じていた。
やがて藤八は市に最後通牒をつきつけてきた。
そしてその日、市はたった一人で藤八一家と対峙した。
孤立無援の市を、村の人は助けようともしなかった。
市は村人がきっと助けにくると信じて危機を切り抜けていた。
やがて、安造が刀を手に現われた。
そして安造が藤八の用心捧・常念(五味龍太郎)の槍にたおれた時、ついに、村人も市に加勢してきた。
勇躍した市は一刀の下に藤八を斬った。
そして市は、馬上から見送るお吉に別れを告げ、夕焼け空の彼方へと去って行った。
コメント:
これまで関八州を中心として描かれていた座頭市シリーズだが、本作では本州を離れ、四国が舞台となる。
敵役もこれまでのやくざ一家とは異なり、馬賊を相手に戦う趣きの異なる一作。
金比羅様の長い階段を登るシーンが微笑ましい。
ボスの藤八を演じるのが山形勲、手下に伊達三郎や五味龍太郎らお馴染みの悪役連。
名主役の三島雅夫が食えない男を好演している。
脚本は、映画監督として、また脚本家としても名高い新藤兼人が担当。
「座頭市」の映画シリーズでは、はじめてで唯一の脚本を手掛けた作品となっている。
だが、新藤兼人はのちに座頭市のTVシリーズの脚本を手掛けることになるのだ。
今回の悪党の首領・荒駒の藤八(山形勲)率いる一党が、町のヤクザではなくて、山に住む野趣にあふれる馬賊。馬を駆って大移動するさまなどは西部劇の悪党のようだ。
山形勲は座頭市シリーズ初登場だが、野趣ムンムンの下卑た山賊をノリにノッテで演じていて、この山形勲を見るだけでも必見の作品だ。
三島雅夫、田中邦衛など、本シリーズ初登場の共演者が名を連ねているのが大きな見どころ。
ヒロインのお吉を演じるのが安田道代。
まだデビュー間もない彼女は可憐。
今回初登場の安田道代は、もともと勝新太郎自身が大映入社を勧めたという。
市に仄かな慕情を抱く娘を好演している。
最初こそ市を兄の仇と切りつけるけど、彼の優しさにやがて恋情も。
そこへ例の山賊集団が押し寄せ狼藉を働くといういつもの運びとなる。
それに立ち向かうために村の人々に立ち上がるよう説得するお吉。
村の連中は最初は皆尻込みするが、最後は立ち上がる。
「座頭市」シリーズとしては、異色の佳作。
もちろん、脚本の新藤兼人によるところが大であるが、人間ドラマとして充分に鑑賞に堪える作品。
超人的な剣捌きではなく、ラストの決闘は人間的な座頭市になっている。
そこがシリーズのファンには「異質」と感じられるかもしれない。
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