「華岡青洲の妻」
1967年10月20日公開。
有吉佐和子の同名小説の映画化。
高峰秀子・若尾文子との共演による感動作。
受賞歴:
市川雷蔵: NHK映画最優秀男優賞、キネマ旬報主演男優賞
脚本:新藤兼人
監督:増村保造
キャスト:
- 華岡青洲:市川雷蔵
- 妻・加恵:若尾文子
- 母・於継:高峰秀子
- 華岡直道:伊藤雄之助
- 小陸:渡辺美佐子
- 加恵の乳母・民:浪花千栄子
- 於勝:原知佐子
- 下村良庵:伊達三郎
- 妹背米次郎:木村玄
- 妹背左次兵衛:内藤武敏
- 左次兵衛の妻:丹阿弥谷津子
- 大坂薬種商人:田武謙三
- 加恵の祖父:南部彰三
- 湯浅養玄:舟木洋一
- 中川脩亭:上原寛二
- 毛利尚斉:暁新二郎
- 語り手:杉村春子
あらすじ:
父・妹背佐次兵衛が近郷の地士頭と大庄屋を勤める、禄高百五十石の家柄の娘として生を受けた加恵は、請われて華岡家に嫁いだ。
夫となる華岡雲平は医学の修業に京都へ遊学中で、加恵はその三年間、夫のいない結婚生活を送らねばならなかった。
しかし、雲平の母・於継は、その気品のある美しさで、加恵にとっては幼い頃からの憧れの的であり、その於継との生活は楽しいものだった。
於継も彼女には優しく、雲平の学資を得るための機織り仕事も加恵には苦にならなかった。
やがて、雲平が帰って来た。
加恵は初めて夫の顔を見て、胸のときめきを覚えたが、その日から、於継の彼女に対する態度がガラリと変った。
於継は妻の加恵を押しのけて、ひとり雲平の世話をやき、加恵を淋しがらせた。
加恵はそのときから於継に対して敵意に似たものを胸に抱くようになった。
まもなく雲平の父・直道が老衰で亡くなると、雲平は青洲と名を改め、医学の研究に没頭していった。
彼の研究は、手術に際して麻酔薬を用いることで、何よりもまず、白い気違い茄子の花から、完全な麻酔薬を作り出すことであった。
一方加恵は於継の冷淡さに、逆に夫に対する愛情を深めていたが、そんなうちに、彼女は身ごもり、実家に帰って娘の小弁を生んだ。
しかし間もなく、於継の妹・於勝が乳ガンで死んだ。
周囲の者は、青洲が実験に使う動物たちのたたりだと噂しあった。
その頃、青洲の研究は動物実験の段階ではほとんど完成に近く、あとは人体実験によって効果を試すだけだったが、容易に出来ることではなかった。
ある夜、於継は不意に自分をその実験に使ってほしいと青洲に申し出た。
驚いた加恵はほとんど逆上して自分こそ妻として実験台になると夫に迫り、青洲は憮然と二人の争いを眺めるのだった。
意を決した青洲は二人に人体実験を施したのである。
実験は成功だったが、強い薬を与えられた加恵は副作用で失明した。
その加恵に長男が生れるころ、於継が亡くなった。
青洲はやがて、世界最初の全身麻酔によって、乳ガンの手術に成功したのだった。
この偉業の陰に、加恵と於継の献身的な協力と、そして二人の対立が隠されていたのだが、いま、加恵は、そんなことは忘れたかの如くかつての於継のように美しかった。
コメント:
山脇東洋によって、日本初の人体解剖が行われたのは、1754年。
杉田玄白が解体新書を刊行したのは1774年。
そして、1804年に華岡青洲が、世界初の全身麻酔の乳ガンの手術を実施した。
本作は、その偉大な医師・華岡青洲とその母と妻の重厚なる物語である。
原作となる「華岡青洲の妻」(はなおかせいしゅうのつま)は、1966年に発表された有吉佐和子による小説。
世界で初めて、全身麻酔による乳ガンの手術に成功した、華岡青洲の実話を小説にした迫力ある内容になっている。
この作品により、医学関係者の中で知られるだけであった華岡青洲の名前が一般に認知されることとなった。
1967年(昭和42年)、第6回女流文学賞を受賞している。
また、この映画で、市川雷蔵が、NHK映画最優秀男優賞、キネマ旬報主演男優賞を受賞した。
雷蔵の晩年期の最優秀作品と言って良い。
この映画では、とかく嫁姑のファイトが話題になるが、一番の立役者は、嫁姑に囲まれながら、平然と麻酔薬の実験を行う青洲を演じ切った市川雷蔵に他ならない。
青洲の父・直道を演じる伊藤雄之助の大袈裟なまでの語り口調で度肝を抜いてから、美貌と冷酷さを兼ね備えた高峰秀子、若尾文子へと引き継ぐ構成が絶妙だ。
名匠・増村保造の演出が光る名作である。
妻の加恵を演じる若尾文子、母の於継を演じる高峰秀子の命を賭けた嫁姑バトルはすさまじい。
特に高峰秀子の迫力が半端なく、息子・青洲の帰宅前後での加恵に対する態度の違いに恐怖を覚えるばかり。
だが、対する若尾文子も負けず劣らずで、於継へのかつての思慕が憎悪へと変遷する様がなかなかの見もの。
そんな二人の言葉の端々には相手への嫌味が含まれていて、傍観しているだけでキリキリと胃が痛くなりそうなほどだ。
若尾文子にとっては、撮影時33才の作品。
彼女は年を追うごとに演技力が増して行って、この頃はまさしく最盛期だった。
感情表現が秀逸で、当時トップクラスの女優だったといえる。
大映では珍しいと思われる当時43才の高峰秀子が、素晴らしい。
彼女は、松竹、東宝での出演が殆どで、大映での作品は5本のみ。
本作の12年後の55才で女優を引退した。
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