「北の螢」
1984年9月1日公開。
明治初期の開拓途上の北海道を舞台にした異色ドラマ。
脚本:高田宏治
監督:五社英雄
主題歌:森進一「北の螢」
出演者:
仲代達矢、岩下志麻、夏木マリ、早乙女愛、佐藤浩市、丹波哲郎、露口茂、隆大介、成田三樹夫、小池朝雄、 稲葉義男
あらすじ:
明治十六年。
開拓途上にあった北海道の道路建設のための労働力は、全国から集められた囚人によってまかなわれ、石狩平野に設けられた樺戸集治監(刑務所)では、月潟剛史(仲代達矢)が典獄(刑務所長)として君臨していた。
囚人を虫けら同然に扱い“鬼の典獄”と異名をとる月潟の前に、ゆう(岩下志麻)という女が現われる。
ゆうは、月潟の情婦・すま(夏木マリ)が女将をしている料理店にあずけられた。
内務省の開拓副長官・石倉(丹波哲郎)が、部下の湯原(小池朝雄)、別所(稲葉義男)などを連れて視察に現われた。
知事の座を狙う月潟は賄賂を包み、石倉お気に入りのゆうをその寝所に向かわせた。
その見返りとしてゆうは、国事犯として捕えられている男鹿孝之進(露口茂)の赦免を月潟に要求する。
京の祇園で芸妓をしていたとき、ゆうは政府から追われている男鹿をかくまい、やがて二人の間に愛が芽ばえたのだった。
元・津軽藩士で政府に激しく抵抗する男鹿は、接見したゆうに月潟殺しを命じた。
それから数日後、月潟は刺客に襲われる。
看守として集治監にもぐり込んでいた元新選組副長の永倉新八(隆大介)らであった。
月潟は一命はとりとめたものの重傷を負った。
内務省の命をうけて湯原が新典獄として着任する。
多くの囚人を犠牲にしたことで月潟の更迭が決定したのだ。
最後の仕事にと、月潟は建設中の道路の完成を急ぎ、囚人たちに更に苛酷な労働を強いた。
月潟の非情なやり方に、ゆうは小刀を抜いて迫ったが、「お前に惚れた」との月潟のひと言に、上げた刀をおろすことができなかった。
月潟の心がゆうに移ってしまったと知ったすまは、女衒の丸徳を道連れに石狩を離れる決心をしたが、金を盗もうとしていた酌婦の浜菊との争いで命を落とす。
月潟の片腕、木藤(成田三樹夫)も身受けしたせつ(早乙女愛)に殺された。
せつはその足で建設現場に向かい、愛する男・弥吉(佐藤浩市)やその仲間たちを救出し、囚人たちは視察に来た月潟とゆうを人質に脱走を図った。
途中、無人の農家で一夜を明かすことになった。
弥吉とせつの狂ったような情事に、他の囚人のギラついたような眼はゆうに向けられた。
そのとき、農家を巨大な羆が襲い、ゆうと月潟、男鹿、弥吉とせつは海をめざした。
ところが、一行が海と見たのは、樺戸集治監だった。
絶望から、男鹿は死んでいった。
弥吉とせつは吹雪の中に消えていった。
月潟は湯原を倒し、次々と獄舎の扉をあけ、囚人たちを逃がした。
誰もいなくなった集治監、凍りついてゆく月潟とゆうのまわりを、白い雪が螢のように舞っていた。
コメント:
五社英雄監督による、北海道・開拓・ヒューマンドラマ。
明治初期、北海道の鉄道敷設のため、強制労働を強いられた、囚人たちの物語。
「鬼典獄」と呼ばれた刑務所々長、月潟(仲代達矢)と脱走を企てる囚人たちと彼らと面会するために追ってきた女たちの愛憎劇。
冬の北海道で、雪原を歩く囚人たちの列、その足には、足枷(あしかせ)とひぎずる錘(おもり)が痛々しい。
明治時代に、「集治監」と呼ばれる刑務所が北海道開拓の労働力として創設された。
そこで実際に行われた極寒の地での労働は、史実にある通りだ。
悪の帝王の如く囚人を扱う「鬼典獄」の月潟のモデルとなったのは、江戸時代末期に福岡藩士だった「月形潔」という実在の人物。
しかし、実際には囚人と共に集治監で同居して親しみやすく温かい面もあったようで、今でも彼の名前が北海道の地名に残っている。
元新選組副長の永倉新八も、実在の人物。
松前藩を脱藩後、新選組に入隊し、二番隊組長及び撃剣の師範を務めた。
明治期には、杉村義衛と改名し、この映画にも出てくる樺戸集治監の撃剣師範を務めたという。
舞台設定が異色で、当時の花形俳優がずらりと出ている。
男女のからみを徹底して描く名匠・五社英雄監督の世界だ。
明治初期の北の大地にも、男女の激しい営みがあったのだという。
これこそ究極の五社の世界かも知れない。
岩下志麻、夏木マリ、早乙女愛らの熱演が光る。
五社英雄と、彼が大好きだった岩下志麻とのタッグは、「雲霧仁左衛門」「鬼龍院花子の生涯」に次いで、3作目。
今後は、「極道の妻たち」シリーズだ。
白い雪と赤い蛍、男の野心と女の情念が舞い上がる壮大なドラマのまんなかにせりあがる「北の螢」。
この映画の主題歌を歌う森進一の破壊的なエロチシズムとカタルシスは、鬼気迫るものがありました。
この歌のテーマは、「おんなの情念」です。
この曲の作詞は阿久悠、作曲は三木たかし。
とにかく、この歌詞がすごい!
ぶっ飛んでいる。
山が泣く 風が泣く
少し遅れて 雪が泣く
女 いつ泣く 灯影が揺れて
白い躰がとける頃
胸の乳房を つき破り
赤い螢が翔ぶでしょう
恋しい男の 胸へ行け
ホーホー 螢 翔んで行け
怨みを忘れて 燃えて行け
ちなみに、阿久悠は、この映画のスーパーバイザーも担当しています。
阿久悠は、映画の制作と同時進行で作詞をしていったようです。
この曲への執念がハンパないものだったのでしょう。
つまり、阿久悠+五社英雄+岩下志麻の情熱が、この映画+歌に結実したということです。
この「北の蛍」は、第17回日本作詩大賞・大賞を受賞しています。