「眠狂四郎悪女狩り」
1969年1月11日公開。
眠狂四郎シリーズ第12作(最終作)。
脚本:高岩肇・宮川一郎
監督:池広一夫
出演者:
市川雷蔵、藤村志保、久保菜穂子、松尾嘉代、吉田日出子、長谷川待子、朝丘雪路、江原真二郎、小池朝雄、宇田あつみ、行友圭子
あらすじ:
江戸城大奥は、将軍の子を身篭った側室の環(行友圭子)とお千加の方(松尾嘉代)をめぐって、権力争いの渦中にあった。
大奥総取締の錦小路(久保菜穂子)は、大目付の坂倉将監(小池朝雄)と組み、きりしたん一味の川口周馬(江原真二郎)や惣兵衛らを使い、自分たちに不都合な幕府要人を暗殺し、お千加の方一派の女たちを犯して殺した。
だが、江戸市中には、血と女に狂った眠狂四郎の悪事として流れていた。
狂四郎(市川雷蔵)は、そんな風評にはいっこう耳をかさず、茶屋の女将お菊(朝丘雪路)と、相変らずの情事を楽しんでいた。
ある日、狂四郎は墓参にやって来た大奥の女・小夜(藤村志保)に、兄と見違えられた。
狂四郎は好機とばかりに、大央の様子をうかがったが、茜(吉田日出子)の邪魔が入り、失敗に帰した。
一方、錦小路や板倉らは、狂四郎が動き出したと見てとり、対策に乗りだした。
川口は狂四郎の仮面をかぶり、ますます、悪名をとどろかせた。
錦小路も、将軍の子をお千加から堕胎させようと、薬を飲ませた。
さらに中条流の老婆のもとへ送ろうと企んだが狂四郎にはばれてしまった。
怒った錦小路は伊賀者を使い、狂四郎を大奥に連れこんだ。
手足を縛られ、自由を失った狂四郎は、錦小略の欲情にもてあそばれた。
やがて錦小路は懐剣をふりかざし、狂四郎に迫った。
錦小路の部屋に小夜が、飛び込んで来たのはその時だった。
そして小夜は兄の罪の償いと狂四郎に刀を渡し、大奥から脱がすのだった。
きりしたんたちが、ルソン島へ脱出する日、彼らの船は、板倉の手がまわって発砲され、小夜は死んだ。
小夜の十字架を握った狂四郎の円月の剣は、川口を斬りさしていくのだった。
コメント:
雷蔵狂四郎の最終作。
既にこの映画の撮影時には、市川雷蔵の健康状態は最悪だったという。
雷蔵は、公開された年の1969年の7月17日に37歳の若さで世を去ったのである。
雷蔵は以前から胃腸が弱く、1968年(昭和43年)6月、雷蔵は『関の弥太っぺ』の撮影中に下血に見舞われ、入院した。
検査の結果、直腸癌であることが判明したが、本人には知らされなかった。
8月10日に手術を受け退院した。
1969年(昭和44年)2月に、体調不良を訴え再入院。
2度目の手術を受けた雷蔵は、スープも喉を通らなくなるほど衰弱していたという。
眠狂四郎シリーズの最終作にふさわしく、藤村志保、久保菜穂子、松尾嘉代、朝丘雪路等々の女優陣が揃い踏み。
美しく妖艶な演技を見せてくれる。
特に、悪女代表は、久保菜穂子が演じる錦小路の局。
淫蕩かつ残忍な女で、強引に狂四郎と寝ようと手足を拘束する。
最後に狂四郎の手で成敗されるが。
最後の眠狂四郎。
観ている方が、この作品の半年後半年に雷蔵が死を迎えるのがもうわかっているので、本作の中の描写に死の匂いを感じてしまう。
この映画の雷蔵はやせ細ってしまったわけでないので、観ていてもこれまでと大きな変わりはないが、殺陣やエロが控えめになっていて大人しい。
この映画の撮影前に入院しているから、そうなってしまったのだ。
鳥装束の忍者や能面のくのいちが踊りながら現れる幻想場面も死を感じさせてしまう。
いつもは演出や脚本にあまり口出ししない雷蔵が本作では何か変わった趣向を、ということで取り入れたらしい。
雷蔵が、偽物の狂四郎に言う台詞がこれ。
「今まで眠狂四郎が何人いてもかまわないと思っていたが、やはり狂四郎は一人でなければならん」
雷蔵の狂四郎に対する想いと遺言に聞こえてしまう。
もうあの雷蔵の狂四郎の姿が見られないのだ。
残念としか言いようがない。