「赤い橋の下のぬるい水」
2001年11月3日公開。
辺見庸の同名小説を映画化。
カンヌ国際映画祭のノミネート作品。
興行収入:2.3億円。
監督・脚本:今村昌平
出演者:
役所広司、清水美砂、中村嘉葎雄、夏八木勲、不破万作、北村和夫、倍賞美津子、ミッキー・カーチス、ガダルカナルタカ、坂本スミ子、田口トモロウ、 不破万作、でんでん、根岸季衣、三谷昇
あらすじ:
富山県のある町が舞台。
赤い橋のたもとの家にすむサエコ(清水美砂)は体の中に水がたまる体質だ。
水がたまると苦しく、万引きをしてしまう。この水はセックスをすることで放出される。
一方、東京に住む中年男・笹野(役所広司)は、リストラで失業中している。
ある日笹野は、仲のよかったホームレスの老人・タロウ(北村和夫)の生前の言葉「盗んだ宝を赤い橋のたもとの家にある壺の中に隠した」を思い出し、はるばる富山にやってきて、サエコの住む家にたどり着く。
サエコに迫られて初対面でいきなり交接し、事情を打ち明けられた笹野はサエコの要望に応じてせっせと励むことになる。
こういう設定ならば、男女の性の深淵を描くことになるはずなのだが、そうはならない。
サエコが出す水の描写は本当に放出という感じで、堰を切ったように、噴水のように水が噴き出す。
部屋は水浸しになり、部屋から流れ出たぬるい水に川の魚が集まってくるのだ。
すぐに東京に帰るつもりだった笹野は若い漁師から漁の手伝いを頼まれ、民宿に泊まってこの町に住むことになる。
笹野とサエコを軸に、サエコと同居する老婆(倍賞美津子)や釣りの老人(中村嘉葎雄)、民宿を経営するその妻(坂本スミ子)、新太郎の父親(夏八木勲)たちとも交流が始まる。
コメント:
サラリーマンを捨て、漁師となってこの地に落ち着く決心をした男と、それを待っていた女とのはげしいまぐあい。
吹き出す飛沫に虹がかかるラストには今村昌平監督らしい人間讃歌が伺える。
まさに今村監督の最後を飾る会心の作品といって良い。
失業中の中年男・笹野は、孤独な死を遂げた人生の師と仰ぐホームレスのタロウを偲ぶうち、彼が生前「能登半島の日本海に面した赤い橋のたもとの家の壺の中に、宝物を隠した」と言っていたのを想い出し、そこを訪ねてみようと思い立つ。
果たして、その家には痴呆を患う老婆・ミツと、不思議な体質の和菓子職人・サエコが暮らしていた。
サエコは、男性と交わらないと体内に水が溜まり、悪いことをしてしまうのだ。
そんなサエコとひょんなことから関係を持った笹野は、その後、地元の若い漁師・新太郎の世話で漁師として町で暮らしながら、サエコから体に水が溜まったと連絡を受ければ彼女の元へ馳せ参じる日々を送るようになる。
そして彼は、老婆・ミツもサエコのような体質であったこと、彼女がタロウの女であったことを知るのであった。
晩年期の今村昌平だからこその意味深い映像となっている。
この作品の意味が理解された上で、カンヌ国際映画祭では多くの映画評論家から絶賛されたという。
人種を超えた人類共通の生きる喜びをテーマにしたことが共感を呼んだのであろう。
紅いオウムと紅い花が目に付くトロピカルな和菓子店をはじめ、薄暗い室内によく映えるシュールで晴朗な立山連峰や、エキゾチックな雰囲気を漂わすセピア調の日本海、何だかユートピアのような川べりのホームレスの寝ぐらなど、登場人物を押し包むメルヘンチックな空間描写に魅かれる映画だ。