「乱」
1985年6月1日公開。
配給収入:16億7000万円。
英国アカデミー賞外国語作品賞受賞。
脚本:黒澤明・小國英雄・井手雅人
監督:黒澤明
出演者:
仲代達矢、寺尾聰、根津甚八、隆大介、原田美枝子、井川比佐志、ピーター、植木等
あらすじ:
過酷な戦国時代を生き抜いてきた猛将一文字秀虎は七十歳を迎え、家督を三人の息子に譲る決心をした。
「一本の矢は折れるが、三本束ねると折れぬ」と秀虎は、長男太郎は家督と一の城を、次郎は二の城を、三郎は三の城をそれぞれ守り協力し合うように命じ、自分は三つの城の客人となって余生を過ごしたいと告げた。
隣国の領主藤巻と綾部もこれには驚いた。
しかし、末男・三郎は三本の矢を自分の膝に当てて無理矢理へし折り、父秀虎の甘さをいさめた。
秀虎は激怒し、三郎と重臣の平山丹後の二人を追放した。
藤巻はその三郎の気性が気に入り、藤巻家の婿として迎え入れることにした。
一方、太郎の正室・楓の方は、秀虎が大殿の名目と格式を持っていることに不満を抱き、太郎をそそのかして親子を対立させた。
実は楓の方は親兄弟を秀虎に滅ぼされた上、一の城もとりあげられているという過去をもっていた。
太郎の態度に怒った秀虎は一の城を飛び出して二の城へ向かったが、二の城の次郎とその重臣、鉄、白根、長沼の野望は一の城を手中にすることにあったため、秀虎は失意のうちに三の城へ向かわざるを得なかった。
だがここにも悲劇は待ちうけていた。
太郎と次郎が軍勢を率いて秀虎を攻めてきたのだ。
三の城は陥落、秀虎の郎党、侍女たちは全員討死し、太郎も鉄の鉄砲に狙い撃たれて死んだ。
秀虎はこの生き地獄を目の当りにして自害しようとしたが太刀が折れて果たせず、発狂寸前のまま野をさまよい歩く。
夫の死を知らされた楓の方は一の城に入った次郎を誘惑、正室の末の方を殺して自分を正室にするよう懇願した。
その頃、藤巻の婿になった三郎のもとに、秀虎と道化の狂阿彌が行くあてもなくなっているという知らせが丹後から届いた。
三郎は即座に軍を率いて秀虎救出に向かい次郎軍と対峙した。
それを見守る藤巻軍と、あわよくば漁夫の利を得ようとす綾部軍。
三郎は陣を侍大将の畠山にまかせ、丹後、狂阿彌と共に父を探しに梓野に向かった。
果たして秀虎はいた。
心から打ちとけあう秀虎と三郎。
だが、その時一発の銃弾が、三郎の命を奪い、秀虎もあまりのことに泣き狂い、やがて息絶えた。
そして一の城は綾部軍に攻め込まれ、落城寸前だった。
一文字家を滅ぼしたのは楓の企みだったとして、鉄は楓を一刀のもとに斬り殺した。
梓野では、秀虎と三郎の死体を運ぶ行列が続き、彼方には以前秀虎が滅した末の方の生家梓城の石垣だけが見えている。
その石垣の上には、以前秀虎に命と引きかえに両眼をつぶされた末の弟の鶴丸の姿があった。
コメント:
シェイクスピアのリア王をベースにした時代劇。
裏切りに次ぐ裏切りに逢う悲劇の主人公・秀虎を描いている。
楓の方はさしずめ魔女といったところ。
162分もある大作だが、戦といい見所は抜群なので長くは感じられなかった。
主人公一文字秀虎(仲代達矢)の惨憺たるさまをこれでもかと描いていく。
子供も地位も名誉も、全てを失って狂っていく姿は圧巻だった。
炎上する城を背景に、一文字秀虎が降りて来る場面は、本当に凄いに尽きる。
よくこれだけの城を作って燃やし、一発で撮って、これだけの絵を作り上げたなと。
長男の奥方・楓の方を演じる原田美枝子が本当に凄い。
自分の家族を滅ぼした秀虎の一族への復讐の念を露わにする迫真の演技は何度観ても唸らされる。
「蜘蛛の巣城」における山田五十鈴に匹敵する迫力のシーンだ。
鉄修理を演じる井川比佐志が楓の方にやり返す場面は面白いが、またやり返されてしまうのも凄い。
晩年の黒澤明が渾身の力を込めた、最後の時代劇となっている。
黒澤明自身のことも一文字秀虎に重ね合わせ、人が年を取り、衰え、全てを失ってゆく過程を壮大なスケールで描いている。
国内外の映画業界の評価および興行の両面で納得のゆく結果となった。
最大の見せ場となる三の城の落城シーンは、富士山麓の御殿場に4億円をかけてオープンセットを作り、実際に火を放ち炎上させた。
この撮影地は奇しくも『蜘蛛巣城』(1957年)と同じ場所。
三の城のモデルは福井県の丸岡城で、天守の表側に階段が付けられているのもこれを参考にしている。
天守閣は高さ12メートル、幅16メートル、奥行15メートルもあり、セットだが殆ど本建築で、火山灰の不安定な地形で傾斜もあるため、地下3~4メートルも堀ってコンクリートを流して土台を作った。
落城シーンはワンカット一発撮りで撮り直しは不可能なため、リハーサルに1週間をかけ、撮影本番では城内に仲代ひとりを残してスタッフが撤収してから火を放ち、8台のカメラで撮影した。
仲代は猛烈な炎と煙を背景に「茫然自失の秀虎が足元を見ないまま、急な階段をよろめき降りる」という命懸けの演技を行った。
事前に黒澤から「絶対に転ぶなよ、君が転んだら4億円がパーだ」と念押しされ、本番では口の中で「4億円、4億円」と唱えていたという。
中々城から出てこない仲代を黒澤が心配して途中でカットをかける寸前だったという。
受賞歴:
賞 | 部門 | 対象 | 結果 | |
---|---|---|---|---|
アカデミー賞 | 監督賞 | 黒澤明 | ノミネート | |
撮影賞 | 斎藤孝雄 上田正治 中井朝一 |
ノミネート | ||
美術賞 | 村木与四郎 村木忍 |
ノミネート | ||
衣裳デザイン賞 | ワダ・エミ | 受賞 | ||
ゴールデングローブ賞 | 外国語映画賞 | ノミネート | ||
英国アカデミー賞 | 脚色賞 | 黒澤明 小国英雄 井出雅人 |
ノミネート | |
外国語作品賞 | セルジュ・シルベルマン 原正人 黒澤明 |
受賞 | ||
撮影賞 | 斎藤孝雄] 上田正治 |
ノミネート | ||
美術賞 | 村木与四郎 村木忍 |
ノミネート | ||
衣裳デザイン賞 | ワダ・エミ | ノミネート | ||
メイクアップ賞 | 受賞 | |||
サン・セバスティアン国際映画祭 | OCIC賞 | 受賞 | ||
全米映画批評家協会賞 | 作品賞 | 受賞 | ||
監督賞 | 黒澤明 | 2位 | ||
助演女優賞 | 原田美枝子 | 2位 | ||
撮影賞 | 斎藤孝雄 上田正治 中井朝一 |
受賞 | ||
ニューヨーク映画批評家協会賞 | 監督賞 | 黒澤明 | 次点 | |
外国語映画賞 | 受賞 | |||
ロサンゼルス映画批評家協会賞 | 監督賞 | 黒澤明 | 次点 | |
外国語映画賞 | 黒澤明 | 受賞 | ||
音楽賞 | 武満徹 | 受賞 | ||
ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 | 監督賞 | 黒澤明 | 受賞 | |
外国語映画賞 | 受賞 | |||
外国語映画トップ5 | 受賞 | |||
インディペンデント・スピリット賞 | 外国映画賞 | ノミネート | ||
ボストン映画批評家協会賞 | 作品賞 | 受賞 | ||
撮影賞 | 斎藤孝雄 上田正治 |
受賞 | ||
ロンドン映画批評家協会賞 | 監督賞 | 黒澤明 | 受賞 | |
外国語映画賞 | 受賞 | |||
セザール賞 | 外国映画賞 | ノミネート | ||
ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞 | 外国映画賞 | ノミネート | ||
外国監督賞 | 黒澤明 | 受賞 | ||
外国プロデューサー賞 | 原正人 セルジュ・シルベルマン |
ノミネート | ||
ボディル賞 | 非アメリカ映画賞 | 受賞 | ||
アマンダ賞 | 外国語映画賞 | 黒澤明 | 受賞 | |
日本アカデミー賞 | 助演男優賞 | 植木等 | ノミネート | |
音楽賞 | 武満徹 | 受賞 | ||
撮影賞 | 斎藤孝雄 上田正治 |
ノミネート | ||
照明賞 | 佐野武治 | ノミネート | ||
美術賞 | 村木与四郎 村木忍 |
受賞 | ||
録音賞 | 矢野口文雄 吉田庄太郎 |
受賞 | ||
ブルーリボン賞 | 作品賞 | 受賞 | ||
監督賞 | 黒澤明 | 受賞 | ||
毎日映画コンクール | 日本映画大賞 | 受賞 | ||
監督賞 | 黒澤明 | 受賞 | ||
男優助演賞 | 井川比佐志 | 受賞 | ||
ゴールデングロス賞 | 優秀銀賞 | 受賞 | ||
藤本賞 | 特別賞 | 古川勝巳 原正人 セルジュ・シルベルマン |
受賞 |