「男はつらいよ 私の寅さん」
1973年12月26日公開。
マドンナは、岸恵子。
男はつらいよシリーズ第12作。
観客動員:241万9000人(シリーズ歴代 1位)
配給収入:10億4000万円
脚本:山田洋次・朝間義隆
監督:山田洋次
出演者:
渥美清、倍賞千恵子、三崎千恵子、前田吟、太宰久雄、佐藤蛾次郎、吉田義夫、河原崎國太郎、松村達雄、笠智衆、津川雅彦、前田武彦、岸惠子
あらすじ:
テキヤ稼業のフーテンの寅の故郷、東京は葛飾・柴又。
寅の妹・さくらと夫の博は、おいちゃん夫婦への感謝をこめて九州旅行へ招待することになった。
準備万端整えて、明日は全員揃って観光旅行へ出発する、というその日、寅がフラリと帰ってきた。
驚いた皆は、寅に旅行のことを隠そうとしたが、つまらぬことからパレて、寅は大いにムクれてしまった。
ふくれっ面の寅に、さくらは真情を込めて、おいちゃん夫婦への感謝の旅行だと説明すると、やっと寅は了解し、今度は留守番を買って出た。
皆が旅行に出てから一人留守番をする寅は、誰もいない“とらや”で体をモテあまし、何をしてもサマにならず、全員が帰京するや涙を流して喜ぶ。
数日後、寅はふとしたことから、小学校時代の級友で、今は放送作家をしている柳文彦(前田武彦)に会った。
何十年ぶりかの再会で話は大いにはずみ、調子に乗った寅は、文彦に連れて行かれた妹・りつ子(岸惠子)の家で、彼女のキャンパスにいたずら描きをしてしまった。
寅にしてみれば軽い気持でやったのだが、画家を職業としているりつ子にとっては言語道断、二人は会うなり大喧嘩をしてしまう。
翌朝、おいちゃんたちを相手に、りつ子の悪口を言っているところに、当人が喧嘩の詫びを言いに現われた。
りつ子が茶の間に上って世間話をしているうちに彼女の朗らかで、さっぱりした人柄は一同を魅了してしまう。
特に、寅はその日以来、貧乏画家のパトロンを気取り、次第に彼女に惹かれていった。
ある日、りつ子が病気で寝こんだと聞いた寅は早速見舞いに出かけた。
りつ子は寅に、失恋の痛手から寝込んでしまったと笑いかけた。
寅はそんなりつ子を懸命の努力でなぐさめ、とらやに帰るやいなや、恋の病いが伝染したかのように、そのまま床についてしまった。
数日後、とらやを訪ねたりつ子は、寅が自分に想いを寄せていることを感じて複雑な気持ちになってしまう。
しかし、寅は寅なりに、自分の恋心が、とらや一家のみならず、次第にりつ子や文彦に知れわたってしまったことを恥じ、旅に出る決意を固めてりつ子の許を訪ねた。
そんな寅に、りつ子は、自分の絵を生涯の伴侶として生きて行くつもりで、寅とは友達として一生付き合っていきたい、と熱をこめて語った。「あの人は美しい絵だけを描いていればいいのに、俺は邪魔してしまったらしいや」
さくらに、こう言い残すと、寅は木枯しの中を旅立っていった。
正月。
絵の修行のためにスペインに渡ったりつ子から、とらやに年賀状が届いた。
それは寅への暖かい思いやりに満ちた文面で綴られていた。
コメント:
今回は、はっきりと振られるパターン。
ただし、生涯の伴侶は「絵」」だというマドンナ。
それでも、好きになった人に対する寅さんの気持ちがストレートに現れていて感動する。
山田洋次の毎回の新たな工夫が理解できる。
今回は観客動員数が240万人で、興行収入10億円超えという大記録。
本作では寅さんが岸惠子と出会った時に大喧嘩になる場面の二人のやり取りがかなり面白い。
こんなマドンナとの出会いの仕方は他の作品にはない。
岸惠子は画家として生きていこうという信念を持つ反面、将来への不安も抱えている微妙な内面の女性を巧みに演じている。
1957年にフランス人映画監督と結婚して以来ずっとフランスに住んでいる岸恵子ならではの画家役の演じ方が本格的だ。
今回はキャスティングが大成功している。