「なつかしい風来坊」
1966年11月12日公開。
風来坊が巻き起こすヒューマンコメディ。
ブルーリボン賞監督賞受賞作品
脚本:山田洋次・森崎東
監督:山田洋次
出演者:
ハナ肇、倍賞千恵子、有島一郎、中北千枝子、真山知子、久里千春、山口崇、松村達雄、市村俊幸、桜井センリ、犬塚弘、鈴木瑞穂、穂積隆信、武智豊子
あらすじ:
衛生局防疫課の課長・早乙女良吉(有島一郎)と、土方の源五郎(ハナ肇)と知り合ったのは酒が取り持ったのである。
同僚の送別会でしたたかに酔った良吉が、茅ケ崎の駅でタクシーを待つ間、屋台のオデン屋で一杯やっているうち、隣に座った源五郎とすっかり意気投合し、あげくには家に泊めてしまったのだ。
妻の絹子(中北千枝子)、娘の房子(真山知子)は土方の源五郎を気味悪がり、翌朝、源五郎を追い返してしまった。
だが、源五郎は茅ケ崎海岸で道路工事をやっているため、ちょくちょく良吉の家にやって来た。
良吉の家の前をローラ車に乗ってやってきて道路直しをしたり、押し売りを追っばらったり、今ではすっかり良吉の家庭に入りこんでいた。
或る日、良吉の息子の学に、土産だといって純血種の洋犬を連れて来た。
知り合いの犬殺しに頼んで、保健所から薬殺寸前の犬を連れて来たのだった。
学は大喜びだったが、この犬には引取人が現われる。
伊達財閥で名高い伊達家の飼犬だったのだ。
これが縁で房子と伊達家の長男一郎(山口崇)とが恋人同士になった。
秋も近づいた頃、源五郎が今度は、身投げ娘を良吉の家にかつぎこんできた。
娘は愛子(倍賞千恵子)といい、自殺する程の境遇ながら、性格の明るい控えめないい子だった。
愛子は良吉の家にお手伝いさんとして、働くことになった。
それからというもの、ふたたび源五郎は足繁く、良吉の家に来るようになった。
どうやら愛子に惚れたらしいと睨んだ良吉は、愛子と源五郎を映画に出してやるのだった。
その帰り、源五郎が愛子の手を握ろうとし、びっくりした愛子が道路下に落ちこみ、泥んこになったことからおかしくなった。
絹子は、源五郎が乱暴したのではないかと言い出して、愛子は沈黙を守る。
良吉や愛子をかばった源五郎は、他に余罪があったこともあり警察に逮捕されてしまう。
その後、源五郎は失踪した。
暫くして愛子も良吉の家を出て行った。
それから一年が過ぎた或る日、汽車の中で良吉はばったりと源五郎と逢った。
そこには生れたばかりの赤ん坊を抱いた愛子の姿があった。
コメント:
ブルーリボン賞「主演男優賞(ハナ肇)」と「監督賞」を受賞した、初期の山田洋次作品ではもっとも評価の高い作品である。
中流の家族・コミュニティの中に突然あらわれた風来坊という異質の存在をめぐってのいざこざを、人間の狭い価値観や差別意識をも浮き彫りにする重喜劇のタッチで描く味のある作品。
荒っぽいが、この頃の山田洋次監督はすごい。
「まいった!」と思わせる素晴らしい作品。
何より、ハナ肇の風来坊が抜群にいい。
有島一郎のしがない公務員、可憐な倍賞千恵子も素晴らしい。
そして、涙が込み上げてくるラストシーン。
「人生まんざら捨てたものじゃない」と思わせる幸せで涙あふれる出会いから始まる。
ここで観客は一気にハッピーな雰囲気になる。
そしてラストシーンが感動的。
「遙かなる山の呼び声」のラストシーンにも負けない名シーンとなっている。
観客を暗い気持ちのまま帰してはならないとする山田洋次監督の面目躍如たるラストシーン。
この作品で山田洋次のヒューマンドラマの基本的パターンがしっかりと定着したといえる。