87.ヒッピーの村を出よう | 1/4世紀~詐欺師とペテン師

1/4世紀~詐欺師とペテン師

事実は小説より奇なり
この言葉がピタッとハマる…

重め恋愛日記と日常の日記
2部構成って感じです。

仲良くしてくれると尻尾振ります。

ようやく15日になった
華丸との月に一度の約束の電話の日

トラックやバンに収穫した野菜を積んで
山道を市場まで二時間。

野菜売ったり
ファイヤーダンスをしてお金を稼ぐヒッピー村人。(私はブラブラ時間潰し。)


公衆電話から華丸に電話。

この瞬間の為だけに生きてる1ヶ月。





もしもし
…私だけど。


…うん。


…元気?


ん。どうにか。
そっちは?


ん。どうにか。
…会いたいよ。


…だね。
……んじゃ切るよ。




10秒も掛からない会話。


1ヶ月毎日空を見て涙を流すのに、
楽しみにしていた電話は呆気なく切られてしまう。

とてつもなく寂しかった。

日本の方角すら分からない。



エゼルがマリファナを朝から吸う日は
小さなテントに
女性が入って行く事が多くなった。

彼はただ女性に体を預けていた。



エゼルはその時間が過ぎると
必ず何処かにいる私の所に来て


「僕の事、イヤになった?」と聞く。


私は「お兄ちゃん。大丈夫。」と笑う。




アハロンはキャシーに怒られるからと
笑いながら女性達の誘いをかわし
私と一緒に川の岩の上に寝転び
流れる雲を見ながらマリファナを吸う。



流れる雲を見て
「日本にいる彼」の話をする私に
「相応しい男って何?」と聞いたアハロン。



僕は石に糸を編み込んでネックレスを作り、
それを路上で売ったり、
ドラムやダンスパフォーマンスでお金を作って
楽しく世界を旅してる。

もうすぐキャシーも仕事を辞めて
僕と一緒に旅を始めるよ。

イスラエルにキャシーを連れて戻ったら、
またそこで何かを考える。

キャシーが英語を教えるかもだし、
僕はペンキ塗りのバイトしてるかもしれない。

でもきっと僕らは幸せだよ。
愛し合っているからね。




葉っぱのせいでステレオの様に
サラウンドで聞こえてくる声を黙って聞いていた。



ねぇ南
南のボーイフレンドの言う
「南に相応しい男」ってどんな男?
なぜ離れて暮らす必要があるの?




私が一番知りたい事じゃん……

答えられなくて泣いた。









3回目の電話も同じだった。


短く切られる電話。


会えなくなって既に3ヶ月以上。



春の気候になってきたその夜
エゼルが私に「キャシーのように僕らと旅をして、いつかイスラエルに行かない?」と言った。


病んでたり病んでなかったり
日替わりで別人に見えるエゼル。


あれは愛の告白だったのか、良く分からない。


私は首を振り
「優しいエゼルお兄さん。そろそろ村を出て現実に戻りましょ。」と言ったと思う。



ティム爺さんに村を出て街に帰ると告げた。




自由を愛する優しい村は、
自由になりたくない、
華丸に縛られていたかった私には向かない村だった。


何よりもね
太平洋の見えない山の生活が
日本を余計に遠く感じさせるので辛かった。



皆で農作業、皆で食事、数十人の大きな家族。
好きに抱き合う人達。
不思議な空間で時間は止まっている様に感じる村。


あまりにも時間があり過ぎて
色々深く考える事は少なくなっていた。

自然の中の変わらぬ流れの生活で
「考えても仕方ない」からだとも言える。



ドラッグと音楽に酔い、
複数で絡み合う人達もいた変な村だったけど
本当に良い経験をしたと思う。


他人と自分を比べず優劣をつけない人々。
子供達を大きな家族で一緒に育てる。
自然の恵を享受しその全てを大切にする人々。




3か月に渡る生活で
「色んな人達がいる事をジャッジしない自分」
そんな自分が出来上がった気がする。


皆が言うには
「モカは最初からそうだった。
    だから家族に選ばれた。」

自分では分からない。

自分の目に私は映らなくて
私は他人の目の中にだけ映っているのだから。

彼らは私を
とてもおおらかで綺麗な心の持ち主だと評した




「他人は自分を映す鏡でもある」

この言葉、ミラー効果について語った時

「無愛想だから無愛想にされる」
「優しくしたから優しさが返ってくる」

そういう風にだけ捉えるんじゃなくてさ
例えば南ちゃんがね
自分の事をどんなに正直だと思っていても
誰かが「南は嘘つきだ」と言えば
そんな面もある人間って風にも考えられるでしょ

自分の考える自分像が
他人からは見えていない時
その見えてない目を疑うだけじゃなく
それも一つの真実だと思わなきゃいけない
世の中ってそんなに美しくはないしね

21歳の頃に地下の店で
華丸さんが話してくれた事を思い出す。



マーリービリッジ
みんなの目に映ってたのは
心が綺麗な私だったのかな



何度も突然行われたティム爺さんとの禅問答

あの時間は
きっと村人が「その人の精神を見る時間」
そんなモノだったのかなって思ったりはする。



帰宅宣言から一週間以上経った頃
街からキャシーが7時間以上かけて
アハロンのオンボロバンで迎えに来てくれた。


エゼルだけがもう少し残りたいと、村に残った。


アハロンは
「雲でも眺めとけ」とエゼルを抱きしめていた。



また会えるかな
いつ街に戻ってくる?


僕の可愛い妹さん
お互いが必要とすれば必ずね




エゼルの日に焼け傷んだ焦茶の髪は
3ヶ月のヒッピー暮らしで少し明るくなった

青い目じゃないけど
こんな感じだったかな


くるくる巻き毛の小柄なエゼルを
天使ってこんなんかなぁって思ってた私。



エゼルとは数ヶ月後に
思わぬところでまた再会する



これが異国に来て最初の3ヶ月と3週間



つまり

「迎えに行くからキラキラして待ってて」

そう伝えられて異国で待っている月日