先日、YouTubeを何気なく開いたら、次の日本代表と期待される若手選手を紹介するJスポーツの番組があって、冒頭を飾ったのは我らの帝京OBの竹山晃暉選手だった。



年齢的にもそろそろ呼ばれてもおかしくないし、実力、ポテンシャル、実績は同世代の中でも申し分なし。あとはヘッドコーチがどう評価してくれるかだろう。
いま日本代表に足りないピースとみるか、それともまだ実力不足とみるか…。
ジョセフHCは特に人間性を厳しく見る人なので、日頃の行動もしっかり律してくれればと思う。

もう一人注目が、李承信選手。
帝京を中退して神戸製鋼へと渡ったという異色の経歴を持った選手である。元々は、海外留学のために中退したのだが、コロナ禍ということで渡航できず、手を差し伸べたのが神戸製鋼だった。
中退してプロの道というのは前例がない話であるが、それだからこそ個人的には応援したい。
人生は紆余曲折があって当たり前で、特に若いうちは尚更である。
帝京ファンのみならず他校ファンでも批判する声があったが(たしかに理解できる部分もあったが)、人生の岐路を自由に選ぶのは若者の特権であり、大人はそうした挑戦を寛容の目で見守るべきだろう。


同じように従来と違う形の進路をとったのがパナソニックに所属する福井翔大選手で、高卒でプロになったのは彼が初めてではないかったかと思う。
まだトップリーグでそれほど活躍はしていないが、次世代を担う選手と注目されている。

ラグビーでは大学進学が当たり前という流れがずっと続いてきて、その背景にあるのは大学ラグビーが日本ラグビーの人気を牽引してきたことと無縁ではないと思う。
それゆえに大学経由でプロになる選手がほとんどだったが、最近はそうした流れが少しずつではあるが変わりつつある。
今回の日本代表と期待される選手の中で、李承信選手と福井翔大選手が紹介されたのは象徴的なように感じた。

思えば松島幸太朗選手が高校を卒業して海外のプロチームに所属し、その後、サントリーに入団して活躍、日本代表の主要なポジションを獲得したことが、そうした流れを生んだ。
松島選手も各大学から熱望されたらしいが、大学を経るよりもプロの道を歩むほうが選手として開花するのが近道と考えたのだろう。
李承信選手もおなじ感覚だったのかもしれない。特に選手として本気で国の代表を目指すならば、大学の“部活動”は遠回りと見えるだろう。
一方で、大学を経て実力をつけてプロの世界に飛び込んだほうが良い可能性も当然ある。
特にフォワードは、高校卒業からいきなりプロで活躍するのはほぼ無理だろうし、出場機会が多い大学(特にフィジカル強化を得意とする帝京のようなところ)を経由したほうが間違いないような気がする。

ただ、大切なのは、初めから答えを一つに絞るのではなく、多様なチャンネルを用意して、それを選択できることと、そのチャンネルがどれだけ最適か多くの人たちが試みることだ。

なにが正しいかは、結局いろんなことをやってみないと分からない。いくらシミュレーションや机上で考えても、実際の行動を通してみえてくる結果がもっとも正しい答えだからだ。

今までは硬直化した高校→大学→社会人という一本道しかなかった状況が、高校から大学、海外留学、社会人、プロという選択肢が増え、それらを比較することでその良し悪しが見えてくるようになる。
このように考えると、大学ラグビーをより進化させるためにも、進路の多様性は歓迎すべき状況ではないか。

いまコロナ禍で注目されているのは、人体の抗体。この抗体の多様性というものが長年謎だったのだが、利根川進が解明することでノーベル賞を受賞した。
その仕組みは簡単に言うと、抗体の遺伝子を組み替えることで初めから多様性な抗体を生み出し、将来襲ってくるだろう病原菌に備えるというものだった。
そうした見識から癌の薬物療養でノーベル賞を受賞した本庶佑は、研究の多様性を確保することこそ医学の進歩にとって重要であると強調していた。
多様性の種を播くことによって、いつどんな知見と結びついて大きな発見にいたるかは分からない。
だから多様性こそ、進化であり未来である。
これは研究にしてもスポーツにしても同じことだ。ラグビーもより進化を求めるならば、多様性の確保こそ絶対に必要なことである。