こないだ、父の友人が「年をとると涙腺が緩んで涙脆くなる」という話をしていた。



僕はふと、今年の夏に祖父と二人で都バスの1日乗車券を買って旅をした時の事を思い出した。祖父の家からバスに乗って、グルグルと色々な場所を回って、最後は僕の通う学校を案内するというプランだった。



小さい頃から可愛がって貰っていて、ずっと何かしてあげたいと思っていたので、この夏休みは凄くいい機会だった。



僕は朝早く家を出て祖父の家に向かった。



久しぶりに会った祖父の背中は凄く小さくなっていた。幼い頃は守ってもらっていた僕が、今度は祖父を心配してる僕がいて驚いた。



バスの中、僕らは色んな景色を見てはああでもない、こうでもないと予想してみたり、ニュースの話で議論したり、雑学や祖父の「あの頃の1円玉の大切さ」についての話を聞いたりした。



あの頃の1円玉の大切さの話は一時間以上続いた。



そして、バスは僕の学校の前に停まり、僕はいつも受けている教室や食堂、学校の隅々を案内した。



帰り際祖父は「楽しかったよ」と涙目になっていた。



小さい頃から「男は男らしくしてなきゃ駄目だ!!」と言っていた、頑固で昔カタギな祖父が、涙を流しているところを見たのは初めてだった。




本当に年をとると涙脆くなるのだろうか?




科学的に年をとると、涙腺が緩んで涙脆くなるなんてどうにも信じがたい。


年齢を重ねるという事は、それまで積み重ねた経験や他人の痛みが分かって、自分に置き換えてモノを感じる事が出来るのだと思う。


人はこの世に生を受けた瞬間死に向かっていく。


それなのに僕ら若者の中には、どこかお年寄りの方を煙たがっている人もいて、それは老いる事へのリアルを感じないからかもしれない。


どれだけ老いに逆らえるか、いつの時代も人類普遍のテーマだけど、老いも素晴らしいモノ。



老いた者の尊い涙。


美しい涙。


祖父の涙を僕は忘れないだろう。