「凪の人 山野井妙子」 柏 澄子
沢木耕太郎の「凍」という本で登山家の山野井夫妻の話を読んだのはかなり前の話ではある。それ以来、山野井夫妻関係の記事や番組があると割と見るようにしてきた。その延長上で本書を知り、読んでみた。
これは僕の偏見なのかもしれないが、山野井夫妻に関しては夫の泰志のほうが妙子に比べて少し有名さでは優っていると思ってきた。但し、例えば「凍」を読んでいても妙子に関する記載に際して沢木がなみなみならぬ敬意を払っている点は伝わってきた。従い今回は妙子にFOCUSした本作を読んで、かような沢木の敬意の背景が良く分かったと個人的に納得した次第だ。
本書において妙子は登山家として描かれている以上に、生活者として書き込まれている。僕は登山をする訳ではないので妙子の登山家としての才能は良くわからない。但し、生活者としての、もっと大げさに言うと人間としての、妙子の凄まじい「腹の据わり方」は伝わってきた。あれだけの困難や負傷に出会いながらも平然に振舞える人間の有り様は、もはや「異形」という言葉すら似あってしまう気がしてならない。
しかも、それらがごく「自然」に見えてくる点が凄みである。スーパーマンのユニフォームに着替えるのではなく、クラークケントのままで物事を処理していく姿とでも言えば良いのだろうか。いや、そんな表現もあざとすぎると反省した次第だ。
そんな彼女がなぜ山に向かうのか。それは僕も読んでいて正直良く分からなかった。若しくは本書の著者も登山家としての妙子を描こうとはしていないのかもしれない。あくまで飛びぬけた一人の人間を表現したいという野心が著者にあったのではないか。誤読かもしれないが、そう読む事が僕にとってはすがすがしい思いである。