「柳川」  チャンリュル | くにたち蟄居日記

「柳川」  チャンリュル

 

大林宣彦の映画「廃市」を鑑賞し、福永武彦の原作を読んだ。それですっかり柳川のファンと

なり、大学時代に寝袋を担いで柳川を訪れた。西鉄柳川駅前のベンチで眠り、翌日は北原白秋

の実家を見学し、白秋の詩集「思ひで」を購入した。そんな事から「柳川」という題名の本作を

知って直ぐにレンタルして鑑賞した。

 

 チャンリュルという監督の作品を観るのはこれが初めてである。本作の紹介文をネットで見ると

「何事も起こらない静謐な映画」というような内容が多かったが、良く観てみると主人公の一人が

最後に亡くなっていたり、父と娘の断絶があったりと結構色々な事が起こっている。そんな内容

でも「静謐」を保っているのは監督の作風に尽きるということか。

 

 ヒロインを見ていてずっと思い出してきたのは夏目漱石「三四郎」のヒロインである「里見

美彌子」である。美彌子は三四郎を始めとして「三四郎」の幾人かの登場人物を惑わしていく。

「アンコンシャス ヒポクリット = 無意識の偽善者」だと評されたある種の「魔女」である。

本作のヒロインにも、そんな無意識の偽善者ぶりが感じられた。登場する男性全てがヒロイン

に強く引きずられていく。ヒロインには悪意はない。悪意はないが、男たちを混乱に陥れる。

そんな無邪気さは、十分に「無意識の偽善者」と言えるのではないか。

 そんなことで里見美彌子に重なって仕方が無かった。これは僕の個人的な思い込みに

過ぎないのだが。

 

 良い映画だ。大林や福永の「廃市」は夏の柳川を舞台としていた。僕の39年前の柳川旅行も

夏休みの際だった。今回初めて冬の柳川を観る事が出来た。