「希林さんといっしょに」 是枝裕和 | くにたち蟄居日記

「希林さんといっしょに」 是枝裕和

樹木希林と是枝とのいくつかの、もしくは、いくつもの対談を集めた一冊である。樹木の対談の

本はいくつか読んだ気がするが、深さという点で本書は樹木対談の白眉と言える。対談内容

の豊かな視点も楽しいが、それ以上に是枝が付記している解説が興味深い。解説の中で

是枝は出来るだけ正直に語ろうとしているように見える。そんな誠実な文章が本書の

「厚み」に結実している。

 

 是枝にとって樹木とは時に友人であり、時に母親であるという特別な存在であった事を改めて

本書で思い知らされた。いままで是枝の映画の中での樹木の特権的な立ち位置を感じる

機会はあったものの、その背景がどのようなものなのかという点は映画は教えてくれなかった。

今回、是枝が本書を出してくれたお陰で理解できたことが実に多かった。

 

 是枝にとって、樹木は「便利」な女優だったのだと思う。何が便利だったのか。樹木自身が

得難い映画の作り手であった点が便利だったのではないか。

樹木が「作る」部分は、大きな話ではない。ちょっとした所作や、アドリブであり、ともすると

気が付かない程度のものである。

 

但し、そんな「隠し味」が映画のコクを強く深くしていく。監督としての是枝も、樹木が付け加えた

隠し味を上手に料理しなくてはならない。そんな緊張感も二人の間にはあったのだろう。

そんな事を想像するのも楽しかった。

 

 樹木を失ったことの大きな喪失感は、まだ残っている気がする。但し、本書でも語られる

加藤治子、杉村春子といった大女優を失ってきたことも僕らの歴史である。樹木とはまた

違った個性をもった女優の登場を待つしかないということか。