「落葉の記」 勝目梓
勝目梓の本を読むことは今回が初めてである。日経の書評で教えて貰った一冊だ。
勝目梓の本は読んだことはないが、知ってはいる積りだった。端的にいうとポルノ小説である
という単純な理解であった。但し、今回本書を読んだことで彼の歴史をネットで調べてみると
むしろ純文学にも相当踏み込んできていたことを知った。宇能 鴻一郎という芥川作家が
ポルノ小説家になったことも思い出したが、それはまた別の話かもしれない。
本書は日記体での小説ということなのかもしれない。主人公は勝目自身とは全く違う経歴
の設定としているものの、おそらくは自身を強く投影した登場人物なのだろうと想像する。
どこまでが現実に有ったことで、どこからが創作なのかは判然としない。従い、僕としては
適当に、かつて適切に勝目にだまされながら本書を辿るしかない。
本書の面白みは、主人公が語るとぼとぼとした日常生活である。定年後のサラリーマンが
俳句と老妻を友として日々の生活を送る。生活自体は平凡に見えるものの、勝目が挟み込む
エピソードの一つ一つは時としてカラフルで、読んでいても引き込まれるものがあった。
それらのエピソードの描き方も、淡々とした筆致ながらもきらりとした下世話さが光る。流石に
長年にわたって膨大な数の官能小説で読者を引っ張ってきた筆の技術というものがあるという
ことなのだろう。
また老妻に対する心の動きも時として性欲も交えながら表現する様も上手いとしか言いようが
ない。それがあるだけに老妻の突然の逝去の後の主人公の寂寥たる心象風景が、活き活きと
僕らにも伝わってくる。「寂寥さが活き活きと伝わる」という言い方は本来矛盾した物言いだと
思うが、それが正しい表現だと僕はいまでも思っている。
2021年に読了した最初の一冊となった。