映画「ヴァイブレータ―」
休日のタイでレンタルにて鑑賞した。
アルコール依存症の女性がゆきずりのトラックの運転手と旅行するというロードムービー
である。そう一言で言ってしまうとそれまでではあるが、不思議な余韻が残る作品だ。それは
なにより登場人物の背景を殆ど省略してしまった事に因る。
主人公の女性がなぜアルコール依存症になったのかという理由も分からない。どうやら小学校
時代にいじめに遭った様子ではあるが、それから31歳の現在までの軌跡は全く言及されない。
現在はフリーランスのルポライターをやっている様子だが、それが本当かどうかも良く分からない。
一方、相手方の運転手はどうか。彼の経歴等は彼自身が車中で説明するものの、断片的で
これまた本当かどうか分からない。当初は結婚しているという話だったが、結末に近い
定食屋での場面では、ヒロインに独身ではないかと聞かれてあっさりと認めている。個人的には
彼はやはり結婚しており、その定食屋の場面で初めて嘘をついたのではないかとも思ったり
もしたが、いずれにせよ何が本当なのか分からない。そんな、いわばノッペラボウ同士がトラック
という小さな密室で話を紡いでいく。映画というより小劇場で前衛演劇を見ているような印象
すら覚えるのだ。
ヒロインはトラックの運転手に癒されたのだろうか。若しくは救われたのだろうか。これに関しては
意見が分かれる可能性もある。他レビューアーのご意見の中には、すべてがヒロインのある種の
妄想だったのではないかというものもあった。そうであって欲しくないと思いつつも、そうかも
しれないという気もしないでもない。
但し、この映画を観るということは、かような「救い」を信じるということなのだと僕は思う。
トルストイあたりなら、運転手はイエスキリストだったというような話にしてしまうような気が
する。そんな感想は大事にしてもいいかもしれない。