「リップヴァンウィンクルの花嫁」 岩井俊二
本作も難しい。何が難しいかというと 登場人物達の人物造形が良く分からない点に尽きる。
例えば主人公はどういう人なのか。観ている限り、お人好しでひたすら周囲の人に振り回される方のように見える。但し、実際にそこまで「自分が無い」人などいるのだろうか。その意味では主人公に感情移入することは難しい。
若しくは綾野が演じている安室という便利屋はどうか。善悪も真贋もにわかに判断がつかない。安室が真白の母親に遺骨を届けた際に見せる号泣には正直見ていて混乱した。それまでに淡々と善人めいた悪魔を演じてきた彼が、なんで感情的になったのかが理解できない。自分の所作を反省したのか。それもしっくり来ない。
というように、登場人物の輪郭がぼやけている。それが、そもそも岩井の狙いなのかもしれないと考える方が正しいのかもしれない。僕らは映画を観る際には、ごく早い段階で登場人物の人物造形を把握したいと無意識に思っているはずだ。そうしないと話が辿れないからである。岩井はそこに亀裂を持ち込んだのかもしれない。そこに映画文法からの逸脱が発生しているのではないか。僕はそう整理することで少し腑に落ちた。
「リップヴァンウィンクルの花嫁」という題名が良い。
「リップヴァンウィンクル」とはホーソーンが書いた西洋の浦島太郎譚だ。黒木は 帰って来ない旦那をひたすら待たされることを余儀なくされた花嫁ということなのだろう。但し、黒木が本当に
待っているものは何なのか。ゴドーというわけでもないと思うが。
そこも岩井は教えてくれない。僕らは宙ずりにされたままだ。そのまま映画は終わってしまう。