「悪い奴らほどよく眠る」 | くにたち蟄居日記

「悪い奴らほどよく眠る」


イメージ 1
 20年ぶりに本作を見直した。殆ど覚えていなかったので、新たに鑑賞するようなものである。

 この話は自殺させられた父の復讐を果たそうとして、失敗した男の話である。そう書いてしまうと
有りがちな話にも見える。但し、黒澤らしいひねりは「自殺させられた父」の造型にある。僕は
そう見た。

 主人公が愛情を抱き、復讐を誓った「父」とは、実は、復讐しようとしている相手とほぼ同類項
である。主人公の父も、出世の為に、子供と妻を捨てて別の女性と結婚している。汚職に加担し、
トカゲの尻尾と同様に切り捨てられた「悪人」の一人だ。本作に登場する「悪人」達と、基本的には
同じ人たちなのである。そこに主人公の復讐譚の不毛さがある。主人公が彷徨する廃墟の風景は、
そのまま、主人公の「不毛さ」の心象風景と言って良い。

 その「悪人だらけ」の中で、純粋さを持った人たちがどうなるか。主人公は惨殺され、その妻は
正気を失った。善人たちの敗北ぶりは、他の黒澤映画と比較しても、突出している。敗北の美学すら
許されない、極めて索漠とした救いのない作品と言える。

 僕は、黒澤が汚職に憤慨して本作を撮ったとは思わない。汚職という素材が黒澤の目的に合った
だけのことだ。黒澤が本作で描きたかったのは、「完膚なきまでの美しくもない敗北」ではなかろうか。
蜘蛛巣城よりも、更に冷たい映画だ。冷たくて面白い映画というのも有りえることが今回
よく分かったところである。