「山本五十六」  阿川弘之  | くにたち蟄居日記

「山本五十六」  阿川弘之 

  会社の上司から本作を教えて貰い読む機会を得た。週末で上下2巻を読了した次第である。最近本を読む
力が落ちていただけに楽しかった。

 黒澤明がハリウッドと組んで「虎虎虎」という映画を作ろうとした歴史は有名である。正確に言うと
ハリウッド側が黒澤を日本シークエンスの監督として雇おうとした話だ。但し黒澤は自分が総監督
であると理解しており、結果的には黒澤はノイローゼの末降板することになる。最終的には
「トラ・トラ・トラ」という凡作が残っただけとなった。黒澤が撮影していたら面白い作品になった
気もするが、既に盛りを過ぎていた黒澤でもあったので、この歴史のIFは何とも言えない。

 当時黒澤は、山本五十六を剽軽な男として描き出そうとしていた節がある。おそらくは本作が
黒澤の念頭にあったはずだ。それほど本作で描かれる山本という方は人間臭い天真爛漫な人である。
著者はCHILDISHという言い方もしているが、CHILDISHという言葉をこのように肯定的に使える
のだなという点には感心してしまった。

 僕には知見がないので山本という方の真の姿が、著者の描写通りなのかは分からない。但し
そうあってほしいという気持ちを強く持ったことも確かだ。その意味で本作は実に楽しく読めるし、
楽しい中にもジワリと怖さを感じさせる作品である。
 
 その怖さとは何か。日米戦争をあれほど恐れていた山本が、その口火を切る羽目になったという
運命の皮肉と、それを強いた時代の怖さである。