「日の名残り」  | くにたち蟄居日記

「日の名残り」 

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 購入して二年たち、漸く鑑賞する機会を得た。もっと早く観るべきであった。

今まで観たラブストーリーの中でも、もっとも抑えられたラブストーリーである。 抑えられることで旨みが
増すものは案外多い。

 例えば、和菓子がそうだ。甘味を抑えた和菓子を食べると本当に甘さを感じさせる。あるかないかの甘味を
探す舌を僕らは持っている。探すことで甘味を強く意識することになる。
 従い、かすかな甘味を見つけた時の喜びがある。だからこそ,例えば魚や野菜にも「甘味」を見つけることが
出来る。「この魚には甘味がある」という表現は、間違いなく和菓子で鍛えられた舌によるものだ。
英語に翻訳してもまず理解されないと思う。

 本作も同様に甘味が抑えられた菓子である。洋画ゆえ「洋菓子」というべきなのだろう。但し
和菓子を強く思わせる洋菓子だ。

 本作での見どころはいくつもある。大概の方が指摘される主人公とヒロインの本の取り合いの
場面だけではない。一瞬の視線の絡み合いや、会話の妙等が実によく出来ている。観ていて
見逃してはならないと強く緊張を強いられる映画だ。

 本作の最後の場面。ヒロインは間もなく孫が産まれる年齢になっている。そんなヒロインは
主人公に「自分は夫を愛していることに気付いた」と言う。そう言いながらもヒロインは主人公を
今でも愛していることもはっきり伝わってくる。

 ヒロインが本当に愛しているのは誰だったのかということを問うことは野暮であろう。ここでの
ヒロインの発言はどれも真実であるからだ。
 「人は一人の人しか愛さない」と考えることはドラマの前提かもしれないが、案外薄い話である。
「甘味がきつい菓子」になってしまう。それに比べると本作の深みには感嘆するしかない。

 本作をラブストーリーと冒頭に言った。但し、本作にはもっと苦味ある歴史も書き込まれている。
そこもきちんと観ないとラブストーリーも活きてこない。「苦味」も「五味」の一つでありスパイス
としても非常に大事だ。