「超訳 小説日米戦争」  佐藤優 | くにたち蟄居日記

「超訳 小説日米戦争」  佐藤優

イメージ 1
 
 佐藤優は忘れられた本を掘り出してくる名人である。特に戦中戦前の本を引っ張り出してくる点に特色がある。佐藤のお蔭で大川周明等の本を読む機会も得た。今回は樋口麗陽という方が大正9年に書いた本を21世紀の現在に読み返すことになった。

 本書では触れられていないが、ゴジラを思い出した。「小説日米戦争」では石仏博士が山にこもって新しい兵器を開発し、攻めてくる米国に対決しようとする場面が紹介される。これは映画「ゴジラ」で、ゴジラを退治する「オキシジェンデストロイヤー」という薬を芹沢博士と言う方が秘密開発する場面に実に似ている。

 考えてみるとゴジラは水爆実験で生じた怪獣が日本を攻めてくる話である。おそらくはゴジラに米国の姿を見る向きもあったはずだ。「米国に対決する化学兵器を隠遁した科学者が創る」と言い直すと、ほぼ同じ構造である。勿論「小説日米戦争」の方がゴジラより古い。従いゴジラが「小説日米戦争」を踏まえた可能性が大きいということだろう。

 前記の通り、佐藤の読解が面白いのは、古典を現代に読み返す点だ。佐藤は「小説日米戦争」が書かれた大正初期と現在の状況が似ていると説く。従い、大正で「その後に起こったこと」を見直すことが、現在の我々にとっても大きな「考えるヒント」であるとする。

 本書では佐藤は米国との距離感をいかに正しく保つのかという点をテーマにしている。ともすると、時代の流れやマスメディアの雰囲気で、世論が形成されてしまいがちな点を戒めている。そこに必要とされるのは「インテリ」であるという宇野弘蔵の言葉を肯定的に引用している。宇野によると「インテリ」とは「自分がいまいる場所」をきちんと把握できる人だという。その意味では例えば米国との距離感を図るにしても、自分のいる場所が分からないと不可能ということだ。

 ゴジラは東京湾で白骨化した。ゴジラを白骨化させた化学兵器を開発した芹沢博士も自ら命を絶った。ゴジラを現代で見直すことも自分のいる場所を確認する一つの知的作業かもしれないなと最後に思った。