「シンシナティ・キッド」   | くにたち蟄居日記

「シンシナティ・キッド」  

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 ポーカーの勝負をテーマとした娯楽映画ということなのだろうが、基調に流れる奇妙な味わいが魅力的である。

 冒頭は葬儀の列である。映画の冒頭に「死」を強調されたことで見ているこちらも緊張を強いられる。その直後には主人公と靴磨きの少年のコイン投げの場面である。主人公を不敵な目で見つめる少年は言うまでもなく、主人公の昔の姿であり、将来の分身である。

 登場人物はすべて「敗北」の影を背負っている。圧倒的に生き生きしていた主人公も敗北者になってしまう。いや、主人公を打倒したポーカーの老名人ですら、「死」の記号を背負わされている。老名人が、席を立つ場面でよろめくシーンがあるが、それは老名人の「老い」と、その先の「死」を書きこんでいるからだ。そんな細部が本作の精密な作りでもある。
 
 主人公は敗北する。ポーカーに敗れる。茫然とした中で 更にやらされる靴磨きの少年とのコイン投げにも負ける。
 但し、最後の最後に恋人に抱きしめられる。恋人は主人公に裏切られており かつ それを知っている。それだけに、恋人が主人公を許し、抱きしめる場面には救いがある。

 冒頭の葬儀の場面も実は二つに分かれている。故人を偲ぶしんみりとした行進と、その後の故人の追善を行う陽気なダンスだ。その陽気なダンスと恋人の抱擁は似ていなくもない。その意味では冒頭の葬儀の場面が本作の全てを暗示していると言える。誠に緻密な作りだ。そんな丁寧さが、本作の奇妙な味わいをしっかり支えている。