犬の尿道の腫瘍は比較的珍しく、私の病院でも年に数例しか経験しない症例です。
先日、排尿困難で尿道の腫瘍が疑われ、膀胱の尿管開口部以下・尿道を摘出して、膀胱にボタン型カテーテルを設置した「ベリーちゃん」
食事もしてくれるのであと数日で退院です。
手術後数日の写真です。膀胱は残してあるのですが、尿道がなくなっているので、膀胱につながるこのカテーテルから1日3回尿を抜いてあげます。病理検査の結果は移行上皮ガンでした。
ベリーちゃんの飼い主様は若いご夫婦です。ベリーちゃんはご主人様がお飼いになっていた子です。
先週の木曜日に、プードルのミックス犬君が排尿障害で来院しました。
その子の名前は「かんた君」保護犬で年齢はわからないのですが、10年前にお飼いになった時に3歳くらいとのことでしたので13歳くらいの男の子です。
すでに去勢手術はしてあり、昨年秋に前立腺の膿瘍ではないかとの診断されたそうです。
エコー検査、レントゲン検査、尿道の細胞診で前立腺の移行上皮ガンが強く疑われました。
既に去勢が済んでいて、前立腺が大きくなり排尿障害を起こす場合には前立腺ガンが疑われます。しかし前立腺ガンは限りなく悪性で、前立腺が大きくなってから何もしなければ半年生存することは稀です。
かんた君は4月の終わりから排尿・排便がうまくいかなくなりました。そして食欲も落ちてきて、来院前数日はほんの一口しか食事を取れていませんでした。
レントゲンでは、前立腺が大きくなっているため、直腸を圧迫して排便障害が起きています。
エコー検査では、腫瘍は膀胱三角に入り込み、尿管開口部にも浸潤しているようでした。そして、腫瘍で尿道が狭窄しているため、尿道カテーテルの挿入もできません。
この状態は、前立腺の腫瘍の本当の末期状態です。かんた君はそのまま麻酔をかけての検査は無理でしたので、そのまま入院して点滴をし、次の日CTになりました。
CT検査の結果は、腫瘍は膀胱の尿道開口部には浸潤していました、そして肺にも直径0,3mmほどの転移が多発していました。
手術は腎臓だけ残して人工的なルートで尿を排泄させる手術です。かんた君は13歳になります。すでに転移もあります。今回の状態を脱出してもかんた君の寿命は短いものです。
飼い主様はどうするかとても迷いましたが、飼い主様はおっしゃったことは、
ここまで状態が悪いとは考えていなかった、このまま何もしないで死んでしまうにはお別れする時間が短すぎる、病気で寿命が短いことは仕方がないがもう少し一緒にいてあげたい。とのことでした。
そして手術は土曜日に行われたのです。
このブログは獣医さんもみているので、術式は以下のようです。
切皮は日大の浅野先生が行なっている、逆U字切開で開腹し、骨盤を恥骨・坐骨の腹側を一旦切除し、尿管近位から・膀胱・前立腺・尿道・陰茎を全切除します。
その後両腎用SUBシステムを用いて、左右のに腎臓にカテーテルを設置して、ポートを皮下に設置し、尾側のカテーテルを陰茎を切除した包皮粘膜から体外に出す方法です。
2年前の動臨研で佐藤先生が発表した方法です。
そして、切除した骨盤の骨を脳外科用チタンプレートで元に戻し、閉腹して終了です。
日本では誰もしていないので、理解しづらいと思いますが、腎臓しか残っていなく、腎臓からチューブで体外に尿を排泄させる方法です。
今日の「かんた君」です。BUNも40まで下がってきていて、排尿もうまくいっています。頑張って元気になりましょうね。
「かんた君」の飼い主様は、「ベリーちゃん」の奥様のご実家です。
尿道の移行上皮ガンが珍しいのに、同じご家族のワンちゃんです。本当に不思議です。