〇 『リル・バック ストリートから世界へ』~極悪のストリートからバレエの世界へ
【Lil Buck From Memphis Streets To World】
ダンス。
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(本作・本文は約3000字。「黙読」ゆっくり1分500字、「速読」1分1000字で読むと、およそ6分から3分。いわゆる「音読」(アナウンサー1分300字)だと10分くらいの至福のひと時です。ただしリンク記事を読んだり、音源などを聴きますと、もう少しさらに長いお時間楽しめます。お楽しみください)
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『リル・バック ストリートから世界へ』~極悪のストリートからバレエの世界へ
【Lil Buck From Memphis Streets To World】
ダンス。
予告編の冒頭流れるのは、アン・ピーブルズの「アイル・ゲット・アロング」。メンフィスを代表するプロデューサー、ウィリー・ミッチェルがてがける作品だ。
映画の途中で、メンフィス出身ではないが、同じくウィリー・ミッチェル・プロデュースによるディープ・ソウル・シンガー、シル・ジョンソンの「アイ・ヒア・ザ・ラヴ・チャイムス」が流れている。音からメンフィスのアル・グリーンかと思ったが、声が出てシル・ジョンソンとわかった。
さて、この映画はそのメンフィスが舞台だ。生まれはシカゴだが、この地のゲットーに育ち、ダンスに生きがいを見出し、そこから這い上がるためにそのダンスに人生のすべてをかける少年の物語だ。
最初冒頭を見て、これは白人が作った映画かな、と思ったら、なんと監督はフランス人だった。別にだからどうということはないが、映像が持つグルーヴ感がちょっと違うなと思った。
映画のタイトルは、『リル・バック ストリートから世界へ』(原題Lil Buck : Real Swan)。リル・バックことチャールズ”リル・バック”ライリー(1988年 5月25日生まれ)が主人公だ。日本では2021年8月27日劇場公開される。一足先に試写で見た。
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Lil’Buck, Real Swan Trailer - ArtMattan Films
予告編(約2分07秒)
(約3分02秒)
https://www.youtube.com/watch?v=dRomqJpvn1Y
(約3分57秒)
https://www.youtube.com/watch?v=AkAeDcEDZZg
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(映画についての多少のネタバレはありますが、大勢に影響はありませんが、完全に観覧以前に情報をいれたくない方はご注意ください。どういう映画か、見るか見まいか迷われている方はどうぞ)
ストリート・ダンス。
メンフィスのダンス・シーン周辺で流行っていた「ジョーキン」というストリート・ダンスに「はまった」リル・バックが、友人たちと踊っていくうちに、これを極める。この「ジョーキン」は、ブラックのR&B、ヒップホップなどをベースにした音楽で踊るストリート・ダンスで、この映画によるとメンフィスが発祥の地だとされる。ロボットのように動いたり、カクカク、クネクネ、人間の体とは思えないほど柔軟に動かす。バックらは、これを地元で踊っているうちに知られるようになり、ちょっとしたプロデューサーに認められ、あちこちで踊るようになる。
バックは一日中暇さえあれば、どこでも踊りの練習をし、足が血だらけになっても、踊りを極めようとしていた。彼らにとって最下層のゲットーから這い上がっていく唯一の方法が、ダンスだった。その世界から上へあがっていく方法は、音楽、ダンス、スポーツくらいだ。
これはかつてアフリカ系アメリカ人たちは、ストリートでコーラスをハーモニーをつけて歌い、ドゥーワップで勝負した。それからストリート・ダンスでバトルをし、そして、ラップでもバトルをした。ブラック・カルチャーの中では歌でも踊りでも、絵でも、相手よりすこしでも何かに秀でていることが必要だ。
地元ではそこそこの評判となったので、バックはエンタテインメントの本場、ロスアンジェルスに向かう。そのときなけなしのお金を渡し、サポートしてくれたのが、母親だった。バックが20歳のときだ。
母親のサポート。
何も考えずにそこで生きていたら、ドラッグ・ディーラーかギャングのメンバーにでもなっていたかもしれない彼らを救うのはそうしたきっちりとした目的、ゴールだ。たとえば、LAでいえば近年のジャズ界で活躍するカマシ・ワシントンら一派は音楽、ジャズでゲットーを出た。そうした目的と同時にそれをサポートする親しい人、メントゥアーとなる人間が重要だ。このリル・バックの場合、まずなにより母親だった。二つの仕事を掛け持ちするシングル・マザー、だが、息子が踊りを勉強するためにLAに行きたいというときに自分のお金を全部息子に渡すというその思いだけで、映画が熱くなる。そして、もうひとり、NBE(ニュー・バレエ・アンサンブル)というクラシック・ダンス・カンバニーの主催者、ジョー・ムルへリンらもリル・バックを大いにサポートした。無料でバレエ・レッスンを受けさせるプログラムを持っていた。
探求熱心なバックは、クラシックのダンスを教える先生と出会い、バレエのコーチにつく。バックは、R&B/ヒップホップのダンスとクラシック・バレエの要素を組み合わせるという斬新なアイデアを思いつく。ほとんど女子ばかりのバレエの世界に飛び込むのも勇気がいった。そして、彼はその「ジョーキン」の要素たっぷりな踊りで「白鳥」を踊るのだ。そして、その後、世界的チェロ奏者のヨー・ヨー・マとの共演を果たし、その様子がユーチューブに乗り爆発的に再生され、パリの有名ブランドのパーティーで踊るようになる。まさに、メンフィスのストリートから飛び出て、世界を舞台にするように成長したのだ。
バッハやストラヴィンスキーなどにあわせて踊るヒップホップのストリート・ダンス。文字で書くのは簡単だが、この二つの融合させた踊りなどこれまでにまったくなかった。リズムから生まれたストリート・ダンスとリズムのないクラシックの融合。一体どう成し遂げるのか。これは映画自体を見ていただくしかない。
フラッシュバック。
彼は親友が銃で撃たれて死ぬところを目撃し、その衝撃が今でも踊っているときにフラッシュバックするという。そして、その衝撃が観客に伝わる、という。それは哀しみなのか怒りなのか絶望なのか。それにしても、リル・バックの身体的肉体的ダンサーとしてのすごさは書き記す言葉を探せない。
そして、映画一本を見終わって感じたことは、ミュージシャンにしろ、ダンサーにしろ、見る側が彼らを型にはめたり、リミットをかけたりしてはいけないということ。
バックがクラシックにも興味を持ったところが、なによりすごいが、そうした子供たちを授業料無償で受け入れたNBEというクラシック・ダンス教室の信念と行動もすばらしい。ヒップホップとクラシックのダンスの融合というまったく新しい地平を切り開いたリル・バックはこれからも大きな活躍をするだろう。
彼の目標はできるだけ長い間、つま先立ちをすることだという。1983年3月、マイケル・ジャクソンが『モータウン25』で見せたつま先立ちは1秒もなかった。しかし、それから5年後に生まれるリル・バックはもっと長くつま先立ちをする。
ルイ・ウォレキャン監督はこの作品を作るために4年かけたという。最初の1年でメンフィスでいろいろな人々に会い、2年目で資金集め、3年目で撮影、4年目で編集、という流れだそうだ。
この映像作品、ドキュメンタリーは2019年までのものだが、リル・バックの挑戦はまだまだ続く。20年後のリル・バックも見てみたい、そう思わせる主人公だ。
これから様々な映画祭にかかるものとみられるが、そのあたりでも多くの話題を集めそうだ。そして、踊り、ダンス、コレオグラフィーなどにかかわっている、あるいは興味をお持ちの方は必見だ。
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公式ホームページ
2020年8月20日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷、シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか、全国順次公開
公開劇場一覧
ツイッター 映画日本公式
https://twitter.com/lilbuck_eiga
監督ルイス・ウォールキヤン
https://twitter.com/LouisWallecan
映画Lil’ Buck: Real Swan リル・バック ストリートから世界へ
米・仏映画 82分
英語
2019年5月までに完成。2019年8月、フランスの映画祭で公開、2019年11月、サンフランシスコ・ダンス映画祭、2020年6月アメリカ・ニューヨーク、トライベッカ映画祭で公開など。
フランス・アマゾンDVD
2020年12月16日発売
8.99E +送料
形式 PAL
https://www.amazon.fr/Lil-Buck-Real-Swan/dp/B08HGPPSGX
PAL形式で記録されているので、PAL再生機がないと日本では視聴できません
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