〇 映画『グリーンブック』~天才黒人ピアニストとイタリア系運転手のソウル・サーチンの物語 | 吉岡正晴のソウル・サーチン

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〇 映画『グリーンブック』~天才黒人ピアニストと腕っぷしの強いイタリア系運転手のソウル・サーチンの物語

 

【Green Book (film): Soul Searching Story Between Genius Pianist & Chauffeur】

 

ロードムーヴィー。

 

映画のエンディング・クレジットが流れるとき、最初の感想は、「なんて、いい話、これは映画にしなきゃ」というもの。実話を元にした映画で、この話を聞いたものはみな「本にしろ」「映画にしろ」と思っただろう。それがクインシー・ジョーンズのお墨付きももらった作品『グリーンブック』だ。イタリア系白人ドライヴァーが孤高の天才黒人ピアニストと人種差別の激しい南部のツアーにでるいわばロードムーヴィーだ。2019年3月1日(金)全国公開される。

 

2019年2月24日(日本時間25日午前)に発表されるアカデミー賞(全24部門)では、「作品賞」「主演男優賞」「助演男優賞」「脚本賞」「編集賞」と5部門でノミネートされており、賞レースでも実際『ローマ(Roma)』(日本公開未定)に続く人気を得ている。ちなみに助演男優賞は本作のマハーシャラ・アリが一番人気、主演男優賞のヴィゴ・モーテンセンは4番手につけている。アリは、2016年の『ムーンライト』で主演男優賞を受賞しているので2作連続受賞の可能性もある。

 

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=awUd_khNEcc#action=share

(約1分46秒)

 

タイトルの『グリーンブック』とは、1936年から1966年まで毎年ヴィクター・H・グリーンという人物が出版した黒人が利用できるホテル、レストランなどの施設をリストアップしたガイド本のこと。1950年代から60年代にかけては特に南部では黒人差別が強く、レストランなどでも黒人と白人は別にされたり、黒人は宿泊できないホテルもあったので、黒人が使えるレストラン、ホテル、ガソリンスタンドなどをリストアップしたこの本は当時の南部を旅する黒人にとってはバイブルのような存在になっていた、という。いわば、日本で言えば、『地球の歩き方』の黒人版といったところだ。

 

左・トニー・リップ役(ヴィゴ・モーテンセン)、右・ドクター・ドナルド・シャーリー役(マハーシャラ・アリ)

 

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大ヒット。

 

『グリーンブック』は予算2300万ドル(約25億3000万円=1ドル110円換算)で製作され、2018年9月11日トロント国際映画祭で初お目見えし、その後2018年11月16日から全米で公開された。すでに4900万ドル以上の興行収入をあげている大ヒット作。

 

監督は主としてコメディ映画を得意とするピーター・ファレリー。脚本は主人公トニー・ヴァレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)の実の息子ニック・ヴァレロンガらが書いている。トニーの実話が元になっている。

 

舞台は1962年。主人公のトニーは粗野で品はないが口がたつことから「トニー・リップ」(リップは口、口先)というニックネームで知られ、さらにその腕っぷしの強さでニューヨークの有名な高級ナイトクラブ、コパカバーナの用心棒を務めているが、店が改装のため2か月ほど閉店するのでその間の仕事を探していた。すると、実在する孤高の黒人天才ピアニスト、ドクター・ドナルド(ドン)・シャーリー(マハーシャラ・アリ)が南部に演奏旅行に行くのでその運転手兼雑用係を探しているという話が舞い込む。

 

黒人に対して差別意識を持つトニーは躊躇するが結局金のために2か月におよぶ旅にでる。トニーはイタリア系でそれほど学もなく、ワイルドでがさつな男だったが、一方、ドン・シャーリーは2歳からピアノを弾き始め、正式な音楽教育を受け、8か国語を操る上品な超インテリ。この2人の道中がなかなかかみあわずにおもしろい展開になっていく。

 

トニー(右)が旅立つところ、妻ドレレス・バレロンガ(リンダ・カーデリーニ)に別れを告げる

 

特に旅が南部に進むと、そこの人種差別と直面し、トニーはそれまでとは考えが少しずつ変わっていく。ドンのちょっとした秘密も明かされたり、ドンが白人とトラブルになったところをトニーが救ったりしたことで、二人の間の友情が芽生える。

 

基本的にはクラシックからジャズを演奏してきたドンは一般庶民が聴くソウルやR&Bになじみがなかった。それを、イタリア系白人のトニーが黒人のドンに教える、といった文化のねじれ現象も実におもしろく描かれる。

 

ドン・シャーリーのトリオ。ピアノはスタンウェイしか弾かない

 

「リトル・リチャード、アレサ・フランクリン、サム・クックも知らないのか」とトニーに言われるドンはケンタッキー・フライド・チキンもその食べ方も知らない。

 

インテリで教養もあるドンは、トニーが旅先から妻におくる手紙の書き方を指南する。スペルも文法もデタラメな文章が見事なラヴレターに大変身していく

 

このピアニスト、ドン・シャーリーについてはあまり詳しいことは知られていないということだが、クインシー・ジョーンズはニューヨーク時代、1950年代後期にクインシーがアレンジの仕事をしていた頃、会って知っていたという。その時から彼はすごかったとクインシーも言う。

 

左からマハーシャラ・アリ、クインシー・ジョーンズ、ピーター・ファレリー監督(ショービズ411サイトから)

 

いくつも感動ポイントはあったが、エンディングはもちろんのこと、僕が感動したポイントのひとつが、後半のアラバマ州バーミングハムの安酒場(ジューク・ジョイント)のシーン。ドンは、黒人であるがゆえに演奏会場のレストランで食事ができなかったため、演奏をキャンセル。町の酒場にでかけ、そこのハウスバンドと一緒にダンス・ナンバーをジャム・セッションする。自分がそれまでやってきたジャズやクラシックなどの、ちょっと高尚なものではなく庶民の音楽を彼はほとんど知らなかったが、そのときのノリでバンドメンバーと一緒にやるのだ。静かな会場でスタインウェイのピアノを弾くのとはまったく違う、酒の入ったグラスが置かれた調律のはずれたピアノでの演奏はまったく違うものだったが、彼はそれを楽しんだ。

 

ジュークジョイントでのジャム・セッション

 

ロードムーヴィーであり、人種差別と友情を描く作品であり、文化の違い、育ちの違う一見接点もないような2人がこの旅の中でそれぞれソウル・サーチンする、そんな映画だ。自信をもって大推薦する。

 

実在した二人は、この旅を機に生涯の友となり、トニーは2013年1月4日に82歳で亡くなり、ドン・シャーリーは2013年4月6日86歳でトニーの後を追うように亡くなった。

 

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個人的には、マハーシャラ・アリが僕と誕生日(2月16日)(1974年、44歳)が同じだったことで、一気に大ファンになった。

 

また、2019年2月7日(木)放送の『ナイト・サーチン』(ミュージックバード、22時から生放送『ザ・ナイト』内)でもご紹介する予定です。

 

■日本版公式ページ

https://gaga.ne.jp/greenbook/

 

■公開

2019年3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

 

●監督:ピーター・ファレリー

 

●出演:

ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ

 

●提供:ギャガ、カルチャア・パブリッシャーズ

●配給:GAGA

●原題:GREEN BOOK/2018年/アメリカ

●上映時間:130分

●公式サイト:gaga.ne.jp/greenbook

 

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■サウンドトラック盤

 

舞台が1962年ということもあり、1962年頃までのヒットが次々と出てくるので、ちょっとしたオールディーズ・ファンも楽しめる。サントラも日本で出るが、ここに収録されていない曲のリストもある。

 

Songs and music featured in Green Book (2018):

https://www.tunefind.com/movie/green-book-2018

 

サントラ日本盤

https://goo.gl/AuRHP6

 

CD (2019/2/27)

ディスク枚数: 1

レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン

曲目リスト

ディスク:1

  1. ザット・オールド・ブラック・マジック

  2. 881 セヴンス・アヴェニュー映画『グリーンブック』

  3. ソー・ロング・ラヴァ-ズ・アイランド

  4. ドクター・シャーリーズ・ランゲージ

  5. アイ・フィール・ファイン

  6. ア・レター・フロム・ボビー

  7. ユー・トゥック・アドヴァンテージ・オブ・ミー

  8. ブルー・・スカイズ

  9. ディアー・ドロレス

  10. ヴァケイション・ウィズアウト・アグラヴェイション

  11. クッキン

  12. ホワッチャ・ゴナ・ドゥー

  13. ウォーター・ボーイ

  14. ディアレスト・ワン

  15. フィールド・ワーカーズ

  16. アイ・ガット・ア・コール/ジ・エクセプション

  17. メイキャップ・フォー・ウーンズ/イッツ・ア・コンプリケイテッド・ワールド

  18. ハッピー・トーク

  19. アイ・ラヴ・マイ・ベイビー

  20. ガヴァナー・オン・ザ・ライン

  21. ニード・サム・スリープス

  22. メイク・ザ・ファースト・ムーヴ

  23. ララバイ・オブ・バードランド

  24. レッツ・ロール

  25. ブラックウッド・ブルース

  26. ザ・ロンサム・ロード

  27. ウーム・ラヴ

  28. サンクス・オフィサー

  29. イフ・ユー・ウォント・ミー・トゥー

  30. サンキュー・フォー・ザ・レターズ

  31. ザ・ロンサム・ロード

 

アルバムの説明

 

『メリーに首ったけ』のピーター・ファレリー監督作、映画『グリーンブック(原題:GREENBOOK)』のオリジナル・サウンドトラック。映画の中で重要な位置を占める音楽を手掛けるのは、ジャズ・アーティストでありながらも、カニエ・ウエストやア・トライヴ・コール・クエストなどヒップホップ/R&Bアーティストとも幅広くコラボレートしているクリス・バワーズ。ジュリアードで学士号を取得し、ジャズ界最大のコンテストと言われるセロニアス・ モンク・コンペティション2011年優勝者である彼は、ジャズ・ピアニストとしてだけでなく、ドキュメンタリー作品『シーズ・オブ・タイム』やTVシリーズ『ディア・ホワイト・ピープル』などのサウンドトラック・スコアも手掛けるなど、幅広く活躍している。本映画『グリーンブック』でも、ジャズにインスパイアされたスコアを中心に、1960年代初めのドゥーワップ・ナンバーや、ドン・シャーリー・トリオ名義の楽曲が収録されている。 (C)RS

 

ドン・シャーリーのCD→

https://goo.gl/SBhNEC  

 

 

この原稿書く間も、ずっとこれを流してた。

 

 

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