◇映画『大統領の執事の涙』~リー・ダニエルズ監督インタヴュー | 吉岡正晴のソウル・サーチン

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◇映画『大統領の執事の涙』~リー・ダニエルズ監督インタヴュー

(おしらせ=昨日のストーンで行われたトークショーについては、明日以降のブログでセットリストも含めて詳細にご紹介します)

【Lee Daniels Interview】

雄弁。

2014年2月15日(土)から公開される映画『大統領の執事の涙(原題、Lee Daniels’ The Butler)』を監督したリー・ダニエルズが初来日。ほんの20分ほどだったが、「ソウル・サーチン・レイディオ」用にインタヴューすることができた。また同じ日、夜、有楽町の楽人記者クラブでも記者会見が行われ、それにも出席し、質疑応答を聞いた。

映画『大統領の執事の涙』は、南部の黒人奴隷だった両親の間に生まれた子供セシルが、外での労働から家の中での手伝いになり、ホテルで働くようになり、そこから出世してホワイトハウスで働き、ついには大統領に仕える執事にまで出世するという話。1900年代初頭から1980年代くらいまで、8人の大統領に仕えたという実話を元にした映画。

当初は製作が難航し、どこのメジャースタジオも製作にゴーサインをださなかったため、41人ものプロデューサーから製作資金を集めた。結局、3000万ドル(約30億円)の予算を集め製作、現在まで大ヒットし、1億6000万ドル以上(160億円)の興行成績を収めている。

時代が時代だけに、人種差別をまっこうから描き、さらにそこに主人公セシルとその息子との間の「父子の確執」も描く。

個人的に僕はこの父子の描写はとても気に入り、映画としてもお勧め作品になった。また、1950年代から1970年代にかけてのブラック・ミュージックが存分に映画の中でもながれるので、そうした音楽好きにもたまらない展開となっている。

http://butler-tears.asmik-ace.co.jp/

Lee Daniels' the Butler
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20分。

当初インタヴュー時間は20分、若干のびて25分になったが、その部屋に入ると、本人はアメリカと電話をしていたようで、それがちょっと長引き、正味は20分もいかなかった。

最初にラジオ用のIDをもらい、話を聞くことにした。

すると、「君のラジオ番組はどんな曲をかけるんだ?」というので、「ソウル・ミュージックだ」と答えると、「たとえば?」と矢継ぎ早にきかれたので、「オージェイズやグラディス・ナイト…」などと答えた。すると、「いま、音楽番組の企画がある、まだ詳しくは話せないんだが…」「僕はフィラデルフィア出身で、フィラデルフィア・サウンドは知っているか…」などといきなり早口でまくしたてた。

かなりの音楽好きの様子で僕は嬉しくなった。さて、映画を見て、音楽の点で感じたことは、どう考えても、この映画ならどこかにサム・クックの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」が流れるだろう、ということだった。それほど、この曲がどんぴしゃに思えたからだ。

そこで最初にそのことを尋ねた。

「この映画のどこかで、『ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム』が流れると想像していたんです」

「でも、流れなかっただろ」

「でてきませんでした。なぜですか、特に理由はあるんですか?」

「それは、だれもが想像する、予期する曲だからだ。僕は誰もが予期するような映画は作りたくないんだ。誰も予期しないようなものを作って、みんなを驚かせたいんだ。誰もが予期できるものは、誰でも出来るだろう?」

とびしゃりと答えられた。

一方、ジェームス・ブラウンの「アウト・オブ・サイト」が流れたが、他の曲も考えましたか、と聞くと、「1964年という時代が設定されていたので、あの曲になった」との答え。つまり、そのシーンの時代が1964年だったので、ジェームス・ブラウンのヒット曲の中から1964年のヒットが選ばれたようだ。

「ジェームス・ブラウンの曲を使わない映画なんて考えられないよ。ジェームス・ブラウンの映画が企画されてるんだろう。その監督を殺して、僕が代わりに作りたいほどだ。(笑) ジョークだけどね」

「音楽はとても大事だよ。僕の父と母が踊っていた曲『クローズ・マイ・アイズ』~ダイナ・ワシントンもこの映画で使ったからね」

「ショーティー・ロングのファンクション・アット・ザ・ジャンクションは、あの曲で踊ったことをよく覚えてるんだ」

彼とのインタヴューは、むしろ、対談のようになりそうだった。

「1960年代、シドニー・ポワチエが出てきたブラック・ムーヴィーがあった。1970年代になっていわゆる『ブラック・エクスプロイテーション・ムーヴィー』がでてきた。そして、1980年代になり、スパイク・リーがでてきて、ジョン・シングルトンや、多くのブラック監督がでてきた。そして、いまあなたがいる。あなたはこの流れの中で、どういう位置にいると思うか」と質問した。

すると、「君はどう思うんだ? 僕はどのカテゴリーに入る? どこにはいるんだ?」とすごい勢いで逆質問された。

「いや、『プレシャス』と今度の『バトラー(大統領の執事の涙)』を見て、それまでと違うから、どうなのか、ずっと考えてわからないから、いま質問してるんですよ(笑)」

「君にききたい、ぼくはどのジャンルにはいるんだ。プリ・スパイク・リー(以前)かアフター・スパイク・リー(後)か」

詳細を英語で語れないので困った僕は、「たぶん、今までのカテゴリーやジャンルにははいらないのではないか。しいていえば、リー・ダニエルズというジャンルだ。たとえば、音楽の世界でいえば、ジェームス・ブラウンはもちろんファンクを生み出した人だが、『ジェームス・ブラウン』というジャンルを作った」

「プリンスもだろ」

「そう、プリンスも。スティーヴィー・ワンダーも。そういう意味で、あなたはリー・ダニエルズのジャンルを作った」

「はっはっ~~~、君は面白いな。僕をジェームス・ブラウンやプリンスと並べて語るんだな。気に入ったよ」

「まあ、そうですね(笑)」と、少しもりすぎたかな、とも思ったのだが、うまく細かいニュアンスを説明できなかったので、そうだそうだ、とまとめてしまった。(笑)

最近、『42』『それでも夜は明ける(12 Years A Slave)』『ソウル・ガールズ(The Sapphires)』など人種差別を描いた映画が多いが、これはなぜだとおもうか、と尋ねたら、「君はどうおもう」とまた聞かれて、今度は本当に答えに窮した。

(この項、続く)

■ リー・ダニエルズ・インタヴューは、2月18日(火曜)放送の「ソウル・サーチン・レイディオ」(インターFM、76.1mhz、午後8時~10時生放送)の「フィーチャード・アーティスト」のコーナーでご紹介します。番組では、映画の劇場鑑賞券もプレゼントします。お楽しみに。

■映画サウンドトラック(輸入盤)

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