◎ナイル・ロジャーズ&シック~ナイルにとっての特効薬~ナイルと日本の絆がスパークした瞬間  | 吉岡正晴のソウル・サーチン

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◎ナイル・ロジャーズ&シック~ナイルにとっての特効薬~ナイルと日本の絆がスパークした瞬間 

(ツイッターで速報したものに加筆修正しました)

【Nile Rodgers & Chic At Countdown: The Moment Sparks Love Between Nile & Japanese Fans】

カウントダウン。

確かにいわゆる「親日派」というアーティストはいる。だが、本当に日本が好きで、年に2回もやってくるアーティストとなるとなかなかいない。このナイル・ロジャーズ&シックも過去2年で4回の来日を誇る。なぜ彼はこれほどまでに日本にやってくるのか。

ナイルは「ソウル・サーチン」のインタヴューで、「(アメリカなど他の場所だと)僕たちのヒット曲しか聴いてくれないが、日本では僕がてがけた曲や、ちょっと珍しい曲もちゃんと聴いてくれる。日本はアーティストを尊敬してしっかり耳を傾けてくれるから好きだ」と語る。

しかしそれ以上に日本とは、ファンの方はご存知の通り、ナイルの親友バーナードが旅立った場所であり、自分が癌になりそこから復活する第一歩を記した場所だ。別れの街、再出発の街~東京・ジャパン。それがナイルにとって特別な気持ちを抱かせる。

そんなナイルにとって、今回の来日は年末(2012年12月28日)から年始(1月2日)にかけてのカウントダウン・ライヴだ。そして31日大晦日セカンド・ショーはカウントダウン・パーティーだった。

夜11時きっちりにホーン・セクション、パーカッションらが「ハンギン」を演奏しながら通路を舞台に進む。否が応でもパーティー気分は盛り上がる。いきなりファンは総立ちだ。そして、全員がステージに上るとノンストップでいきなりおなじみの「エヴリバディー・ダンス」だ。

大きなミラーボールと中くらいのミラーボールが会場のブルーノートに無数の星屑を照らす。次々と間断なく惜しげもなく繰り広げられるヒット曲の数々。一緒にいった友人が「これも、ナイルが作ったんですか」「これもですか」と曲は知っていたが、ナイルがやっていたとは知らずに大変驚いていた。ちょうど、ダイアナ・ロスからのメドレーのあたりだ。

シックのヒットだけでなく、彼がプロデュースした作品も多いが、一般的にはそれをナイルが作ったことは知られていない。たぶん、そうしたことをしつこく知らせていくのも、僕らのような人間の使命なのであろう、と改めて思った。

31日は超満員、立ち見多数のカウントダウン。12時2分ほど前から「蛍の光Auld Lang Syne」をやって、10秒前からカウントダウン開始。「5―4-3-2-1-0」。「0」の発声と同時に「ハッピー・ニュー・イヤー!」の掛け声と無数のクラッカーが炸裂。その煙でむせるほどだった。そして、いきなり「シック・チアー」へ。曲もどれもやりなれているためバンド演奏は確実でタイトでグルーヴ感たっぷり。おしゃれな歌と演奏で見せることは間違いない。その後、今回初めてやるインエクセスの「オリジナル・シン」。

スパーク。

「ル・フリーク」の後ナイルはいつもの通りメンバーを紹介した。メンバー全員を紹介し、テリー(ギター・テック=ナイルのギターのめんどうを見る人)、ブルーノートのスタッフらにも大きなシャウトアウトをすると、観客から自然発生的に「ナイル! ナイル!」の掛け声が一拍子で出始めた。

「ナイル! ナイル!」 カウントダウンで興奮した観客のそれがだんだんと大きくなる。するとナイルは観客に背を向けた。なんとナイルは感極まって涙を流していたのだ。

一息おいて正面を向いたナイルの目は、後ろをむいたときに拭いたのか、それでも少し赤く潤んでいた。

おそらく、ナイルの脳裏にはここ2年くらいの様々な思いが去来していたのだろう。2010年10月の癌告知、2011年1月の手術。そこからのリハビリ。ブログでの発表、以後毎日のブログ執筆。2011年3月11日の東日本大震災。多くの海外アーティストが来日を取りやめる中、ナイルは2011年4月の来日ライヴ・ツアーを予定通り敢行。それはバーナード逝去から15周年の節目でもあり、ナイル本人の癌からの奇跡の復活を証明するためでもあった。そして、2012年恒例の4月来日、さらにカウントダウン・ライヴでの再来日。

この2年間に4度も日本の地を踏むほど、ナイルは日本が大好きで、日本のオーディエンス、ファンを愛しているのだ。そして日本のファン自身もみなナイルのことが大好きだ。

そうしたことがすべて「ナイル! ナイル!」のシャウトアウトに凝縮した。ナイル自身もまた、背中合わせにある死の恐怖とともに新しい2013年という年を迎えることができたことに感慨深いものがあった。そうした感情すべてがこのときナイルの涙腺を決壊させたのだろう。それはナイルと日本のファンの絆がスパークした瞬間でもあった。

そして彼はちょっと震えた声で「That’s why you have a good times (みんなが良い時=グッド・タイムス=を過ごしてくれるおかげだ、そんなわけで、グッド・タイムス)」とだけ言って力を振り絞って「グッド・タイムス」のギター・リフを弾きだした。

それを見た観客がまたもらい泣きしてしまうという連鎖まで引き起こした。なんというカウントダウン・ライヴだろうか。

そして「グッド・タイムス」をバンドが終えると、再びホーン・セクションが「ハンギン」のリフを吹きながら、ラルフがカウベルを叩きながらファンにもみくちゃにされ通路を楽屋へ戻っていった。

一番最後にステージを降りたナイルは、途中ファンと握手をしたりハグをしたり、なかなか楽屋にたどり着けない。感激した彼は、疲れているので当初の予定ではやらないことになっていたサイン会を急遽することにした。

なかなか楽屋にたどり着けないナイルを見て、マネージャーのピーターはたまりかねて、「ナイルは今から上に上がってサイン会をします。サイン会をしますからそちらに行ってください」と叫んだ。

特効薬。

ナイルはCDやフライヤーに次々とサインをし、一言二言おしゃべりをしファンと一緒に写真に収まる。ファンの中には前回以前にナイルと撮った写真を焼いてそれにサインを求める者もいた。ナイルはそれぞれのファンにゆっくり時間を取るために長い列はなかなか進まず、結局サイン会は1時間半近くかかり、最後のファンのサインを書き終えると時刻はゆうに午前2時を過ぎていた。

そしてナイルは東京のライヴでのファンの写真などを次々と彼のブログにアップする。

ナイルとナイル・ファンの交流の熱さ・厚さは他のアーティストの比ではない。これほどスーパースターなのに、これほどファンと積極的に接するアーティストを僕は他に知らない。

おそらく、ナイルはステージ上のミュージシャンも、観客席の観客も、スタッフもみな「僕たち・私たちのファミリー」と考えているのだろう。

そして、客席のファンからもらうエネルギーが、自分自身の健康の源となり、それが自分をもう一日、もう一ヶ月、もう一年、生かし続けてくれる力となっていることを知っているのだ。それはどんな強力な癌特効薬よりも、ナイルの体によく効くのである。だからナイルは1年あけずに日本に「治療を受け」にやってくるわけだ。

大晦日のカウントダウンから新年へ。この日は「ウィ・アー・ファミリー」が名実ともにナイルと彼の第二の故郷・日本のファンとの共通のテーマ曲ともなった夜だった。ナイルとファンにとっての新年が明けた。そして両者のバックに流れるのは、「グッド・タイムス」だ。

■ ナイル・ロジャーズ、「ソウル・ブレンズ~ソウル・サーチン」に生ゲスト登場
(期間限定でポッドキャストにアップしてあります。約46分)

https://soundcloud.com/soul_searchin_12/soul-searchin-radio-12-30-2012

■ ナイル・カウントダウンの様子(約3分)

http://www.youtube.com/embed/Lwc58Z-YN74



■ セットリスト
Setlist : Nile Rodgers & Chic, December 31, 2012 @ Bluenote Tokyo

show started 23:00
01. Hangin (horn section walking down through isle to the stage)
02. Everybody Dance
03. Dance, Dance, Dance (Yowsah, Yowsah, Yowsah)
04. I Want Your Love
05. Medley: (5)-(10) I’m Coming Out
06. Upside Down
07. He’s The Greatest Dancer
08. We Are Family
09. Soup For One ~ Lady (Hear Me Tonight) ~ Soup For One
10. Like A Virgin
11. Let’s Dance
12. Lost In Music
13. Notorious
14. Thinking Of You
15. Open Up (prepared for countdown)
16. Auld Lang Syne (蛍の光)
--. Happy New Year
17. Chic Cheer
18. My Forbidden Lover – a riff of Crazy In Love
19. Original Sin [Inxs]
20. Le Freak
--. Members introducing
21. Good Times – Rappers Delight – Good Times
22. Hangin’ (horn section walking down through isle to the backstage)
Show ended 0:38

■メンバー

Nile Rodgers(g,vo)
ナイル・ロジャーズ(ギター、ヴォーカル)
Kimberly Davis-Jones(vo)
キンバリー・デイヴィス・ジョーンズ(ヴォーカル)
Folami(vo)
フォラミ(ヴォーカル)
Bill Holloman(sax)
ビル・ホロマン(サックス)
Don Harris (tp)
ドン・ハリス(トランペット)(今回初参加)
Rich Hilton(key)
リッチ・ヒルトン(キーボード)
Selan Lerner(key)
セラン・リーナー(キーボード)
Jerry Barnes(b)
ジェリー・バーンズ(ベース)
Ralph Roll(ds)
ラルフ・ロール(ドラムス)

エヴリバディ・ダンス!
オムニバス ナイル・ロジャース シック
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(2012年12月31日月曜、東京ブルーノート、ナイル・ロジャーズ&シック・ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Chic, Rodgers, Nile