みやざき中央新聞をご存じですか?
その社説が口コミで全国に広がっている新聞。

その感動的な社説集が書籍化されています。
『日本一心を揺るがす新聞の社説
今日はその一章をご紹介します。

~どんな仕事も原点は心をこめて~

元夜間中学校教師 
松崎運之助(みちのすけ)さんの話を聴いた。

夜間中学校は、戦前、戦後の貧しい中で、
十分な教育を受けられなかった人たちの為の学校だ。

そこで読み書き、計算など、小学校レベルから教えてくれる。

国語の授業で、
松崎先生は「ハガキを書く」という宿題を出した。

何でもいいからハガキの裏に好きなことを書いて投函する。

宛先は松崎先生のアパートだ。

数日後、先生のアパートに次々とハガキが届いた。
ただ一人、イノさんからのハガキだけが届かない。

イノさんは、当時30代の左官職人だった。

「ちゃんとポストに入れたのに・・」イノさんは残念がっていた

ハガキのことを忘れた頃、
一枚の不思議なハガキが松崎さんのアパートに届いた。
何度も書いたり消したりしたらしく、
住所のところは黒くなって、殆ど読めなかった。

「まつざきみちのすけさま」
という文字だけがかろうじて読めた。

「こんなので届くわけがない。なんで届いたんだろう」
と松崎さんは思った。

よく見ると、ハガキの隅に地図が書いてあった。
「やきとりや」と書かれ、
そこから矢印がアパートの絵に伸びていた。

そして3番目の部屋が塗りつぶしてあり、
「ここ」と書かれていた。

「せっかく住所を書く練習をしたのに、
なんで地図なんか書いたの?」と聞くと、

「やっぱり目印があったほうが配達しやすいんだよ」とイノさん。

数年後、
松崎さんはこの話を地域の公民館の講演会で話した。
講演後、一人の男性が近寄ってきた。
顔を見たら目が真っ赤になっていた。

「先生の今日の話にどれだけはげまされたかわかりません」
とお礼を述べた。

男性は長年、郵便配達をしていた。
一軒一軒手紙を運ぶ仕事に誇りと喜びを感じていた。
どんなに読みにくい字も、想像力を働かせながら読み取り、
必ず宛先まで送り届けた。

それが彼にとって「心をこめて仕事をする」ということだった。

台風の日も、年末年始も、休まず配達を続けた。

一日の仕事が終わると、
みんなでお茶を飲みながら「あそこのばあちゃんが・・」とか、
「あそこの娘さんが・・・」と、地域の話題に花が咲いた。

やがて職場に郵便番号を読み取る機械が導入され、
合理化が進んだ。
配達の仕事は学生アルバイトでもできるようになった。

気が付くと同僚たちはいろんな部署に配置転換されていった。
男性は配達の仕事に喜びを感じなくなっていた。

そんな時、松崎さんの話を聴いた。

地図付きのハガキの話を聴いて、
昔の懐かしい思いが込み上げてきました。
普通ならそんなハガキは「宛先不明」で処理すればいいんです。

だけど、その配達員はきっとそのハガキを手にした時、
自分の原点を思い出したんだと思います。
『これを必ず届けなきゃ』って。
私にはその気持ちが分かるんです」
と男性は涙をボロボロこぼしながら話した。

どんな仕事でも今や
IT化やデジタル化など合理化は避けられない時代である。

だが、どんなに状況が変わっても、
「心を込めて仕事をする」、
やっぱりこれが仕事の原点だと思う。

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自分の仕事に誇りと喜びを感じるのは、
自分の心しだい。


そして、そう思えるために必要なのは、
心を込めて仕事をする、ということでしかない。

そうしていくことで、
自然に自分の中に誇りと喜びが育まれ、
やがて未来は自然に拓かれていく。


未来を切り拓いていくために、
今日も心を込めて目の前の仕事と向かい合いたいと思います。

自分の神話の歩き方 5月13日配信号より