「作る側の論理」から「評価する側の視点」へ。

IT技術者や診断士こそ読むべき、銀行融資の思考アルゴリズムを解き明かす一冊。

 

川居宗則 著『90分でわかる! 融資を引き出す事業計画書の作成術―元銀行支店長の視点と生成AIサポートのヒント』

 

 

 

本書は、事業計画書を「銀行からどう見られているか」という一点に、極めて誠実に向き合った一冊である。元銀行支店長という立場から語られる内容は、単なるノウハウ集にとどまらない。「金融機関という組織の思考様式」そのものを理解させてくれる点に、本書の真価がある。

 

1. 銀行への理解を深める一冊として

「大学生の頃に本書を読んでいたら、金融機関への進路を本気で考えていたかもしれない」――そう思わせるほど、本書は銀行融資の仕組みをわかりやすく、かつ誠実に解説している。融資とは単なる資金供給ではなく、金融を通じた社会貢献であること。銀行員がどこを見て、何に責任を負って判断しているのか。その背景が、腹落ちする形で描かれている。

金融機関の仕事に漠然としたイメージしか持っていない学生にとって、本書は「働く意味」まで含めて理解を深められる良書だろう。

 

2. 中小企業診断士・コンサルタントの視点から

支援先の事業計画策定や補助金申請に関わる立場で読むと、本書は極めて実務的だ。計画書を「作る側の論理」ではなく、「評価する側の論理」で再点検する視点を与えてくれるからだ。

実務補習や実務従事の現場では、銀行員や営業出身者が多く、私のようなIT技術者や研究者出身は少数派であることを実感する。本書は、その“多数派の思考回路”を言語化してくれる。結果として、経営者に響く説明や、金融機関に伝わる構造的な計画書を描くための「共通言語」を得ることができる。

 

3. 自らの事業を形にする人のために

独立診断士、あるいは将来の起業を考える立場で読むと、本書の内容は鋭く「自分事」として刺さる。過去のビジネスコンペやハッカソンで、あと一歩及ばなかった経験を振り返ると、リーンキャンバスやビジネスモデルの“詰め”が甘かったのではないかと、冷静な内省を促された。

また、金融庁の「経営者保証改革プログラム」にも触れられており、事業計画の質が経営者自身を守る盾になるという指摘は、非常に重く、実感を伴って響く。

 

4. 生成AIとの絶妙な距離感

生成AIに関する記述も、本書の特筆すべき点だ。流行に寄りすぎず、本質を突いた内容に留められているため、1年後に読んでも色褪せることはないだろう。

「ツールを使えば答えが出る」という安易な姿勢は一切ない。あくまで自身での壁打ちと熟考を前提とし、AIはその「補助輪」であるというスタンスが一貫している。進化の早い分野だからこそ、コミュニティ(診断士協会など)で情報交換しながらキャッチアップする重要性についても、改めて認識させられた。

 

5. 立場に応じて得られる多層的な学び

本書は、読み手のフェーズによって得られる示唆が変化する。

  • 大学生: 金融機関の仕事の本質を理解し、職業選択の解像度が上がる。
  • 営業・コンサル: 顧客に響く提案の構造が分かり、説得力が高まる。
  • 事業責任者: 事業計画の精度が上がり、組織内での合意形成がスムーズになる。
  • コンペ応募者: 採択に足る「ビジネスの堅牢性」を検証できる。
  • 将来の起業家: 融資のシミュレーションを通じ、経営のリアリティを掴める。

90分というコンパクトな読書時間の中に、これほど多層的な価値を詰め込んだ手腕は見事である。

事業計画書を単なる「通すための書類」ではなく、「対話の道具」として捉え直したいすべての人に、静かに、しかし強く勧めたい一冊だ。