時間指定遵守率は驚異の10%以下に

ヤマト本社の方針転換による、現場で働く人間の悲鳴を、集英社オンラインはこれまで5回にわたって届けてきたが、今回の取材では「CD」(クールドライバー)に関する杜撰すぎるシステムが明らかになった。

「CD」とは、従来、「集荷」「配達」「営業」を兼ねていたセールスドライバーが分業制となって登場したクール宅急便(低温度帯での管理が必要な荷物)専門のドライバーのことだ。

それにしても、ヤマト本社はなぜドライバーの役割を分業制にしたのか。都内のセンター(営業所)でセンター長を務める男性はこう語る。

「近年、クロネコDM便などの小型荷物の配送は、サービス単価も低く利益が出しづらい不採算部署になっていました。それが今回の“クロネコメイト・パート切り”というコストカットにつながったわけですが、本社はドライバーに関しても利益の効率化に躍起になってます。その結果が都内の一部の主管(エリア)で去年の8月ごろから始まったドライバーの分業制なんです」

しかし、これが現場からは批判の嵐だという。

「CDは配達遅延の多さが尋常じゃなく、他のドライバーの間では『運送業のあるべき姿として許されない』『システムが崩壊している』とも囁かれています。ヤマトは指定された時間どおりに配送できたかデータを取っていて、僕の知るかぎりで時間指定遵守率の平均は97%ほど。

お歳暮やおせちなどの配送が多くなる7月と12月の繁忙期ですら、90%を下回ることはありませんでした。それがCD発足当初は10%以下という数字を叩きだしたんです」(同)

CDに関しては、集英社オンライン編集部にも利用者から多くの情報提供があり、「クール宅急便の午前指定を頼んだら夕方に来たことがあり、非常に迷惑だった」(都内23区・40代男性)といった声も届いている。

 

C表とは時間指定の荷物を時間外に配達してしまった際に記録されるもので、多発すれば給料にも響いてしまう。このドライバーも当初は遅配をして届け先から怒鳴られる日々だったという。

「個人のお客さんから怒鳴られるのはもちろん、飲食店向け食材のクールが遅れるとランチ営業に支障をきたしかねない。飲食店のオーナーに『なんで遅れるの? 本当に困るんだけど!』と店前で詰められたこともありました。

だからCDたちは配達遅延にうるさいお客さんの時間指定だけは守り、優しい人は後回しにしてごまかしながら回っているのが現状。実際、私も午前指定が重なる日は、優しい人の家に午後3時に配ったこともありました……」

さらに、少しでも効率的に回れるようにと、荷物の「玄関先放置」をしてしまうこともあるという。これは「時間指定無視」「対応悪し」と並ぶ“ヤマトの三悪”のひとつと言われている。

「飲食店のシャッターが開く前に、軒先にクールを置いて配完(配達完了)にしてしまうドライバーもいるそうです」(同)

 

 

優しい人への配達は後回し

なぜCDでこのようなトラブルが相次いでいるのか。前出のセンター長が言う。

「CDの同僚の話では荷物が多すぎるから時間指定を無視し、担当エリアを一筆書きのように回るしかないドライバーもいるようで、『あまりにも仕事が辛すぎる』と嘆いていました」

また、本社から辞令が下りて都内でCDとして働くようになった正社員のドライバーは怒りをにじませながら説明する。

「CDは配送エリアがとにかく広いから、時間指定を気にしていたら荷物を配り終えることができない。もともとヤマトは各地にセンターを構えていて、ドライバーひとりあたりの担当区域が狭いので、クール(宅急便)の時間指定にも対応できました。

それが分業制となり、クール専門となったことでCDはひとりで3〜4センターのエリアを担当しなきゃいけなくなった。範囲が広がればそれだけ荷物の数は増えるし、担当区域の端と端で、同じ時間指定を希望するお客さんも出てくる。

おまけに都内23区は、パーキングエリアにトラックを停めて台車で配達しないといけない場所が多い。なので、現場では『C表』が出まくってるんです」

 

置き配に関しても編集部に情報が寄せられており、「勝手にクール宅急便が置き配されていて、中身が溶けていた」(新宿区・50代女性)、「エントランス外の駐車場にクール宅急便がしょっちゅう放置されていて、利用者はドライバーに文句を言うと『センターが集約化されて、朝から夜までの配達分を持ってくる必要があるのでしかたない』と返された」(都内23区・性別不明)という状況のようだ。

 

上司が配達記録の改ざんを指示

また、都内の一部主管エリアのCDは東京モノレール「流通センター駅」から徒歩15分ほどの「低温輸配送センター東京南エリア」(今年6月に開設された保冷専用大型拠点)に出勤し、そこで荷物を詰め込んでから担当配達区域へトラックで向かわなくてはならないという。そのため、多くのCDは通勤時間が長くなっているそうだ。

 

「それまでは主管の近くに住んでいたから通勤時間も大したことなかった。それが今は通勤に1時間半。そこから首都高を1時間ほど運転してようやく配達を始められます。まさに二度手間です。

1日の勤務時間が長い分、週休3日のシフト制になってますが、勤務日は1分も休憩がとれない日も珍しくない。疲れ切っているので単発休みは一日中寝て終わってしまいます。

同僚も『休日に家族サービスをする元気もない』と嘆いていましたよ。それなのに以前よりも給料が下がるんですから、モチベもクソもありませんよ」(前出、CD)

このドライバーを含め、上司に「配送エリアを狭めてほしい」「CDの稼働人数を増やしてほしい」と業務改善を求めるCDもいるが、一向に聞き入れられる気配はないそうだ。

「だからコインパーキングにトラックを停めて台車で配るのではなく、宅配先で路上駐車して少しでも生産性を上げようとしてます。5分以上路駐するのですから、みんな切符を切られる心配をしながら担当エリアを配達しなくてはいけない。

そのくせ上司は、『C表を出すな』としきりに口にしていて、C表が出そうな配達表には『時間どおりに配ったことにして』と記録の改ざんを指示してきます」(同)

クール宅急便で食中毒事故のリスクも…

そして、遅配よりもさらに重大な問題が起こっているという。それがクール宅急便で送られる食材などの品質の低下だ。

「CDが乗る『クール車』と呼ばれるトラックは、荷台全体が冷蔵スペースとなっており、その中に冷凍庫が設置されています。しかし、CDは大量のクール便を積まなくてはいけないため、要冷凍の荷物が冷凍庫に入らないこともある。

そういうときは午前指定のものに限り、冷蔵スペースに置いてしまうことがあります。今は冬なので“解凍事故”は起きてませんが、夏にはどうなることやら……」(同)

 

クール車に入りきらなかった荷物は業務委託者のドライバーに頼むことになるというが、その配達方法も杜撰だという。

「社内免許を持っていないとヤマトのトラックやクール車に乗ることができないので、委託業者の方たちは、自前のハイエースや軽バンでクールを配達するんですが、そういった車には冷蔵庫や冷凍庫といった設備がない。

でも、クール便には鮮魚やカニ、生牡蠣だって入っている。夏場は下手したら食中毒の事故だって引き起こしかねませんよ」(同)

クール宅急便の荷物も、配達に関する問題も山積みのCD。しかし、本社に振り回されているのはセールスドライバー(SD)も一緒だった。次回はSDの悲鳴を紹介する。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班